コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.560 )
日時: 2014/03/31 22:56
名前: 山下愁 ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)

第20章 噂の空華さん!



 〜視点なし〜


 倉庫のようなところに飛び込んだのはいいのだが、ここから一体どうすればいいのだろうか。
 銀が持っている能力は、飛び抜けたものではない。キスによって相手の能力を増長させる役割をする銀の鈴の方だ。神様を召喚するのは、主に鈴の役割である。
 でもって、あの貞子らしき女の能力を増長させたところで、自分が不利になるだけだ。さぁどうする、どうすればいいのだ。

「えぇ、分かっています。私が誰かの手を借りなければ、空華さんを助けることができないなんて……!」

 胸元から下がる鏡を握り、銀は怒鳴った。

「でも! 私はあなたを助けます、空華さん!!」

 ——何故だろう、銀ちゃんが大変男らしく思えました。まる。
 我流忍者・王良空華は、ぼんやりとそんなことを思った。思っただけで、口にはしなかった。何故かそのエメラルドグリーンの瞳は、遠くを見ている気がする。
 貞子らしき女は、スッと札を構えた。動きを封じる封じ羽だ。このまま封じられてしまえば、銀は間違いなく殺されてしまう。

「銀ちゃん、やめ——!!」

「誰がやめるかぁ!」

 いつの間に入れ替わったのだろうか、銀の声で乱暴な口調が聞こえてきた。
 手にした緋色の扇を広げ、銀——もとい鈴が、神様を召喚する。

「天谷! 日出! 現!! こい!!」

 出現したのは、2人の鬼と1人の悪魔。
 ここなら能力を食らうディレッサや、万能の神様である天音に守りの神様であるヴァルティアでも呼ぶのかと思ったのだが。

「あいつを少し痛めつけろ!」

「……ねえ、馬鹿なの? 巫女は鬼退治とか、悪魔退治とか、そういうの得意なのよ……?」

 貞子が、札を投げつける。
 鬼である天谷と現にとっては致命的だ。2人はバッと反射神経を活かして避けたが、日出だけは別だった。
 彼は温度を操る悪魔——飛んできた札を残らず凍りつかせる。パキン、といともたやすく氷の札は砕け散った。

「……無駄、ね。もっと違う使い方がある」

 貞子は札を、今度は足元に投げつけた。もちろん、投げつけた先は天谷と現だ。
 2人の動きが、ぴたりと止まる。見事に封じ羽の罠にかかってしまったらしい。顔が苦しそうに歪められる。

「クソが……」

「ッ……!」

 現は悪態をつき、天谷は貞子を睨みつける。
 動ける日出はチッと舌打ちをして、何とか貞子に一矢報いろうと、氷塊を作る。弾丸サイズの氷塊を握り、日出は投げつけた。

「残念」

 貞子は気味悪く笑う。
 札を自分の足元に置くと、ブワッと炎の壁が貞子の前に立ちはだかった。そのせいで、氷塊は残らず溶けてしまう。

「!! クソ……」

「どうやっても、勝てない。残念」

「さて、それはどうでしょうか」

 今まで沈黙していた銀が、貞子の後ろの方で声を上げた。
 彼女は、今、何をしている?
 貞子はゆっくりと振り返った。
 その先にいたのは、空華に寄り添う銀の姿。その手には、空華を封じていた札が握りつぶされている。空華は完全に封印が解けたことにより、グッと大きく伸びをした。

「今までよくも封印してくれていたね……こんの野郎」

 ニヤリ、と不敵に笑む空華。
 貞子に勝ち目はない。我流忍術は、何をしてくるか全く分からないのだから。
 そんな空華を見上げ、銀はそっと空華の手を取った。

「どうしたの、銀ちゃん? 言われなくても、あの子は殺さないよ」

「いえ、あの。その。——頑張ってください」

 ————チュッ、と。
 銀は、空華の手に唇を触れさせた。

 あれ、今、何が起きた?

 空華自身も、よく分からなかった。あれ、何で銀ちゃんはキスをしたのだろう? そしてこの体の底から湧き上がってくる力は一体何だろう。
 ていうか、

「ヤベーだろうがこれはよぉぉぉぉおおおおおおおおお!!」

 その日、空華は今までに見たことのない本気の技で、貞子を吹っ飛ばしたのだった。