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- Lv.19 従者「メイド少女with誘拐事件 後編」 ( No.369 )
- 日時: 2012/01/05 17:30
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: t9FCfkbO)
- 参照: 魔王「せっつめーいかい、せっつめーいかい♪」
「ふへー、着いたー。ぼふっ」
足が棒になるほど歩き、やっとの思いで部屋に着いた二人。
ギルベルトは真っ先にベッドへフライし、フォンシエは上質なチェアーへ腰かけた。
「ふう、屋敷が広いっつーのも困ったもんだぜ」
「確かにそうだな。……っつか、こんなんじゃ掃除も苦労するだろうに」
「あんだけ気持ち悪いほどメイドとかいるんだから平気だろ」
「まあ、そうかもしれないけども——」
そうぐだぐだと二人が雑談をしていると、カタカタと靴音がドアの向こう側から聞こえてきた。
二人はドアの方を向くと、それと同時にノックの音が柔らかく響く。
————あ、そういや、この後世界についてー、とか、この街についてー、とかをミレイユと話すんだったっけか。
ギルベルトはぼんやりと食事中にそんな事を話していた事を思い出した。
「はいはい、はいってドーゾ」
「——失礼します」
ギルベルトは無愛想に返事をすると、ミレイユがドアを丁寧に開けて入ってきた。
「部屋はお気に召していただけたでしょうか」
「ああ、まーな」「中々過ごしやすくて快適だよ」
二人がそれぞれ感想を述べると、ミレイユの表情が少し安堵に染まった。
すると、
「……つか、それを言いに来ただけではねーよな」
ギルベルトがミレイユに向けて言葉を発した。
「はい。本来の目的は——」「この世界の事、そうしてここ、シアオンで起きている事、だろ?」
「その通りです、ギルベルト殿」
ミレイユはそう言うと、二人の方をじっと見た。
「——それでは、説明致しましょうか」
◆
「————なる、ほど。……つまり、この世界、ディヴェルティメントっつーところは人間界と魔界の二つがあって、その魔界の頂点——魔王が人間界を征服しようとしてる、っつのが現状な訳な」
「ああ、そうだ」
三人は椅子に腰かけ、そうしてギルベルトに世界の現状について説明していた。
そして今、ギルベルトは確認のために復唱をしていた。
「それで、その魔王が世界征服のために魔王直属の部下——『七大悪魔』をこの人間界に派遣していると。……しかも、噂によるとシアオンの近くの林——『グレド疎林』にいるかもしれない、であってるか?」
「ええ、その通りです」
ミレイユは無表情でそう応える。
「それでいて、七大悪魔の一人が来たのと同時期に連続誘拐事件が発生。その数日後にお前の主人が攫われた——とりあえず、聞いた話をまとめるとこんなもんか」
「そんなもんだろうな」
フォンシエはそう言うと、ティーカップを手に取り、紅茶を啜った。
「——うん、中々いい紅茶だ」
紅茶好きのフォンシエは、そう嬉しそうにつぶやく。
「それは、ミディ北部で採れる上質な茶葉で精製されておりますので」
「そうかぁ。……ああ、いつか行ってみたいなぁ、そうして出来立ての紅茶を——」「黙ってろ紅茶ヲタ」
「そういえば、お二方が旅をなされた理由は?」
ミレイユがそう質問すると、眠そうなギルベルトの代わりにフォンシエが答えた。
「こいつが昨日、森の中ですやすや寝ててさ。なんだろうと思って、起きたところで話を聞いたら『異世界人だ』とか言い出して。本当にこの世界の事全然知らないっぽかったから、一応は信じる事にしたんだ。——で、今はこいつがこの世界に来た理由を知るために旅に出たんだよ」
「成程。……って、」
ミレイユは何かに気付いたような表情で、慌てて立ち上がった。
「申し訳ございません。——少し、待っていただけますか?」
「え、まあ、いいけどよう」
「ああ、構わないよ」
ミレイユは慌てて部屋から出て行った。
◆
「——しっかし、あんな顔して慌てて出ていくなんて、何があったんだろーな」
ギルベルトが椅子にだらしなく座りながらそう言う。
「さあ……。でも、お前に関係がある事かもしれないぜ」
「そうだったら面白れーんだけどな」
「何でも面白さで判断するなよ……」
フォンシエは呆れながらそう言うと、ギルベルトはムッスリした表情になった。
「げぼくのくせになまいきだ」
「下僕が生意気言ってすみませんねーはいはい」
——などと、いつもの会話を繰り広げていると、ミレイユが新聞を片手に入ってきた。
「んあ、なんで新聞?」
ギルベルトが尋ねると、ミレイユはギルベルトに新聞を渡す。
「今日の朝刊です。——とりあえず、これを見てください」
「はいよ、りょーかい」
活字まみれの新聞を渡され、ギルベルトは嫌そうな顔をしつつも目を通した。
「————って、魔王の世界征服がどーたらこーたらしか書いてねえじゃねえかよ」
ギルベルトは「ちっ」と舌打ちをしつつ、ミレイユに返そうとすると、ミレイユがとある部分を指さした。
「いや、そこでは無くこちらを」
ミレイユの指先には、一面記事の横にひっそりと書いてある記事。
「——————って、マジかよ、これ!?」
ギルベルトは驚愕のあまり、思わず新聞を落としそうになった。
「ん、見せてみろよ」
フォンシエがそう言うと、ギルベルトは少し震えたまま、新聞をフォンシエに渡した。
「どれどれ。————『昨日、イストが勇者召喚を行う。しかし、召喚は半失敗。勇者は行方不明に』……って、」
フォンシエの心音がどんどん五月蠅く喚く。
————そして。
「えぇええええぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!??」
狩人の叫び声は、広大な屋敷に木霊していったのであった。