コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.527 )
- 日時: 2013/11/18 22:24
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第18章 今日、私は告白をします
〜視点なし〜
英学園の体育祭は、無事に終わりを迎えた。
ドキドキの結果発表は、なんと人数が史上最強に少ない黒影寮が優勝をいただくという事になった。当たり前である。呪いをかけられていたとしても、黒影寮は運動ができる集団なのであるから。
きらきらと輝くトロフィーと優勝旗を受け取る翔と昴は、何故か格好よく見えた。銀は思わず拍手を彼らに送っていた。
これで終わります、とアナウンスが入って、生徒たちは校舎内へと入っていく。これから帰りのホームルームでも行うのだろう。きっと担任である零は喜んでいる。
「今日は、皆さんの為に豪華なご飯を作ってあげないといけませんね!」
銀はどこか意気込んでいた。グッと両手の拳を握って、自分に気合を入れる。そして、少しだけ頬を染めて手を握った。
この手は、翔に掴んでもらった手だった。
女が嫌いで、最初は「ビッチ」だのと言われていた銀だが、翔が好きだった。そりゃもう、異性として。これは初恋である。生まれてこの方16年、恋など1度もした事がない。
ふへへ、とちょっと頬が緩んでしまうが、ピシャンと頬を引っ叩いて気合を入れ直す。何をしている神威銀、今日はよく戦った武士どもを癒してやるのが最優先ではないか。
「さて……この前材料の特売があったので、皆さんに手伝ってもらって買ったんでした。今日は何にしましょう……」
誰もいない黒影寮の台所でうんうんうなっていると、ガチャリとドアの施錠が外される音が銀の耳に届いた。
誰かが帰ってきたのだろうかと顔を上げると、なんと翔が立っていた。表情がどこか疲れているようだ。体育祭で疲れたのだろうか。
「お帰りなさい、翔さん。……あれ、皆さんは?」
「あとから帰ってくる。俺は先に帰らせてもらった。これから仕事だ」
仕事、というと本職である死神の仕事だろうか。だからうんざりしたような表情をしているのか。
銀は思わず吹き出してしまった。体育祭のあとに仕事なんて、本当に翔には「ご苦労様」と言ってやりたい。好きなのだから、それぐらい言ってもいいだろう。
そっと銀は疲れている翔の手を握ろうと、手を伸ばす。
が、
「!!」
——パシンッ!
「——え、」
翔が銀の手を叩き落としたのだ。
驚いたのは銀の方だ。漆黒の瞳を見開いて、翔を見上げる。
翔本人も、どこか驚いたような表情と、申し訳なさそうな表情が綯い交ぜになった、何とも言えない顔をしていた。
「えっと……疲れているかなって思ったんですけど……ご迷惑でしたか?」
「……黙れ、ビッチ」
低く、うなるような声。底冷えするようなその声音を聞いて、銀の思考は停止する。
今、なんと?
だって、翔は最近、自分の名前を呼んでくれるようになったのだ。だというのに、どこか睨みつけるような目で、銀を見つめるのは何故?
「借り物競争で選ばれたぐらいで恋人気取りか? あそこでテメェを選んだのは——あれだ、昴と同じような『好き』だ。別にテメェを女性として見ている訳ではない。俺は忌々しい女と結ばれる気はさらさらないからな」
「……あの、」
「親愛としての『好き』ではあるが、恋人として——1人の女としての『好き』は絶対にありえん。俺に変な気を抱くな」
翔は銀へ背を向けて、食堂を去った。
1人取り残された銀は、そっと食堂の椅子を引きずり出して、腰かける。ぼんやりと天井を見上げて、思う。
——そうか、翔は自分の事など好きではなかったのだ。
昴が好き、という感情と同じなのだと。翔にとって昴はなくてはならない存在であり、また銀もそんな存在なのだろう。それは素直に嬉しい。だが、だが。
いつの間にか、銀の頬には涙が伝っていた。
あの時の『好きな人』は、恋人として——それこそ、女として銀を見ているのかと思ったのだ。
こんな仕打ちはあんまりではないか。1人の女として見てくれないなんて、絶対にありえないって——それだと、翔と結ばれるなんて事は、絶対にありえない。
「あー、疲れた。ただいまぁ……って銀ちゃん!? 天井見て泣いてるけど、大丈夫!?」
帰ってきた空華の声すらも、銀には届かない。ただ天井を見上げながら、静かに泣いていた。
空華は慌ててタオルで銀の涙を拭うが、それでも彼女の瞳からは涙は止まらない。ゆるゆると黒曜石の双眸が空華を映したかと思ったら、ドバッと滝のように涙があふれてくる。
「……銀ちゃん?」
銀はそっと空華に抱きついた。今は、泣きたかった。泣いていたかった。
「好きだったんです……1人の女として見てほしかった。見てほしかったんですっ……! 私は、私は翔さんを好きになってはいけなかったんですか……。なら、恋なんかしなきゃよかった……!!」
空華の服にしがみつき、かすれた声で叫ぶ。
頭上から降ってくる、息を呑む声。だけど、何か言う訳でもなく、空華はそっと銀の頭を撫でた。艶のある銀髪を、泣く子供をあやすように撫でる。
「思いきり泣いちゃいな。俺様が全部受け止めてあげる。——誰かが帰ってくるとか、そういう心配はないから」
その日、銀は思い切り泣いた。
失恋した悲しみで、思い切り泣いた。