コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.541 )
日時: 2014/01/13 22:29
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: RXnnEm2G)

 東翔と椎名昴という2人の少年がいる。
 この2人はとても仲がよく、よく一緒にいる光景を黒影寮でも見ている。常に一緒にいる事が多い。
 喧嘩をする事などめったになく、したとしても、互いに謝って解決する。それほどに仲がいい。
 東翔は死神であり、いくつもの時代を超えてきた。昴に出会った時は江戸時代並みの常識しか分からなかったようだ。現世の日本の状況を教えたのは、もちろん幼い頃から寄り添っている椎名昴である。
 しかし、あの2人は違った。

 出会い頭に言い合い、罵りあい、互いを「ポンコツ」「女顔」と呼ぶのは当たり前。
 顔を突き合わせれば睨みあいから始まり、ついには殴りあいに発展する。それほどに仲が悪い。
 いや、喧嘩するほど仲がいいとはよく言うが、あの2人は互いの事を嫌悪していて、お世辞にもいいとは言えない。本気で悪いのだ。

 拳1つでビルを吹っ飛ばし、河原も吹っ飛ばし、石を投げれば第3宇宙速度を叩きだすほどの怪力を持つヒーロー——椎名昴。
 世界を一瞬で焦土を化す事ができ、しかも人に情などわかない死神らしい死神——東翔。
 黒影寮の東翔と椎名昴とは大違いのこの2人は現在。

「テンメェェェェェェェェ!! こっちに火の粉を飛ばしてくるなとあれほど……熱ゥ!? 熱い!? ちょ、熱いって言ってんだろ止めろボケ!!」

「そーれ死ね死ねェェェェェェ!!」

 ————互いに命を削りあいながら、黒焦げの巨人を放置して戦っていた。


第19章 進撃の巨人〜ヒーローと死神がやってきた〜


 〜基本視点なし〜


「翔ちゃん、俺の見間違いかな。ヒーローさんと死神さんが互いを罵り合いながら巨人を放置して喧嘩しているんだけど」

 副寮長・昴が、己の黒曜石の如くつぶらな瞳をごしごしとこする。どんなにこすったところで、見えるのは2人が喧嘩している場面。
 黒焦げの巨人は放置されすぎていて、大きな欠伸をしていた。もう暇そうである。可哀想。
 彼の言葉に応じた寮長・翔は「現実を見ろ、昴」と窘めた。

「……俺様さ、翔と昴が喧嘩した場面は何度も見た事あるよ。昴が翔のプリンを食べちゃった、とか。翔が昴の好きなエビフライをかっさらった、とか。そんな些細な喧嘩。でも、あれはないわ」

 空華は苦笑いを浮かべながら、2人の乱闘を観戦していた。観戦しているしかなかった。
 何故なら、ヒーロー・昴の方は何とかなると思うが、死神・翔の方は何ともならない。地獄業火で焼かれれば、さすがの空華でも1発KOだ。
 だったら死神を操る術——死神操術を使えばいいじゃない、と思ったそこのアナタ。残念、あの術は空華の寿命を大きく削るのだ。だからもしここで使っても、長く使わなきゃならない事は目に見えているので、おそらくこの小説が終わるころには空華は死んでいるでしょう。
 いくらなんでもそれは避けたい空華だった。

「だよねぇ……。だって明らかに能力全開で戦ってるもん。死神さんの方なんか見てよ、普通にヒーローの昴を焼き殺そうとしてるよあれ」

「普通死神は死期が近くない人間を殺しちゃダメなんじゃないの? 翔ちゃん、どうなの」

「……死神の常識的に考えて、殺してはダメだ。あいつ、何を考えている?」

 煉獄に1600年もの間、閉じ込められていたから頭が狂ったか。なんて寮長・翔は考えていた。考えるのも当たり前である。
 その時だ。
 ぽかんとした様子で大乱闘スマッシュコンビを眺めていた黒影寮の前に、銀髪の少女が現れた。その手には、見慣れた緋扇が存在する。

「銀ちゃん……! 何してんの、さっさと黒影寮に戻って!」

 突如として現れた銀へ、空華が戻るように促した。
 しかし、つぶらな黒い瞳を空華へと向けた銀は、ぴしゃりと言い放つ。

「何で帰らなきゃいけねえんだ。仮にも銀の鈴だぞ」

「——鈴の方か」

 口調で察した。声は女の子らしい銀のものだが、口調が大変男らしい。これは鈴だ。
 緋色の扇子を広げた鈴は、鏡の中から神様を呼び出す。

「とりあえず、あの2人の喧嘩を止めないとダメだな。ディレッサ! あいつらの能力を食らって無力化しろ!」

「よしきた」

 眠そうな感じを醸した30代男性——ディレッサが鏡の中から現れた。
 ふぁぁぁ、と欠伸をしたディレッサは「さぁ食べよう」と軽い調子で2人へと向かっていき——


「「あ? ぶっ殺すぞ(←ドスボイス」」


「——少年らしくないドスボイスで脅されました。食えない、怖い」

 gkbrしながら戻ってきた。
 いや、聞こえていたけれど、さすがにあれは怖いと思う。黒影寮の全員も少しだけビクッとなった。怖かった。
 すると、ズドォン!! という轟音が空を揺るがした。
 ついに決着がついたかと思ったが、違う。巨人が埋まっていた。……埋まって、いた?
 黒影寮どころか、喧嘩をしていたヒーローと死神もぽかんとしていた。2人が着地したというかドロップキックをかましたところが、まさに巨人の頭頂部だった訳だが。

「……ポンコツ」

「何だクソ死神」

 ビルの屋上に戻ってきたヒーローと死神は、地面に埋まった黒焦げの巨人を見てぽつりと言葉を落とす。

「喧嘩していただけなのに、巨人が埋まったぞ。何事だ?」

「埋まりたかったお年頃なんだよ」

「そういうものか」

「人間だって埋まりたいお年頃ってあるんだぜ。知ってるか?」

「埋めてやろうか?」

「お前をな」

「「「「「喧嘩はすんなよ!?」」」」」

 鈴の中である意味最強を誇るディレッサを一言でgkbrさせたのだから、この2人は末恐ろしい。