コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 黒影寮は今日もお祭り騒ぎです。連載1周年突破! ( No.575 )
- 日時: 2014/06/16 22:33
- 名前: ・スR・ス・ス・スD ◆kp11j/nxPs (ID: Qvi/1zTB)
「えっと、私は黒影寮からいなくなりませんよ?」
——じゃあ部屋の家具が消えた理由は、一体何だ。
第21章 明日は明日の風が——吹いたらいいなぁ
〜視点なし〜
「……え?」
空華は思わず聞き返してしまった。
銀の口からありえない言葉が聞こえた気がした。ていうか聞こえた。絶対に聞こえた。
きょとんとした表情の銀はもう1度、「私はいなくなりませんよ」と続ける。マジで?
「……うっそだー」
「嘘じゃありませんよ。私、黒影寮からいなくなりませんよ?」
ていうか、いなくなったら居場所がないです。銀はそう続けた。
じゃあ、何故銀の部屋から私物が全てなくなっていたのか。何故銀の部屋がきれいに片づけられていたのか。その理由が知りたい。
「……えっと、じゃあ何で部屋が片づけられていたのかな? 俺様に分かりやすく説明してくれる?」
「雨漏りがするんです、あの部屋。なので叔母さんに言って、部屋を変えてもらうことになりました」
なんだと。
銀は黒影寮から引っ越すのではなくて、雨漏りがするから別の部屋に移動するだけ、だと?
そんな相談は寮長の翔も、副寮長の昴も受けていないはず。ていうか黒影寮全員に「部屋を移動したい」ぐらい言ってくれてもいいと思うのだが。
「言ってもよかったんですけど、手伝おうとしますよね? ちょっと嫌で……」
「あー……察したわ」
そりゃ銀も年頃の女の子。同い年ぐらいの男に部屋のものを見られるのは、少し抵抗がいる。
ましてや同じ屋根の下にいるのだ。見られたくないものの1つや2つはあるだろう。いや絶対にある。下着とか。
銀と同じぐらいの年齢の妹がいる空華なら分からんでもない。綺華なら分かると思う。
「……あー、なんだ。よかったぁ。銀ちゃんが黒影寮からいなくなるのかと思ったわぁ」
とにかく、銀が黒影寮からいなくならないことは確定した。ほっと胸を撫で下ろす空華。
だが、目の前の銀はなんだかそうではないような。ていうかそわそわしているような。
「どうしたの、銀ちゃん? トイレ?」
「デリカシーがないですねッッ!! 殴りますよ!?」
「痛ッ!? ちょ、銀ちゃん有言実行はやめよう!? 痛いから! いた、いたたたた。殴んないで殴んないで痛い痛い!」
顔を真っ赤にして銀はポカポカと空華を殴ってくる。割と本気で、しかもグーで。
デリカシーがないとは分かっていたが、そわそわしているから……なんていう理由にはならない。
そういえば、と空華は思い出した。
……銀ちゃんに、告白、したっけ?
「……………………………………」
————やべえ、今すぐこの場から消えたい。いっそ殺せ。
空華は頭を抱えたくなった。いや、もう穴を掘って埋まりたい。いっそのこと翔に頼んで地獄の業火で燃やされてしまうのが1番いいだろうか。
だって公開処刑じゃないか。周りに人がいるのに、告白って。公開告白ならぬ公開処刑である。もう死にたい。顔を覆って真っ先に東京タワーから飛び降りたい。多分死なないと思うけど。
「……えっと、ですね。これは、その、えっと……」
しどろもどろになって言い訳を考える空華。こういう時、国語が弱いって嫌だ。まともな文章が頭の中に浮かんでこない。
「……さっきの告白の言い訳なんて、聞きたくありませんっ」
「いや、だって、銀ちゃんがどこかに行っちゃうと思ったから……いや、マジで。嘘じゃないよ? 嘘じゃないの。だけど、いっそどこか遠くに行くのならもう伝えられるものは伝えちゃえって思って……あはは」
笑うしかなかった。
銀の刺すような視線に耐えられなかった。やめてそんな目で見ないで。
「……嘘じゃ、ないんですよね?」
「…………疑われてもしょうがないようなことをしてきたからね。言い訳はもうしない」
今までの行動を振り返ってみれば、自業自得だった。
銀がきたその時は、部屋に女の子を連れ込んだ。あまつさえ、銀をオトすことをゲームとしてやっていた。
だけど、いつしかオトされたのは自分の方だった。
銀のことを守りたい。支えたい。傍でどうか笑っていてほしい。幸せになってほしい。——その役目を担うのは、どうか自分であってほしい。
だが、
いつでも引きずるのは、
過去に銀を傷つけたであろう、失望させたであろう、己の行動。
「……勝手なことを言ってごめん。忘れて。ホント。銀ちゃんには俺様よりも、もっと誠実な奴を好きになった方がいいよ」
ヘラリと空華は笑った。彼にとっては、本当にいつも通りに笑った。
いつも通りの笑みだと、思ったのに。
「……忘れた方がいいって、なんですか」
銀の震えた声で、その漆黒の瞳からあふれる涙で、空華の偽りの笑顔は崩れる。
「嘘じゃないんですよね? 空華さんが私のこと好きだって、その気持ちは本当なんですよね!?
なのに、何で忘れろって言うんですか?
そんなの、そんなの悲しいじゃないですか……!」
「ぎ、銀ちゃん……やめて泣かないでよぉ。俺様、銀ちゃんの涙なんて見たくないよ……」
「忘れられる訳、ないじゃないですかぁぁ……!」
ダムが決壊したかの如く、銀の瞳からはポロポロと涙が落ちる。
これはまずい。空華は着ていたシャツの袖で、銀の涙を拭った。だけどまだ落ちる。
「あぁもう。銀ちゃん、そんなに泣いたら腫れちゃうって。黒影寮戻ろうか?」
「まだお話は終わっていませんっ」
「ハイ、すんません」
そうでした、終わっていませんでした。
ぐしぐしと少しだけ赤くなった目をこすり、銀は——空華へと抱きついた。
「————私も、好き、です」
「「「「「エンダァァァァァァ————!!」」」」」
「「「「「イヤァァァァァァァ————!!」」」」」
「うぉぉ!? お、お前らいつからそこにいた!」
茂みからガッサァァ! と突如として現れた黒影寮のメンバーに、空華は思わず武器を構えかける。
翔が「最初からだ」とバッサリ言い切った。この野郎。
「モダモダしやがって。男なら女の好意を受け止めてやらねえのか」
「死神に説教される日がくるとはなー」
「テンメェェェェ! 空華ァァァァァ!!」
飛びかかってきたのは何と蒼空だった。空華の胸倉を掴みあげ、唾を飛ばさん勢いで怒鳴りつけてくる。その表情の必死さと言ったら怖い以外の言葉が思いつかない。
「銀ちゃん泣かせてんじゃねえぞコラァァァァ! ていうか彼氏の座を射止めたところでぇ? 威張ってんじゃねえぞ眼帯がァァァ! NTRしてやるからなぁぁぁぁ!」
「やれるものならやってみやがれコラァァァ!」
さすがにこれはむかついたので、空華も蒼空に応戦することにした。
翔を除いて、黒影寮の全員が空華と乱闘するという事態に陥る。これはもう警察沙汰だろうか。いや、痴話喧嘩?
「銀」
「何ですか?」
「俺が言えた義理じゃないが——」
翔はかすかに微笑んで、質問をした。
「幸せか?」
「ハイ。とっても」
銀のその瞳は、仲間と肩を組んで笑いあう眼帯の少年が映っていた。