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- Lv.27 閃光「可憐に舞う戦乙女」 ( No.479 )
- 日時: 2012/05/06 18:45
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: oj1DPSdh)
- 参照: 魔王「さて、そろそろ仕事の準備しなきゃなー」
「っぐぁあああああああああっっ!」
まさかの攻撃に避けることが出来ず、背中からモロに喰らい、青年は血を吐きながらそう叫んだ。
ギルベルトは最初、光によって何が起きたのかが全く分からなかったが、段々目が慣れ、目の前の光景をはっきりと見えるようになった。
……そこには。
「!!」
「油断大敵、と言えばいいのでしょうか。戦いの場で無防備に背中を晒すというのは死に繋がりますよ」
凛とした、耳にすっと通る声が響く。
それは、どこか聞き覚えのある声であった。
「なッ、どうしてミレイユがこんなところに?!」
ギルベルトがそんな事はあり得ない、といった表情でそう叫ぶ。
「送り出した後、心配になって急いでこちらに向かいました。しかし、こんなことになっていたとは……。私が最初からついていれば……」
ミレイユが自分の唇を噛み締めながらそういうと、今度は青年が驚いたような表情になった。
「待て、ここ周辺には俺の仲間が見張っているはずなんだが」
「ああ、彼らなら私が全て倒しました。残るは貴方だけです。なんせ、殆どの方は逃げ出してしまいましたから」
「!?」
青年は信じられないといった表情で辺りを見回す。
すると、青年の背後から足音が聞こえてきた。
「ごめん、わりい、すまない。見事にボロボロになっちまったぜ。あの娘(こ)強すぎんだろ、改造人間かっつの」
そう弱々しく、茶髪の青年は歩きながら言葉を漏らした。
「別に、私は改造人間ではありませんよ。補助術のエキスパートであるメイド長に力を貸していただいただけで」
メイド長っつーと、あの口煩そうな人のことか、とギルベルトはそうぼんやりと思った。
「あー、お嬢さん、アデレイド家のメイドさんな訳ね。屋敷内の人間全員戦えるとかいう。あー納得。道理で強い訳だ」
黒髪の青年はため息と共にそう呟いた。
「つーか、さっきの俺は、自分が言った言葉をそっくりそのまま返されたっつー訳か。俺かっこわる……」
「まあそう言うなって。とりあえず、今日は上司に怒られておこーぜ。右腕同士な」
「うへ、最悪……」
青年二人がそう雑談を繰り広げていると、ミレイユは無表情で彼女の武器『レイピア』を二人の方へ向けた。
「さて、この後はどうします? このまま続けますか?」
そうミレイユが訊ねると、二人は顔を合わせてコクリと頷き、そうして黒髪の青年が口を動かした。
「いーや、降参降参。女の子に負けたなんて恥ずかしいが、俺もこれ以上無駄な争いを続ける程馬鹿じゃねえよ」
青年はわざとらしく手を挙げ、降参の気持ちをミレイユに伝えた。
「しっかし、ごめんな坊っちゃん。あんな風に痛めつけて。女の子に助けてもらえてよかったな」
「……ッッ!!」
ギルベルトは眉を潜めて、顔を歪ませる。
「まあ、悔しかったら毎晩素振りでもするんだな。それこそ、餓鬼みたいにさ」
「っくそ、テメェ……!!」
「あー、後。そこのおにーさんも気をつけた方がいいぜ。その大層なエルフ耳を晒してうろうろしてっと、うちのところにそういうのが大嫌いな奴がいるからさ。惨殺されっぞ?」
「…………」
フォンシエは自分の迂闊さを恥じつつ、朦朧とした意識で青年の言葉を聴いた。
「それじゃ、さよーなら」
黒髪の青年はそう言うと、茶髪の青年と共に一瞬でどこかに消えていった。
◆
「君は、回復術も使えるんだな」
すっかり元通りになった背中を軽く撫でながらフォンシエがそう言うと、ミレイユはゆっくりと首を横に振った。
