コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.557 )
日時: 2014/03/24 22:29
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)

第20章 噂の空華さん!



 〜空華視点〜


 目を覚ましたその先は、どこかのスタッフルームのような場所だった。ていうか暗い。そして埃臭い。
 いや、スタッフルームというより倉庫? 何で俺様、こんなところに連れてこられたんだろう。
 銀ちゃんを待っていて、睦月に物質転送を頼んで、それで……そこからの記憶がまるっと抜けている。嘘だろ。忍びの名折れだ。

「ふわ!?」

 よいしょ、と立ち上がろうとしたんだが、立ち上がれなかった。
 両腕と両足に、何やら札のようなものが張りつけられている。これは封じ羽(フウジバネ)!? 体を拘束する術式か。高等呪術だぞ、俺様はもちろん使えるけど多分天華が得意な術だと思う。
 何でこんな術がかけられているんだ。クソ、両手両足が使えなければこの術式を解くことができない!!

「ようやく見つけたわ」

「……誰よ、アンタ」

 ボウ、と暗がりから誰かが姿を現した。
 貞子のような女の子だ。前髪がかなり長くて顔は分かりにくいけど、何やら嬉しそう。白いワンピースに茶色い革の肩掛け鞄。そして手にはぐしゃぐしゃに握られた札。
 こういう呪術を使う奴は決まっている。巫女だ。陰陽師でもこの術は使えるけど、あの『リヴァイアサン』の性悪陰陽師が使えるか分からない。あの九尾が強いからな。朝霧美桜だっけ。
 女の子はクスクスと笑みをこぼして、俺様に近づいた。やめろー、近づくなー。

「黒影寮の王良空華でしょ……? 王良家当主。我流忍術使い……フフ」

「……どこでそんな情報を仕入れたの。俺様、一般人の依頼は受け付けていないんだけど?」

 基本的に、俺様が受ける仕事はお掃除だ。悪い人——主に政治家とか暴力団組織とか、そういうのを相手にして戦っていたりする。
 依頼人はそりゃ一般人もいたりするけど、大体は社長とか偉い人。ご主人様はどこにでもいるお。

「……私ね。貴方が好きなの……だぁいすき」

「うへ」

 こりゃ驚いた。熱烈な告白か。
 そりゃあ、まあ、うん。俺様だって女の子と遊んでいた時もあるよ。女の子大好き。
 でも、今は銀ちゃん1筋なの。銀ちゃんを思い続けていたいから、最近女の子とも遊ばなくなったよ。偉くね? とか言わないけど。それが当たり前なんだ。そりゃ最初はゲームしようぜとか思っていたけどさ。
 貞子ちゃん(仮)は、俺様の頬をそっと撫でる。ひぇぇぇ、何この子。めちゃくちゃ手が冷たい。

「貴方のことをずっと考えていたの。どんな顔で笑うんだろうって、どんなことを話すんだろうって。そうしていたら、貴方は他の女と一緒に歩いていたわ。……ちょっと許せない」

 ヤバイヤバイ、この子本当にやばい。俺様の中で警笛が鳴る。頭は冷静だ。落ち着け。
 瞳を閉じて、深呼吸。よし、準備万端だ。

「————空よ」

「ダメ」

 貞子ちゃんは、俺様の口にも封じ羽をやってきやがった。これではしゃべれないじゃないか。
 にやにやと俺様を見下ろす貞子ちゃんは、「大人しくしててね」と言った。何をする気だよ。

「……あの目障りな女、殺すから」

 その瞬間だった。
 バァン!! とドアが開かれて、また別の女の子が転がり込んできた。
 銀色の髪に黒い瞳。見慣れた緋色の扇を持って、胸元に下がるのは小さな鏡。——銀ちゃんだった。

「空華さん、助けにきました!!」


***** ***** *****〜銀視点〜


 時は数分前にさかのぼり、視点も変わります。私です、神威銀です。
 空華さんが携帯を置いてどこかへ消えてしまいました。携帯を携帯しないなんて、空華さんらしくないです。ありえません。
 うーん、空華さんもトイレでしょうか。いや、そうだとしてもおかしいです。携帯がここにあるんですよ。誰かにさらわれたような感じです。
 ——え、あの空華さんがさらわれた?
 空華さんは飄々としていてつかめないけれど、我流忍者ですよ。つまり忍者ですよ。気配で察知して、捕まったりしないはずです。それがどうして捕まるんですか。

「……でも、空華さん……」

 すると、私の携帯電話に着信がありました。非通知です。
 私は迷わず通話ボタンを押しました。

『どしたの、銀』

「鈴。どうしましょう、空華さんがいなくなってしまいました」

 ちらりと姿見の方を見ると、私の格好が男になっています。携帯を片手に、心配そうな顔を浮かべていました。

『……探そうか?』

「ハイ。とりあえず、ディレッサさんをお願いできますか?」

『分かった』

 そして、おーい及川さん出番ですよおーい、なんてどこかに呼びかけると、鏡の中からだらしないパジャマの格好をした男の人——ディレッサさんが欠伸をしながら現れました。寝ていたんでしょうね。
 本来なら肉体変化の能力を持つ蓮さんがちょうどいいでしょう。あとは死神の翔さんとか。ですが、今は2人ともここにはいません。わざわざ黒影寮から呼ぶのも迷惑です。
 そこでディレッサさんの能力を食べる能力に、追跡してもらおうと思います! なんてナイスアイディア!!

「かったるーい」

「そんなことを言わないでくださいよ。頑張ってください」

 ディレッサさんは「めんどくさ……」なんて言っていましたが、渋々追跡を開始してくれました。
 ちょこちょこと人混みをよけて、向かった先はスタッフルーム。えぇ、何でこんなところまで? ていうか、このスタッフルーム、何か古くありませんか?

「これ、結構酸っぱいなぁ。酢昆布っぽい」

 嫌いじゃねえけどな、とディレッサさんは薄い唇を舌で舐めました。
 あれ、何でこのスタッフルームのドア、簡単に開くんですか。今まで施錠されていませんでしたか?

「これ、今まで呪術で施錠させていたんだよ。向こうの倉庫のドアは、元から施錠されていない」

 ディレッサさんって案外優しいんですねぇ。
 私はきちんとお礼を言って、倉庫へと駆け寄りました。


「————あの目障りな女、殺すから」


 あ、やっぱり空華さんが危ないですね。
 少しはしたないと思いますが、私はドアを蹴破りました。
 そこにいたのは、両手両足を札のようなもので拘束されて、なおかつ口も札で塞がれている空華さんと——あれ、貞子さん?
 ともかく、貞子さんに空華さんを渡す訳にはいきません!

「空華さん、助けにきました!」

 さぁ、反撃開始です。