コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.554 )
- 日時: 2014/03/17 23:36
- 名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
第20章 噂の空華さん!
いやぁ、水族館を堪能させてもらいました。
ちなみにお昼時だったので、レストランとかは混んでいると仮定して黒影寮で食べてきちゃって正解でした。水族館のレストラン、人であふれかえっていましたよ。
さて、せっかくですので黒影寮の皆さんにお土産でも買っていきましょう。
「……なあ、銀ちゃん。これを翔にあげたらどうだろうな?」
真剣な顔つきで空華さんが渡してきたのは、ウツボのマスコット。地味に硬いです。
つんつんとつぶらな瞳をしたウツボのマスコットの頭をつつきながら、私は空華さんに問いかけました。
「何でウツボを?」
「いや、これであいつの薄い腹を突いたら面白いだろうな、と」
真剣な顔で何をおっしゃっているのでしょうね、この人は!! まったくもう!!
どんだけ翔さんに恨みを持っているんですか。体育祭の時は、協力して安心院寮を倒していたじゃないですか。私、見てましたからね。
ていうか、
「翔さんって薄いんですか、お腹」
確かに細身だとは思っていましたが、そんなにペラッペラでしたっけ?
空華さんに尋ねてみれば、お腹を抱えて「ブフッ……」と笑っていました。な、何なんですかぁ!
「いや、その発想はなかったと思って……。あいつは薄い——つーより華奢だからな」
「え、あ、そっちですか。てっきりペラペラなのかと——紙の如く」
「そんな人間はこの世にいないぜ? 実際、あいつも人間じゃないけど」
死神でも紙みたいに体がペラペラなの聞いたことない、と空華さんは真顔で否定してきました。ちょっとボケただけじゃないですか。
まあ、でも翔さんは確かに華奢ですよね。それに女の子のような顔つきをしていますから、男の人にナンパされたことがあるって言っていたような気がします。死神なので力は結構あるのですが。
中国拳法も大体はマスターしているようですし、それで男の人は撃退しているようです。
「ま、中身が男らしいからな。昔から統率力とかあるしー、頭もいいしー、運動神経も悪くないしー」
あれ、だんだんと空華さんがふてくされてきたんですけど? どうしたんでしょう。
「あはは。もうだんだんと言っててつらくなってきた……マジでこのウツボ買って、蒼空と一緒に翔を狙おう。そうしよう」
「やめてあげてください。蒼空さんなら喜び勇んで翔さんに挑んでブッ飛ばされるヴィジョンが浮かびました」
そしてあなたも吹っ飛ばされる光景が浮かびましたよ。ついでに後ろで笑っている昴さんと睦月さん。
黒影寮って本当に愉快な人たちが多いんだなー、と改めて実感しました。
とりあえず、皆さんのお土産はお菓子でいいでしょうか。いいですよね。おやつの時間に出してあげましょう。お菓子で嫌いなものとかなさそうですし。あ、でもリネさんとか梨央さんとかどうでしょうか。
「……『リヴァイアサン』の人たちってよく分かりませんよねぇ」
「一体何を言い出すのかと思ったら」
「いや、お菓子のお話です。あの2人、よく考えたらお菓子を食べているところを見たことないので」
リネさんは与えれば何でも食べますよね、あの子。大丈夫でしょうか、ロリコンとかに餌付けされそうで怖いです。いや、むしろあの子がロリコンさんをボコボコにしそうですね。
梨央さんはこの前「僕甘いのきらーい」と言って逃げました。多分無理をすれば食べられると言っていましたけど、無理をさせたくはないので。
そのことを踏まえて空華さんに話したら、「あー、なるほどね」と頷きました。
「だったら梨央はこれでいいんじゃないかな?」
「……ジュースですか?」
空華さんが差し出したのは、水族館の魚たちがデフォルメで書かれた缶ジュースでした。中身は一体何でしょう?
