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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.535 )
日時: 2013/12/16 22:07
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

第19章 進撃の巨人〜ヒーローと死神がやってきた〜


 ※基本視点なし


 翔の死神の目を使って相手の事を調べると、基本データが収集できた。
 王良空華。
 白鷺市に住んでいる翔でも、彼の事は知っている。王良家と言えば、我流忍術を使う忍者の一家だ。
 普通、忍者は甲賀か伊賀に分かれるのだが、王良家は型にはまらない忍術を使う事で有名である。しかもその実力は折り紙つきである。
 まあ雇った事はないんだが。そんな事をしなくても出雲がいるし。

「……で、俺様は何か恨まれる事をしたのか?」

 というか、振ったとかそういう単語が聞こえたのだが。神威銀に会った事すらない翔が、振るなんて芸当ができるか。そもそも告白を受けた事もない。
 苦無を構えた空華は、何故か翔と銀を見つめてきょとんとしたような表情を浮かべた。何故だ、何故そんな顔をされなければならない。解せぬ。

「……あれ? 本当に翔だよね?」

「馴れ馴れしく名を呼ぶな。翔様と呼べ」

「あ、やっぱ違うわ」

 解せぬ。本当に解せぬ。こいつ、燃やしてやろうか。
 そう思って隠している鎌に手を伸ばしかけた時、ドタドタドタドタッ!! と駆け足が近づいてきた。
 ん? と顔を上げると、何故か男どもが一斉にこちらへ向かって攻撃を仕掛けてくるではないか。ここはいつから戦場になってしまったのだ。
 翔はいたって冷静に、相手の攻撃をバック宙でよけた。だっていつもポンコツヒーローゲフンゲフン——あ、隠しきれてないごめんね☆——の攻撃をよけているものだから慣れる。
 先刻まで翔がいた床と机がへこんだ。

「何だ。客に対して無礼ではないか? ここは客人に対して攻撃をしてくる野蛮なところなのか」

 朝食云々言っている場合ではない、命の危機があるので即刻帰りたい。いや、そんな簡単に死ぬ訳ないのだが。
 そこで、翔の瞳に映った茶色の髪の少年が、噛みつくように怒鳴ってきた。

「今更——今更銀ちゃんにアピールしようとしても無駄なんだからな!! 翔ちゃん!!」

「しょ、うちゃん……?」

 今、噛みつくように怒鳴ってきたこの茶髪の童顔少年は——何と言った?
 ——目の前にいる椎名昴は、自分の事を何と呼んだ?
 寒気がする。吐き気がする。悪寒がする。同時に殺意が沸き上がり、ほとんど条件反射で鎌を取り出す。

「——貴様!! よりにもよって、俺様を呼び捨てにするな。この俺様の名を気安く呼ぶなッッ!! 反吐が出るぞ、ポンコツヒーローめ!!」

「ハァ? 何言ってんだ、翔ちゃんは翔ちゃんだろ?」

「ふざけるな! 貴様に『ちゃん』づけで呼ばれたくない! 今すぐここで殺してやる。今までの因縁を、今ここで晴らしてやる時がきた……!」

 こいつは本当に殺してやらねば気が済まない。今までの非礼を土下座で誤らせたうえで、苦しまずに殺してやる。翔にとって、その殺した方はかなり譲歩している方だと言う。
 そしてぽかんと突っ立っている茶髪の少年へ鎌を振り上げて——


「助かった。正直、1人では抱えきれなくてな。……ていうか、重くないのかそれ?」

「いや、大丈夫ですよー。というか、そもそも朝ご飯なんてごちそうになってもいいんですかね? 迷惑じゃないですか?」

「能力を使って黙らせる。おい、帰ったぞ」

「どうもー、お邪魔します————————あ、」


 食堂に現れたのは2つの影。
 1つは黒髪の少年。どこか自分と同じような——ていうか、瓜二つの少年だった。女っぽい顔に華奢な体つき。だが、その手に持っているのは分厚い洋書である。格好は白いシャツにスキニージーンズというラフなものだった。
 もう1つは茶髪の少年。黒い瞳はパッチリとしていて、幼さを残した顔立ちをしている。首にかけているのはごつごつとした漆黒のヘッドフォン。ヘッドフォンは音楽用に使われるものではないみたいだ。
 ……あれ?
 だが、やるべき事は1つだ。

 翔は鎌を構え直した。
 茶髪の少年——ヒーローの椎名昴は、拳を握った。

「見つけたぞこのクソ死神がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

「何で追いかけてきやがったポンコツヒーローがぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

***** ***** *****

 乱闘は黒影寮全員の能力を総動員して沈静化した。そして朝ご飯の時間である。
 何故かぽかんとしたような黒影寮の視線をものともせず、翔と昴はもぐもぐと白米を頬張っていた。

「……あのさ」

 挙手して発言を求めてきたのは、ヒーローの昴と同じ容姿をした少年だった。

「ん。何だ、椎名昴とやら」

「……お2人のご関係を聞いても?」

「こちらの椎名昴は礼儀正しくて感心するな。見習え、クソポンコツ」

「誰がクソでどの辺がポンコツだ。テメェの方がポンコツだろうが。忘れたとは言わせない、金勘定を間違える馬鹿の事を俗にポンコツと呼ぶ。こちらの翔さんを見習ったらどう?」

 バチバチとかすかに2人の間で火花が散る。
 それを見て、黒影寮の全員は固まっていた。何故だ。

「いや、その……翔さんと昴さんが仲が悪いってところが想像できなくて」

 銀が苦笑を浮かべながら、理由を説明した。なるほど、この自分達に似ている2人の少年も同じ名前だというのか。
 なるほど、と2人で頷いた時ので、再び喧嘩を呼んだ。

「何でそこで頷くんだよ。否定しろよ」

「理不尽な。貴様が否定しろ。存在すらも」

「喧嘩は止めてください! ご飯がまずくなってしまうでしょう?」

 フフッと楽しそうに銀は笑った。何故か彼女が笑うとこちらまで笑ってしまうが、こいつと一緒に笑うなんて納得できないので黙っていた。
 それで、と翔は黒影寮全員に向けて言葉を紡いだ。

「何故、先ほど俺様は狙われたのだ? この死神が一体何をした?」

「女を振った」

「なるほど。いいんじゃないか? どのみち人間と死神が結ばれたとしても妊娠できん。子をなす事ができぬまま置いて逝かれるなら振られた方がまだましだと思うが」

 きょとんとした様子で翔がズバッと言い放つ。
 隣のヒーロー昴は、「へー」と言っていた。まぁ知らなくて当然。こいつ人間だから。

 ちなみに銀を含め、黒影寮は沈黙に包まれたのだった。