コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.537 )
- 日時: 2013/12/30 23:01
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)
第19章 進撃の巨人〜ヒーローと死神がやってきた〜
〜基本視点なし〜
死神・翔とヒーロー・昴の喧嘩を黒影寮の力を総動員させて何とか止めさせる事に成功した。
死神の真実を同業者から聞いて、寮長・翔は何かちょっと許してもらったような気がしたようなしないような。でも、睨まれるのは仕方がない。
しかし、銀は吹っ切れたのか、ちょっと清々しい笑顔を浮かべていた。
ヒーロー・昴はあらかじめ聞いていた悠太の連絡先へ電話してくると言って、食堂をあとにした。一方の死神・翔はと言うと、寮長・翔を連れ出していた。
「……まさか、同業者だとは思わなかった」
少し俯き加減に、寮長・翔は口を開く。その声は、少し緊張感が帯びていた。
フン、と死神・翔は鼻を鳴らす。
「貴様がこんな理由を知らないのは、大方予想がつく。——時代に乗ってきたか」
「……あぁ」
「この平成の時代に詳しくなったのは、副寮長の椎名昴の影響か。なるほど、こちらの椎名昴はいい奴だな。ポンコツとは大違いだ」
ちらりと死神・翔が寮長・翔へと目をやれば、彼はしょんぼりしているようだった。
ハァ、と思わずため息をついてしまう。そんな意気消沈していて、何が死神か。
死神・翔にとって、死神は生死を司る重要な役割を担った神様であり——誇りを持つべきだと思っている。
「俺様は煉獄に幽閉されてきたからな」
「!!」
弾かれたように顔を上げた寮長・翔と死神・翔の瞳が交錯する。かすかだが、唇が震えている。「ありえない」とでも思っているのだろうか。
「悪いが、貴様よりも死神に関しては知っているつもりだ」
「煉獄って……それじゃあ、人間界の常識なんて」
「あぁ、皆無だ。自動販売機の使い方など、未だに間違える。おかげでポンコツによく怒られる。だが」
ニッと不敵に、死神・翔は笑って見せた。
煉獄に幽閉されれば、人間界の常識なんて知らなくて当たり前である。ちなみに、そうすると人間性までも失われる可能性がある。
何が言いたいか?
寮長・翔は人間の事を考えて、空気を読んだり読まなかったりする。死んだけれど「会いたい人がいる!!」と叫べば会わせてもらえる可能性が高い。つまりは心優しいのだ。
対して、死神・翔は人間の事を考えない。死んだら死んだ、会いたい? 会える訳がないだろうさっさと死ねというような、全然心優しくない言葉を浴びせる事になる。
「ほしいと思ったものはほしくなる。——悪いが、俺様も人間に恋をした。そいつをどうにかして嫁にする。つまりは死神にする」
「な、それは……」
「あぁ。相手は死にたいなどとほざくだろうが——誰が死なせるものか」
死神・翔は優しくない。そして自分勝手である。
「貴様もいざとなったらほしがればいい。しかし、人間性を考える貴様はおそらく死神としての運命を捨てた方がいいと思うがな」
寮長・翔にそっと近づいた死神・翔は鼻先にデコピンを叩き込んだ。
鼻先を押さえて死神・翔を睨みつける寮長・翔。
死神・翔は楽しげに笑うと、「じゃあ食堂戻る」と言って手をひらりと振った。
「……死神の運命を、捨てる……」
その場に1人になった寮長・翔はそっと死神・翔の言葉を反芻してみた。
***** ***** *****
「——あ、の。翔さん」
寮長・翔は誰かに呼ばれた気がして、振り返る。
その先に立っていたのは、暗い表情を浮かべた銀だった。その手には洗濯物の籠がある。おそらくは、中庭に洗濯物でも干してきたのだろう。
己が死神だから、振られてしまった可哀想な少女。望むなら、自分が幸せにしてやりたかった。
「……私、翔さんに振られてよかったのかなって思ってます」
「何故?」
「だって、翔さんはもしかしたら——今まで自分が好きになった人にも、同じような事を言って振ったのでしょう? 翔さんは優しいから、特定の人間なんて作らないし」
「…………」
「だから! 翔さんには、私たちを見守っていてほしいと思っています! 今も、昔も、これからも!! お願いできますか?」
漆黒の瞳が、寮長・翔を見上げる。銀色の髪が、さらりと揺れた。
なるほど、彼女はそう答えを出したか。
ならば、寮長・翔も迷っている訳にはいかない。彼女は吹っ切れたのだ。ハァ、と息をついてから、銀の額にデコピンを叩き込んだ。
死神・翔はほしがれと言っていたが、悪いが大切な仲間と彼女の最期を看取るのは自分でありたい。死神の運命を捨てるのは、今後もできそうにない。
「最高の最期を飾れ。出なければ、立ち会ってやらんぞ」
「あはは。胸張って幸せですって言ってやりますから期待していてくださいね?」
銀は楽しそうに笑った。
寮長・翔もつられて笑った。
物陰に2つの影。
1つは黒いロングコートに身を包み、赤い鎌を携えた死神。——東翔。
もう1つは頭にヘッドフォンをつけた、茶色の髪のヒーロー。——椎名昴。
「……彼奴は死神である事を選び、大切な者の最期を看取る事を選んだか」
死神・翔はため息と共に言葉を紡いだ。
ヒーロー・昴は死神・翔を小突く。
「お前が彼女にあの答えを出すように促したんじゃねえの?」
「まさか。あの女がその答えを出したのだ。俺様は何もしていない」
「じゃあ帰ろうぜ。黒影寮の皆さんにお世話になる訳にはいかないし」
「そうだな。仕事をしてから帰らねば——」
いけない、という死神・翔の言葉は悲鳴によってかき消された。
銀のものではない。黒影寮の外だ。
2人して外に飛び出すと、何故か——
「あぁぁぁぁぁぁあああ」
巨人がいた。
「「何でだぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」」