あ、ミネストローネって書いてあります。
「あいつってトマトジュース飲んでるじゃん。トマトジュースはさすがになかったから、ミネストローネでいいかなって。これを大量に買っていけばあいつも喜ぶと思うんだ」
そういえば、あの人ってトマトジュースを飲んでいますよねーそれはもう中毒かってぐらいに。
トマトが好きなんですよね。トマトジュースがなければトマトっぽいものを食べればいいじゃないってんで、黒影寮のケチャップをそのまま飲んでいました。いつか塩分の取りすぎで死ぬんじゃないんでしょうか。
それでよさそうですね。
「銀ちゃんは何か買わないの?」
「私ですか? 私は別に……必要ありません。ここに連れてきてもらっただけでも、嬉しいですから」
「……ふーん」
なんか納得していない様子の空華さんでした。
***** ***** *****〜空華視点〜
ハーイ、どうも。みんなのアイドル()王良空華です。
まったく、銀ちゃんも物欲がなさ過ぎて困るよねぇ。何の為に俺様、お金持ってきたの。
銀ちゃんは今羅ちゃんと白亜ちゃんとお兄さんの白刃さんの為のお土産を選んでいる。どうやらストラップにするようだ。その隙に、俺様はぬいぐるみのコーナーをうろついていた。
なんか可愛いイルカのぬいぐるみと目が合ったんだけど。すげえでかい。抱き枕に最適ってぐらいに。
「……ほんとに可愛いな、これ」
……脈がないことは重々承知している。あぁ、そうさ。脈はないんだ。
だけどさ、プレゼントくらい受け取ってくれるよね? 迷惑だなんて言われたら、綺華に送りつければいいんだし。あいつはああ見えて可愛いものが好きだから。
「さあ空華さん、行きましょうか! って、その袋大きいですね」
黒影寮の奴らにもお土産は買った。ついでに銀ちゃんの友達にも。
ぴょこぴょことやってきた銀ちゃんに、俺様は抱えていた大きな袋を押しつける。「わぷっ」と可愛い反応をしてくれた可愛い。
「あの、空華さん……?」
「可愛いから買っちゃった☆」
えへへ、なんて笑って見せれば、銀ちゃんは何か怪しげなものでも見るかのような目で、袋を開けた。
「わ、イルカ!!」
「可愛いでしょ? あげるよ」
「え、いいですよ。高かったでしょう?」
「あのねー。忍者の任務で結構稼いでいるのよ、俺様。だからいいの。貰ってよ」
押しつけておいてあれだけど、正直言ったら拒否されるのはかなりきつい。だから、お願いだから拒否はしないでほしい。
心の中で祈っていたら、銀ちゃんはイルカのぬいぐるみを抱きしめて満面の笑みを浮かべてくれた。
「ありがとうございます。じゃあ、毎晩抱いて寝ますっ!!」
——その笑顔と言ったら。
もう可愛いって表現は効かないぐらいに可愛い。あぁ、この子を抱きしめたい。許されるなら本当にギュッて抱きしめたい。
無理だな、うん。
「じゃ、帰りますかお姫様。荷物は持つぜ? 何なら睦月に連絡して物質転送してもらう?」
「んー、その方がいいですかね。睦月さんも楽になるでしょうし……。あ、すみませんが空華さんにお願いしてもいいですか? 私、ちょっとトイレに行ってきます」
「行ってらっしゃい」
トイレへ駆けていく銀ちゃんの背中を見送って、俺様は携帯を取り出した。電話帳を開いて、睦月の番号を呼び出す。
電話をかければ、暇だったのか3コール目でつながった。
「あ、もしもし睦月? 今大丈夫?」
『どないしはった? 銀ちゃんと水族館に行ってるようやんけ。羨ましい』
「チケットを妹から貰っただけだっつの。——お土産買ったから、物質転送してもらいたいんだわ。——あぁ、大丈夫。今、人のいない影に隠れたから。おう、よろしく。ハイハーイ」
睦月は快諾してくれ、足元と手元にあった黒影寮の菓子が送られた。どんだけ買ったんだ、銀ちゃん。分からないまま俺様もお金を出したけど。
あ、銀ちゃんはあのイルカを持って行った訳ですか。一緒ですか。
さて、銀ちゃんを待ちますかね。
「————見つけた」
「んん?」
————視界がブラックアウトした。
「お待たせしました、トイレが混んでいて……あれ? 空華さん、空華さん?」
戻ってきた時には、空華は携帯を残して消えていた。