コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Lv.15 青赤「悩める少女と突き進む少年」 ( No.266 )
- 日時: 2011/12/13 20:56
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: 4yuxSnKU)
- 参照: 魔王「過去最高の長さ! 今回はとあるキャラの登場だよ」
————もっと、もっと早く動けよ俺の脚!
少年は息を切らしながら、夕暮れの森を走る。
鍛えたはずの脚は、肺は、そして自分自身は、ここぞという時に活躍してくれない。
少年はそんな自分に苛立ちを覚えながら、ただひたすらに走った。
◆
「しっかし、コイツってマジパネェんだよ。どのぐらいかと言えばギガント級? ハイパーゴメスのつぇんつぇんつぉんみたいな」
「とりあえず、俺はどこからツッコめばいいんだ?」
噛み砕きすぎるギルベルトの言葉に、ギルベルトは苦笑いでツッコんだ。
「だってこれだぜ?」
初めてラジコンを買ってもらった小学校低学年の男子のような顔で剣——【ブラックオーラを纏った大剣】を見せつけるギルベルト。
よくよく見てみると、装飾などが大分凝っており、まさに小学校低学年の男子と中学校二年の男子が喜びそうな随分とアレなデザイン。
「——まあ、確かに強そうだけどさあ」
————見た目だけかもしんねえぜ? という言葉を呑み込みつつ、ギルベルトにそう言うと、ギルベルトは不服そうな顔をした。
「強そうじゃなくてつえーんだよ! 少なくともお前の棒きれよりかは」
「……あ、いや、これ棒きれじゃなくて弓だからな?!」
爆弾発言に動揺を隠しきれないフォンシエであった。
◆
「っヤベ、マジしんど……ッッ」
歩いても今日中に目的地に着かない訳ではない。
しかし、少年には一刻も早く会いたい人間がいた。
————そのために。
「待っててくれよ、すぐに着くからなッ!」
力いっぱい叫んで、気力をあげていくしかなかった。
◆
————仲、良さそうだなあ。
と、エテルナは心の中でぽつりとつぶやく。
目の前には会ったばかりの不思議なヒト(異世界人だとさっき知った)と、密かに想いを寄せているあのヒト。
そんな二人が楽しそうに話しているのをよそに、エテルナは心にモヤモヤを抱えていた。
想いを寄せているヒト——フォンシエは、昔はあんまり笑顔を見せない人であった。
彼女が彼に会ったのは5歳程であったが、その頃の彼の表情はただただ恐ろしく、エテルナは最初は彼に恐怖した。
後で知った事だが、その少し前に彼の母親が亡くなったという。物心がついた時から父親は居ず、ずっと母親に見守られて成長してきた彼にとって、母親の存在というのは大きなものであった。
今となっては好青年な彼だが、そんなブラックな過去を抱えているのだ。
————それなのに。
そんな彼が、会ったばかりの青年に笑顔を見せているのだ。
些細な事ではあるのだが、エテルナにとってのそれは大きな事なのだ。
そんな彼女に、嫉妬のような羨望のようなモノが渦巻いている。が、純粋でまだ幼い彼女が気付くことはなかった。
「おい、エテルナ」
「——っ、は、はい」
突然話しかけられて驚くエテルナを見て、フォンシエはクスリと笑った。
「どうしたんだ? さっきからぼーっとしてさ。……もしかして、眠いのか?」
それの原因が自分自身であるとは知らずに、フォンシエはエテルナをからかう。
「ち、違いますよ! うう、フォンシエさんのいぢわる」
「ああ、ごめんごめん。悪かったよ」
拗ねるエテルナの頭を優しくポンポンと撫でてやるフォンシエ。
そんな様子を見て、痺れを切らしかけているのが約一名。
「……おい、本題にそろそろうつれや」
「ああ、わりいわりい」
フォンシエは軽く深呼吸をした後、笑顔を消してエテルナの顔をみつめた。
「なあ、エテルナ。此処は何処だか分かるか?」
「へ?」
不思議な質問に思わず首を横に傾けるエテルナ。
「ああ、いやー、……質問を変えるか。此処は今、リヒトの森のどのへんだ?」
「えっと——……」
周りをキョロキョロと見回してから、シアオン方向とイティニム方向への分かれ道である事を伝えるエテルナ。
「それで、だ。……俺達がここら辺よりももうちょっと後ろで言った事、覚えてるか?」
まるで質問の意味が分からないエテルナは、頭の上に?マークが大量発生していた。
——と、そんな時。
エテルナの脳裏に二つの言葉が木霊する。
——————「さて、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないのか? 森は暗いから、遅くなると帰るのも困難になるだろうし」
エテルナと、エテルナの家族を心配してのフォンシエの言葉。
——————「しゃーねえなあ。……1人できちんと帰れるならいいぜ」
自分の我が儘を受け入れてくれた時のフォンシエの言葉。
「…………あ」
やっと、彼らが伝えたい事は分かった。
「つまり、それって——」
「これ以上はお前の命が保障できるかどうかわかんねえ危険な旅になるかもだし、何よりお前の家族に怒られたらかなわねぇ。ようはつまり、もう帰れってこった」
あまりにもストレートすぎるギルベルトの言葉に、フォンシエは声を若干荒げる。
「おい、ギルベルト——「しゃーねえだろ、そういう事なんだから」
「…………」
エテルナは何も言い返す言葉が無く、ただ黙りこむしかできない。
分かっていたことではある。家族に迷惑をかけてしまうし、まだ経験不足である自分がついていっても、二人の足を引っ張るだけだ。
——分かっているはずなのに、心の片隅で「ついていけるかもしれない」と思っていた事もまた事実。
「なんなら、送っていこうか?もうすぐ日が暮れるし、君一人じゃ危ないだろう」
「いや、大丈夫なんです。……大丈夫、なんですけど」
引きとめてほしいとは、口が裂けても言えなかった。
——そんな時、たまたまタイミングが重なり。
◆
「んああ、こんなに遅くなっちまってるッッ!!」
夜の世界と交代しかけている空に向かって舌打ちをしながら、走り続ける少年。
——しかし、進んでいないようで意外と進んでいるのが森のマジック。
彼はもうすぐ目的地方面へとたどり着くところまで来ていた。
————って、あれ?
少年は前方に誰かが居る事に気付く。
よくよく眼を凝らすと、三人の人間を眼が捉えた。
「ん、んんーっ??」
不思議な事に、どこか懐かしい蜂蜜色と水色を瞳が映し出す。
————あ。
少年は確信した。
目の前の人物が自分と深く関係がある人間だという事に気付いたのだ。
気付けば、足取りが異様に軽やかになっていた。
「エテルナぁあああああああああああああああああああ!!!!」