「確かに、私は回復術は使えますが、それでも回復できる量は微々たるものです。今の私は、メイド長の力を使っているだけですから」
「でも、それが出来ること自体が凄いよ。回復術なんて少数の人間にしか使いこなせないからね」
フォンシエは感心した、というように笑う。
「しかし、ギルベルト殿は」
「……ああ、あいつの事は今は放っておいてやってくれないか」
フォンシエは拳を握りしめながらそう言う。
「俺の力不足で……くそっ」
「さて、この後はどういたしましょうか。一旦引き返して、明日にでも」「いいや、行く。今日中にぶっ潰す」
今まで少し離れた場所で黙りこくっていたギルベルトがそう言った。
「しかし、いくら回復したとはいえ、体への負担は……」
「んなん知るか。俺様はそう簡単に死なねえよks。つーか、あんな風にボロ負けしたから苛々してんだよ。憂さ晴らしに悪魔ボコる」
「……おいおい」
フォンシエは、口ではそう言いながらも、内心ではギルベルトがいつもの調子に戻ってくれてほっとしていた。
「そうですか、それなら」
私もついていきます、と言ってミレイユは二人の目をまっすぐ見つめた。
「ま、俺はいいぜ。回復役がいてくれた方が有難いしな。んで、」
「ふん、自分の命は自分で守れよ」
「……はい」
ミレイユは少し嬉しそうな表情で頷いた。
そうして、三人は当初の目的地へと足を進めていった。
◆
薄暗い室内に、じわりと広がる険悪な雰囲気。
そこには三人の男女がおり、三人とも魔力で実体化したモニターを眺めていた。
そこに映っていたのは、なんとミレイユ達の姿。
青年達がボロボロにやられる様子を、ただただじっと観ていた。
そうして青年達が引き上げた瞬間とほぼ同時に、ぷつんとモニターが消えて無くなった。
「全く、使えない塵(人達)ですね。赤薔薇と青薔薇の二人は、たかが小娘にやられる程度の貧弱な部下しか持っていないようで。哀れなことです」
最初にそう言葉を発したのは、白衣に身を包んだ男であった。
男は近くに置いておいた花瓶から二本の薔薇——赤薔薇と青薔薇であった——を取りだし、そうしてもう片方の手をポケットにつっこみ、中からナイフを取りだした。
……そして。
「だから、こうしてしまいましょう」
そう言った後、男は薔薇の棘を数個切り落とした。
棘は床にポロポロと散らばり、そうして男はその棘を踏み潰した。
「……お前、ほんときもちわりーぜ。なんつーか、生理的に受け付けねえ。ただのバケモンだよ」
その様子を黙って見ていたもう一人の男が、苦々しい表情で独り言のように呟く。
「おや。私は貴方のような野蛮な人間と一緒にされたくないですね。不愉快です、暑苦しい」
「オレもテメーみてえな屑野郎と同じにされたくねーよ」
二人の、色々な意味で対称的な男がいがみ合う。
「そうですか。それはよかった。ところでもうお開きにしません? 私も暇じゃないんでね」
「ま、オレもテメーと一緒にいるのは嫌だからなぁ。『ひとごろし』さん」
「もうやめて!!」
今まで黙りこくっていた残りの一人——なんと幼い少女であった——が、半泣きでそう叫ぶ。
「けんかはやめて! 私達は仲間なんだよ! どうしていつもそうやってけんかばっかりするの! 私達は平和のためにがんばる『リヴァイタス』なんだか「黙れ」
少女の言動を、白衣の男が遮る。
「いくら貴女が五大幹部の一人であり創設者(ボス)の娘だからといって調子に乗っていると殺しますよ?」
「……ッッ!!」
少女は、その言葉と男の狂気的な瞳に恐怖し、何も言えなくなってしまった。
「お前、いい加減にしねえと……」
「さて、私は戻らせていただきます。それでは、失礼」
男は扉を開け、足早に退室していく。
その直後、もう一人の男が少女の近くへと歩いていった。
「アイツの言うことは気にすんなよ。お前は正しいんだからさ。アイツがおかしいだけなんだ」
「……うん」
少女はそう頷いた後、男の腕の中でわんわんと泣いた。