コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.532 )
日時: 2013/12/09 22:26
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

 とある日だった。
 バタバタバタッ!! と古いアパートの廊下が揺れ、白鷺市のヒーローである少年——椎名昴は顔をしかめた。
 現在の時刻は午前7時である。一体何が起きたのだろうか。というか、隣に住んでいるのはあのクソ忌々しい死神しかいないのだが。
 どうせ魂の狩り忘れとかそういう落ちだろJKと考えて、ニュースを見ながら茶をすすっているとドンドンドンッ!! と乱暴にドアが叩かれた。当然のように無視する。
 しかし、

 ————ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンッッッッッッ!!!!!!

「うるせぇぇぇぇぇぇぇ!! 今何時だと思ってやがるこの非常識ダメ死神がッッ!! ——って、あれ?」

 ドアをノックしていたのは、なんと隣人の昴曰く「非常識ダメ死神」の従者、瀬戸悠太だった。
 息を切らせて悠太は言う。

「翔様を見かけなかったか?!」

「ハァ?」

「昨日の夜から帰ってきていないんだ!!」

 事件が発生した。
 そして叫び声が聞こえた。

「あんの————クソ死神がぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」


第19章 進撃の巨人〜ヒーローと死神がやってきた〜


 ※基本視点なし


 白鷺市の死神であり、地獄の治安をよくする為に人類を支配しようと考えている炎の死神——東翔は、現在電車に乗っていた。
 実は、朝早くから魂の狩り忘れがあったので、それを狩る為に電車に乗っていたのだ。空間移動術はさすがに体力を消費してしまうので。
 ただでさえじり貧生活をしているのに、食費を増やす訳にはいかない。白鷺市からそれほど離れていないので助かった。切符の買い方が分からなかったので、駅員を脅して買わせた。
 電光掲示板が、目的地の名を告げる。

「次は、白雪町ぅ。白雪町ぅ」

「む、ここか」

 翔はスッと立ち上がり、白雪町の駅に降りた。ホームを横切って、改札を出る。
 白雪町は案外発達した町だった。と言っても、駅前だけでショッピングモールを抜ければ閑静な住宅街が広がっている。白鷺市となんら変わりはない。
 朝が早かったので欠伸を1つしてから、目的地の住所を確認し——そしてとある人物に目が留まった。

 銀色の髪の少女。
 大量の荷物を抱えて、よたよたと歩いている。

 1人分の食材としてはいささか買いすぎのような気がするが、まぁ1か月分とかそこら辺だろう。ふむ、と翔は頷くと、ススッとその少女へと近づいた。

「おい、そこの娘。この俺様が手伝ってやろう。感謝するがいい」

 上から目線でズイッと手を差し出した。死神だから多少の重さくらいどうとでもなる。
 銀色の少女は翔の方へ目をやった。漆黒の瞳はどこか赤く、腫れている。どうやら泣いた後のようだ。分からないが。

「————ぇ」

「え、じゃなくてだな。手伝ってやると言っているのだ。ありがたく思え。どこまで運べばいい」

「や、貴方には関係ないでしょう!!」

 初対面の少女に、いきなり手を振り払われた翔。納得がいかない、自分が一体何をした。
 ムッと唇を尖らせて、少女へ向かって反論した。

「初対面の相手に向かって、口の利き方がなっていない! 名前と身長と体重とスリーサイズを見なかっただけでもありがたく思え。男だったら余裕で見ていた」

「きゃぁ!? 翔さん酷いです! 何ですか、私をからかって楽しいんですか!?」

「何故貴様が俺様の名を知っている」

 いつの間にこの少女に名を教えたのだろうか。翔には身に覚えがない。——もしかして、死神か。
 いや、その線は限りなく薄い。この少女があとどれだけ生きられるか——その生命時間が、一定リズムを保って減っていく。死ぬのはあと何十年も先だ。
 少女はきょとんとした様子で、翔を見た。
 翔も少女を見つめる。

「……じゃあ、貴方は誰ですか? 翔さんですよね?」

「いかにも。白鷺市を管轄としている死神、東翔だ。此度は白鷺市の魂がこちらへ脱走したから朝早くから狩りにきたのだ」

「……すみません。人違い、ですね」

「謝る事ができる娘で何よりだ。さぁ荷物を貸せ。持ってやる」

「あ、ありがとうございます。では、その、お言葉に甘えて」

「気にするな。婦女に優しくしろと従者によく言われているのでな」

 そんなこんなで、死神の東翔は黒影寮の管理人代理・神威銀との邂逅を果たしたのだった。

***** ***** *****

「もう知っているかと思いますが。私は神威銀です、よろしくお願いします」

「うむ。にしても、貴様は辺鄙なところに住んでいるな。森の中にくるとは思わなんだ」

「あ、私は寮に住んでいるんです。えっと……管理人の、代理? で」

 神威銀と名乗ったその少女は、照れくさそうにはにかんだ。
 翔はさほど人間に興味はないので、「ふーん」と流す。興味があるのは思い人の椎葉すみれだけだ。彼女以外はいらない。
 木のアーチをくぐり終わると、そこには洋館が建っていた。中世ヨーロッパ風の洋館である。なかなかに年季が入っていて、白い壁にはわずかに蔦が絡まっていた。
 銀が、「あ、ここで大丈夫ですよ」と言ったので、翔は持っていた大量の荷物を渡す。

「それでは気をつけろ。婦女1人であの量だと結構苦しいだろう。誰か男子の力を借りるがいい」

「……あ、えっと……東、さん?」

「何だ」

 銀が不意に呼び止めてきたので、翔はくるりと振り返った。
 銀はにっこりとした笑みを浮かべて、

「よければ、朝ご飯を食べていきませんか? これから皆さんで朝ご飯を食べるんですが」

「む、そうなのか。それでは相伴にあずかろう。荷物は大丈夫か?」

「あ、よろしければ持ってくださいませんか?」

「分かった」

 再び銀の荷物を手に取って、翔は洋館——別名黒影寮の中に入った。
 玄関ホールは広く、誰もいない。まっすぐ進むと食堂に着くようだ。左右に伸びる廊下はどうやら、この寮に住んでいる人の部屋があるらしい。
 銀に「こっちです」と促されて、翔は食堂へ入った。
 その時である。

「……東翔ッ!!」

「ん?」

 飛んできた苦無を素手で弾き飛ばし、翔は怪訝そうに眉をひそめた。
 どうやら苦無を投げ飛ばしてきたのは、眼帯をつけた背の高い少年のようである。憎悪に満ちた翡翠色の瞳をこちらに向けてくるが、はて、何をしたか。正直恨みを買うのは慣れている。
 とりあえず銀の指示に従うべきか、と翔は荷物を運ぶ事に専念した。ら、

「無視すんなよッ!!」

「神威銀よ、この男は何をそんなにカッカしているのだ。俺様が何かしたか」

「え、いや、その……」

「とぼけんなッ! 銀ちゃんを振っておいて、なのにまた近づいて落とそうとしているのかよ!? 許せない!」

「く、空華さん落ち着いてください。この人は翔さんであって翔さんではないんです!」

 銀が空華と呼んだ少年をなだめるが、こちらは相当怒っている。
 翔はため息をついて、手近な机に荷物を下ろした。そして考える。

(……あれ、本当に何かしたか?)

 本当に心当たりがなかった。