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Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.552 )
日時: 2014/03/03 22:27
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)

第20章 噂の空華さん!



 イルカショーの始まる大広場には、ぞろぞろと人が集まり始めていた。
 空華さんが見やすい場所を計算していました。何かすごいですね、さすが理系ですか。でも我流忍術の当主ですからこれぐらいできて当然なのでしょうか。
 まだ5分ぐらい余裕があるので、大広場に設置された大きな水槽とかセットを見ながら、私は時間をつぶそうかなと思いました。

「待ってる間暇だねぇ」

「そうですね」

 同じようにセットを眺めていた空華さんが、ポツリと漏らしました。
 まあ、その、暇ですよね。ハイ。

「……俺様、絶対にあのセットに届くと思う」

「あのセット……あ、あれですか?」

 大広場はご想像通り、ドーム状になっていてかなり広いです。当然天井も高い。
 その天井の真ん中から、赤と黄色のしましまのボールが釣り下がっているんです。空華さんはあれを示しました。
 いや、確かに空華さんなら届きますよね。ていうか、黒影寮の人ならきっと届きそうです。何せ、あの人たちはチート集団ですから。

「昴は勢い余って天井を突き破りそうだし……ほら、あいつってばロケットみたいじゃない?」

「そういえば、そうですよね。いつもビュンビュン飛び回っているというか」

「つかさはぶっとい針を投げてきそうだし。わー、そう考えると黒影寮って怖い奴の集団だな」

 空華さんはからからと軽く笑っていましたが、あなたの能力も大概だと思います。だって、我流忍術ですから。忍者ですから。
 外国人さんびっくりですよ。多分喜ぶと思いますが。
 ボールを見ながら、ぼんやりと神様たちであれを襲撃したらどうなるんだろうと想像しました。
 先ほど空華さんが言っていた昴さんとつかささんはあり得そうです。実際、訓練でもそんなことをしていたような気がします。
 紫月さんはきっとボールどころか天井丸ごと吹っ飛ばすんでしょうね。アカツキさんも多分そうなるでしょう。ディレッサさんなんかは「めんどくせ」とか言って寝ていそうですね。
 ソードさんはイルカを従えていそうです。天地さんとか天羽さんはまともな反応をするでしょうか。でも、あの2人って悪魔と天使ですよね。
 キャスさんはどうでしょう……いや、あの子は羅さんに興味があるんですよね。最近は日暮さんに拒否の能力を使われたみたいで、必要以上に鏡の中から出てこないんです。

「————ブフッ」

「え、銀ちゃんがいきなり吹き出したんだけど一体何があったの!?」

 空華さんが驚いていました。いや、そりゃ驚きますよねごめんなさい。
 ちょっと説明をしようかと思いましたが、お姉さんのアナウンス『イルカショーが始まります!』という言葉で、辺りが歓声に包まれました。

『当館のアイドル、すももちゃんです!』

 わぁ、可愛いイルカです。少しだけ周りのイルカよりも小さいですが、そこがまた愛らしい。
 すももちゃんと紹介されたイルカは、手始めにお姉さんに従って大きくジャンプしました。バシャン! と水しぶきが飛び散り、水槽近くにいた人たちに降りかかります。よく見れば、水槽近くにいる人たちは合羽を着てます。
 そして空華さんと話していたあの赤と黄色のボールですが、すももちゃんがジャンプして鼻先でつついていました。ワアァァァァ!! と歓声がまた上がります。

「あれ蓮がやったら面白いよな」

「ちょ、空華さん……ッ!」

 帰って蓮さんの顔が見れないじゃないですか!
 蓮さんは肉体変化の能力を持っているので、イルカに変身することなど朝飯前でしょう。わぁ、見てみたい気もしますがツンデレなイルカなんて需要あるんでしょうか?

『では!! もう1人のアイドル、アザラシのにこちゃんです。にこちゃんご挨拶は?』

 係員のお姉さんが言うと、アザラシのにこちゃんはにっこりと笑いました。可愛いです。何あれ可愛いんですけど。
 パタパタと前足を叩いて、にこちゃんは次々と芸をこなしていきます。ボールに乗ったり、くるくると回ったり、輪っかをジャンプして通り抜けたり——様々なことをしました。すごいですにこちゃん。
 芸が終わるたびに、歓声が上がります。アイドルですね。

「アザラシ可愛いですね!」

「すっげー抱っこしたい……ペチペチ叩きたい」

 空華さんもにこちゃんを見て和んでいました。ほら、忍者でも休む時は休まないといけませんよね。

***** ***** *****

 それから30分して、イルカショーは終わりました。可愛かったし、楽しかったです。
 ほっこりしたところで「他も回ろうか」なんて空華さんと相談しながら席を立った時です。私の服の裾が掴まれました。

「……え」

 私の服を掴んでいたのは、まだ5歳ぐらいの男の子でした。きょとんとした表情を浮かべて、私を見上げています。
 ですが、徐々に大きな瞳に涙を浮かべました。うわわ、今にも泣きそうです大丈夫ですか!?

「わぁぁぁぁぁおかあああああああさあああああああああああああああああん!!」

「ひぇぇぇぇ」

 私パニックです。迷子なんて分かりません! ど、どうしよう係員の人!
 焦っていると、空華さんが察してくれました。大泣きしている男の子の前にしゃがみ込んで、ポンと頭を撫でます。

「少年。どーした?」

 にっこりと笑って、空華さんは男の子に問いかけました。ちなみに、やんわりと私の服から手を放してくれました男の子。
 男の子は嗚咽を漏らしながら、「お母さんがいないの……」と言いました。どうやらはぐれてしまったようです。

「よし、じゃあ一緒に探そうか」

「ほんと?」

「男に二言はない! そんな訳で、少年。俺様は空華って名前なんだけど、お名前教えてくれる?」

「か、かずと……5歳」

「よく言えましたかずと君!」

 ヒョイ、といとも簡単に、空華さんは男の子——かずと君を抱きかかえます。
 背が高いので、かずと君も目をキラキラさせていました。赤くなってしまっていますが。

「じゃ、銀ちゃん。悪いけど、この子の母親を探してあげよう」

「ハイ!」

 さあ、お母さんはどこにいるんでしょうか?