コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Lv.18 組曲「少女と勇者についての組曲≪スイート≫」 ( No.333 )
日時: 2012/01/05 17:31
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: t9FCfkbO)
参照: 魔王「怒涛の新キャララッシュ。今回はちょっとシリアスめだねぇ」

「——イストが勇者召喚? しかも、公表せずに国王の独断で召喚するなど……」

ウェスト国軍本部、某室。
重々しい空気に包まれたそこでは、二人の男性が先日行われた『勇者召喚』についての話をしていた。
「はい。——しかも、その勇者が事故でどこかに飛ばされたようで、現在行方不明だそうです」
長身の男性がそう言うと、目の前にいる方の男性はこほんと咳払いをしてから口を開けた。
「有難う御座いました。もう下がってもらって結構ですよ」
「はっ、了解です少佐」
長身の男性は敬礼をした後、部屋から出ていった。


少佐と呼ばれた男性——ニコラス・フィンレーは、十四歳という若さでスピード出世した凄腕の軍人である。
しかし、その幼さか、それとも彼の身長(十四歳にしては低め)か、はたまた持ち前の童顔のせいなのか、上司や同僚だけでなく部下にナメられている節がある。
「どうせ、僕が偵察とかいう名目でイストに派遣させられるんだろうなぁ……」
自分の若さに憂いながら、ニコラスはふと窓の外を見た。

「————今回の出来事を口実に、戦争でもやらかすのかもしれない、か」







『ようこそ 【シアオン】へ!!▼
ここは きぞくが おさめる にぎやかな まち!▼
あたらしい ぶたいに むねを おどらせながら▼
さまざまな であいを たいせつに しよう!▼』

グラーティア兄妹と別れた後、一言も会話を交わさずに黙々と歩き、やっとシアオンに着いた二人。
ギルベルトは早速説明神のところに向かったようで、フォンシエはやれやれといった表情になった。
「相変わらずこのおっさんつまんねぇな」
「俺には気に入っているようにしか見えないんだけど」
「あアァン?」
「はいはい、すみませんでしたよ」

「——しかし、これからどうしようかなぁ」
故郷よりも明るく賑やかな夜に関心しながら、フォンシエがそう言う。
「ん、何でだよ」
ギルベルトがそう返すと、フォンシエは困ったような表情になった。
「いやー、もう夜も遅いし、宿屋に泊れるかどうかという心配が……」
「なんだと?!」
ギルベルトは目を見開いて大袈裟なリアクションをした。
「いや、そこまで解りやすいリアクションとらなくても……それに、本当に駄目だったら野宿という手が「それが駄目なんだっつう意味なんだよ! この腐れ下僕め!!」
顔面蒼白の異世界人は、慌てて宿泊施設を捜索し始めた。

「この際、ボロ宿でもいいから探すぞ!」
「どんだけ野宿嫌なんだよ……」







「魔王の世界征服宣言にイストの勇者召喚——しかも、世界征服宣言はもう少し厳粛な形で発表するものだというのに世界中にビラをばらまくといった常識外れな感じだし、イストも突然の勇者召喚で、しかもその肝心の勇者が行方不明——随分と異常な形ですね」

新聞を見ながら、赤毛の少女がそう呟く。


————実を言うと、千年ほど前に一度魔王(とはいっても、今の魔王ではなく、異世界の魔王だったらしいが)が世界を征服しようとしており、勇者(この勇者は異世界の勇者ではなく、ディヴェルティメントの人間だったらしいが)がそれを阻止したらしい。
しかし、肝心な資料が何者かの手によって殆ど消滅しており、真相は定かではない。寧ろ、それはねつ造されたことではないかとも言われている。



「……何だか、非常に嫌な予感がしますね」

本に囲まれた小屋で、少女は一人、そう嘆いた。







「宿屋が……どこも空いていない、だと……?!」
ギルベルトは絶望的な状況に頭を悩ませていた。
「やっぱり、野宿するしかないんじゃないか?」「いいや、きっとまだとこかにあるはずだ! RPGの世界では夜中でもきっとどこかは空いているはずだ!」
「一応、俺達からすると現実の世界なんですがねぇ……」
「一体! 俺様は! いつになったら! 休めるんだ!」
フォンシエはそうツッコむも、ギルベルトは全く聞いていないようだった。


——すると。


パァアン。

渇いた銃声の音が、路地裏から聴こえた。
「んな、なんだぁいきなり?!」
ギルベルトは裏返った声でそう言う。
「よく分からないが、とりあえず行ってみるぞ!」
「うひー、腹が減るぜ」
「そういうと余計腹が減るからやめてくれ!」

なんだかんだで昼から何も食べていない二人は、空腹をこらえつつ走って路地裏にはいっていった。







「だーかーら。おじさんはね、『アデレイド家のお嬢さん』が今どこにいるかだけでいいって言ってるんだよ。素直に教えてくれればおじさんは君に何も危害を加えないし——それに、さっきのように銃で脅したりはしないからさ。ね?」
「…………」
銃を構えた男の目の前には、十代中半ほどの華奢な少女の姿。
「素直に教えてくれないとさあ。おじさんの上司に怒られちゃう——というか、言葉通りの意味で首を切られちゃうんだよねえ。本当はおじさんだってこんな風に脅したくないんだけど、おじさんも命かけてるからさあ。……それにね」
おじさんという男はそう言うと、少女の額に銃口をあてた。

「おじさんにも仲間がいるんだ。だから、君だけじゃなくて、アデレイド家のメイドさんや、アデレイド家のお嬢さんが見つかったら、そのお嬢さんも虐殺することは可能なんだよ? ——ねえ、アデレイド家の優秀なメイドさん……いや、名前で呼んであげようか。『ミレイユ=フェリーク』ちゃん」
「!?」
少女——ミレイユの血の気がぞわりと引く。
「さあ、話してもらおうか。おじさんに」
「————ッッ」
絶望的な状況に涙を流しそうになった、


——————その時。




「おいおい、何やってんだよ、おっさん」
「事情は分からないが、その子に発砲することは許さないぞ」

「「!?」」


絶妙なタイミングで、二人が現れたのだった。