コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.521 )
- 日時: 2013/10/07 22:46
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第18章 今日、私は告白をします
〜視点なし〜
忠誠を誓ったからには、やらねばならぬ事が1つある。
主が為に戦う事。
それは、王良家の根源であり、当主としての絶対的な規則。王良家の者は、他の忍びの一族と違って、侍の如く忠誠を誓ったら主が死ぬまで変える事はない。
それゆえに、王良家の者はあまり忠誠を誓わない。主と見定める人を見つけない。常にのらりくらりと生きて、勝手に戦に身を投じて、そして死んでいくのが定めだ。
しかし、現当主である王良空華は——東翔という死神に忠誠を誓った。
今この時だけとはいえ、王良家の当主が、である。
我ながら馬鹿な事をしたなー、とか自嘲気味につぶやく空華。1人戦場でふらりと立っていて、過ぎゆく安心院寮の生徒を見送る。
何やら愉快な頭が多い集団だ。さすが不良が多い安心院寮、炎が筆頭になっているだけはある。
「……ま、ここで仕事をしなかったら主に対しても失礼だな」
飄々と1人で笑いながら、襲いかかってきた安心院寮の生徒の胸倉を掴んだ。そのまま一本背負いの勢いで、地面に叩きつける。上手く受け身を取ったようだが、相手の頸動脈へ手刀を叩き込んで気絶させる。
スポーツのような格闘技は得手とも言えず、不得手とも言えない。どちらかと言えば、ルールも何もない喧嘩のようなものが得意である。
それは、長い年月を戦と共に過ごしてきた性からか。
適当に、でも確実に相手を仕留める。着々と安心院寮の生徒を減らしていくと、誰かに掴みかかられた。がっしりとした腕である。見覚えがあった。
「……ほーう、炎君とやらが直々にやってくるとは思わなんだー」
「テンメェェェ……茶化してんのかアァァァン!?」
チンピラも真っ青な勢いで睨みつけてくる炎。この場で能力制限がなければ、今すぐにでもその身から火を発していた事だろう。
怖ぇ……と内心で考えながら、空華は炎から距離を取った。能力が使えなくては格闘技に持ち込むしかない。だが、相手がどんな手で仕掛けてくるのかはよく分かっていない。相手の反応を待つ事にした。
対して、何やら慎重な空華にイラついたのか、炎は一気に距離を詰めてきた。握った右拳を、空華の顔面めがけて振りかざす。
「危ないなぁ」
片手で炎の拳を受け止めて、そのまま黒影寮に行こうとしていた周りの安心院寮の生徒をローキックでなぎ倒す。ついでに炎の腕を振り払って、足払いをかけた。
「!!」
尻餅をついてしまった炎に、空華は攻撃を仕掛ける。
押し倒してマウントポジションを取り、首に手刀をそっとあてた。これでいつでも炎の首は取れる。
喧騒が徐々に遠くなり、2人だけの世界になる。炎の薄い唇がゆっくりと開き、かすれた声を紡いだ。
「……さすがだな、王良家」
「なーんだ、知ってんの」
「一応な。……つかな、衝撃的事実を言うが、俺はテメェらよりも年上だ。あの女顔死神より年下ではあるが」
「女顔! 翔にそこまで言える度胸のある奴は昴ぐらいだと思っていたけど、案外お前も度胸があるようだな」
飄々と空華は笑う。昴でもさすがに翔の事を「女顔!」とは言った覚えはないが。
というか衝撃的事実というか、炎は英学園の3年生だったのである。山下愁も驚きです。この文章は山下愁の指が勝手に書いています(テヘペロ
「まぁ、ぶっちゃけ言うとだな……俺は元々黒影寮に入る予定だった能力者だ。当然のようにテメェの事も、あの寮長や副寮長の事も知ってる。さすがに神威銀の事までは知らなかったがな。最近知った」
「……あん時、銀ちゃんをさらった(多分5章辺り)のは料理目当てだって聞いたけどね」
「そーだな。マザーの料理が手ずから食べられるっていう点で、テメェらに知らぬ間に嫉妬した結果だ」
はは、と笑う炎。いつでも炎を気絶させられる事ができる空華に対して、余裕の態度だ。さすがである。
記憶は共有していても、体は17歳の空華だ。さすがに無理がある色々と。「この体には3つの精神が宿ってんだぜーwww」とか言おうものなら、目の前の相手に引かれる事請け合いなしだ。
「じゃあ、どうして黒影寮に入んなかったの? 発火操作なら入ってもいいと思うんだけど」
「残念。俺はテメェらと違って、命削ってんだよ。使うたびにな。だから、あまり使いたくねえんだよ」
先祖にこういう能力を使って死んだ奴がいるらしいからな、と炎は自嘲気味に言う。
なるほど。普段、炎に遭遇しても何もしてこない理由はそこにあったか。あまり使いすぎると病院送り——最悪の場合は『死』だろう。翔の仕事が増えそうだ。
「テメェらのように、無限に力が使える事じゃあないってこったな」
「そういう訳か」
「そういう訳だ。——で、いつシメるんだ? 俺はもうずっと覚悟をしていたつもりなんだが」
「ま、それなんだけどね」
空華はふと、安心院寮の陣地へと目線を上げた。
その先に見えたのは、旗。数秒遅れて、パァン! と乾いた銃声が空へと響き渡る。
旗を掴んで揺らしていたのは、副寮長である椎名昴だった。彼が旗を取るまでの時間稼ぎを、翔から命じられたのである。これで、翔からの忠誠に解放された。
「なるほどな」
「そういう訳だ」
「負けたわ」
炎の上からどき、空華は彼へ手を差し伸べる。
クッと喉の奥で笑んだ炎は、空華の手を握った。