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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.544 )
日時: 2014/02/10 17:45
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: fofSlf5T)

『そういう訳で、それを送らせてもらった訳ですよ兄さん』

「…………」

 何でもない土曜日。王良空華の携帯電話が、何の前触れもなく鳴る。
 電話相手は自分の弟。何だと思って電話に出てみたら、唐突に画面からチケットが2枚。さすが王良家の次男坊。呪術でこんなことができるとは思えないが、どうせ日華か月華辺りが魔法陣でやったのだろう。
 チケットをひらひらと揺らしながら、「で?」と我が弟の天華へと申し開きを伺う。

『だから、綺華がいらないって渡されたので兄さんにどうかなって思って。どうぞ銀さんと使ってください』

「いらん世話だ、クソ野郎」

 ブチッと電話を切って、チケットを睨みつける空華。
 これ一体どうすればいいの。銀ちゃん誘えばいいの。え、マジで? なんてそんな事を考えてしまうのは男の子だからのお約束。
 だって、このチケット。————カップル用ですよ?

「あんの……クッソ弟共がぁぁ……!!」

 胸中でありがとうございますッ!! なんてお礼を言ったのは言うまでもない。うん。



 第20章 噂の空華さん!



 〜空華視点〜


 やあ、読者のみなさんこんにちわ。
 黒影寮の我流忍術使い、王良空華でございます。
 突然だけど今、俺様は窮地に立たされております。何かって、そりゃもちろん上の行を読み返してきて。
 デートですよ。銀ちゃんをよりにもよってデートに誘えっての。待てお前。デートって早すぎませんか。早すぎやしませんか。いや、銀ちゃんが立ち直るのも早いんだけど。
 でもね!! どこか銀ちゃんの翔に注がれる熱視線がぬぐえない! え、何これ「俺様色に染め上げろよベイビー(イケボ」という思し召し? ふざけんないらねえよ。

「……なるほどなぁ」

 結局は当て馬なんだろうねーそうでしょうねー。俺様はきっと報われない三枚目のキャラクターで終わる訳ですよ。
 綺華(キラ)も案外デートに誘われるのね。あの子を落とすのは難攻不落よー、俺様が許しません。でも、本家は京都にあるから何とも言えないんだけど。
 さて、まあ。このチケットをどうするかって話なんだけど。

「……1番はやっぱり銀ちゃんと翔か……」

 不本意——超不本意だけど、渡すしかない。あの子だってそんな思いをしてもいいでしょ? 手ひどく振られたって。
 ちなみにこのカップル用のチケットは水族館。うん、いいんじゃないの? ほら、ね。癒されてくればいいさ。
 大体、前回は死神の東翔が「死神はどーたらこーたら」なんてほざいていたから翔も吹っ切れた様子だけど、どうしたもんか。もういいけど。
 ハイハイ、渡してきますよ渡します。当て馬的役割なんてそんなもんですよ。
 そんなことを思っていたら、控えめなノックが聞こえてきた。あらー、誰かしらこんな時間に。
 携帯の時計で時間を確かめてみれば、夜の10時。うーん、もう少し夜更かしをしていてもいいかな。明日は日曜だし。あ、もしかして鈴がきたかな。
 実は俺様、鈴と結構仲よしだったりするのである。野郎ならではの下ネタで盛り上がったり、たまに蒼空や蓮が参加したりする。

「ハイハーイ、どちらさーん?」

 それでもいきなり襲いかかられちゃったらたまったものじゃないから、密かに印を結んでおく。左腕を背に回して、人差し指と中指をそっと立てた。
 ドアの向こうから気配は分かっている。女人——となると銀ちゃん・つかさ・リネの3人になる。あ、つかさはないな。「眠いので寝ます」ってすっげー機嫌悪く言われた。何でだろって思ったら女の子の日だって。
 リネが襲いかかってきたら対応できるかな。なんてそんな事を考えていたんだけど、杞憂で終わった。

「あの、空華さん。少しいいですか?」

「あら、銀ちゃん?」

 印を解いて、ドアを開ける。
 フリフリとした可愛らしい夜着を身につけた銀ちゃんが、ノートを抱え込んで俺様を見上げていた。ノートの教科は数学。ハハーン、なるほど。俺様に数学を聞きにきたかな。
 俺様はこれでも理数系なのである! 自慢する事ではないか。勉強に関したら、翔に負ける自信があるからな。特に国語。

「数学が分からなくて……つかささんは女の子の日で早めに休まれましたし、翔さんに訊こうにも今日は死神の仕事でいらっしゃらないみたいで……」

 空華さんって数学得意でしたよね? と上目遣いで頼まれたら断れない男なんていないと思う。つか襲いかかりそうになる。
 止めなさい王良空華。男を見せろ、根性で本能をねじ伏せろ。うわ、石鹸のいい匂いがする。そして上目遣いはいい加減止めてほしい——と思っても無駄か。俺様ってば180センチ以上も身長があるもんね☆
 どの問題? と問いかければ、「あ、これなんですけど……」とノートを広げて俺様に見せてきた。
 等間隔に書かれた文字は、とてもきれいだった。なんというか、本当に女の子らしくて可愛らしい丸っこい文字。俺様の字って案外癖が強いからなー、なんて思ってしまう。いや、達筆じゃないから。普通だから。

「あー、このグラフの問題ね。引っかかっちゃうよねー。あ、じゃあ、何だから中に入ってよ」

 部屋に入るように促して、俺様は頭でグラフの問題を整理する。これは二次方程式を解いて行かないと解けない問題だ。二次関数って難しいよね。
 銀ちゃんを椅子に座らせて、俺様は傍らに立つ。それからノートにある問題を指で示しながら、解き方を教えた。

「あ、なるほど。つまりこれがこうなる訳なんですね!」

「銀ちゃんは慌てて問題を解こうとする節が見られるから、慌てずゆっくり問題をやって行こう。睦月とか結構慌てるタイプで、躓くんだぜ?」

「そうなんですか? むしろ器用そうに見えますけど」

「逆にケアレスミスが少ないのは蒼空の方。根本的な事が分かっていないから。1から教えてやると、すぐ忘れるけどミスらないよ」

「あはは。皆さんの特徴聞いちゃいました————あれ、このチケット」

 あ、机に放置してたチケット忘れてた。
 水族館のチケットを拾って、銀ちゃんは首を傾げる。うん、誰かと行くとか思われてんのかね。

「あー、天(テン。2番目の弟のあだ名)から送られてきてさ。行く相手いないっつーの。銀ちゃん、誰かと行ってきたら? ほらえっと……羅ちゃんとか、それこそ翔でも誘いなよ」

「え、でも……悪いですよ」

「いいって。悪いけど、あっても期限がきちゃうからもったいないし」

 ケラケラと何でもない風を装って、銀ちゃんに言う。いや、本当は銀ちゃんと行けたらいいなと思ってはいるんだが。
 うーん、と少し考えてから、銀ちゃんは何か思いついたように言った。

「じゃあ、私と行きませんか? 空華さんが迷惑でなければ、ご一緒に」

「ふぁ!?」

 これは驚いた、まさかの逆で銀ちゃんからのお誘いとは。
 ……え、マジで?

「俺様で、いいの?」

「空華さんにはお世話になっていますし……これ2人ですし。明日にでもどうですか?」

「えっと……じゃあ、よろしくお願いします?」

「女の子に慣れているはずなのに顔真っ赤ですよー? じゃあ、明日。えっとお昼ぐらいから行きましょうね!」

 チケット1枚持って、銀ちゃんは「おやすみなさい」なんて言って出て行った。
 え、マジで? これ夢じゃないの? ドッキリとか?

「……うそーん」

 マジですかい。銀ちゃん、嘘なら嘘って言ってくんなきゃ俺様——勘違いしちゃうよ? だって、銀ちゃんが好きだもんよ。