コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Lv.30 強欲「眠れる森の悪魔」 ( No.540 )
- 日時: 2012/08/14 20:41
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: WcizgKjn)
- 参照: 魔王「今回は黎さんの呪文詠唱をお借りしました。かっこいいねぇ」
薄い本でよくあるような、『キャッ、蔓が体中にまとわりついて——』みたいな展開は特になく、動く茨達を切り刻み、二人は立派な鉄の扉の前にたどり着いた。
「どうやら開いているようです」
「不用心な奴なんだな。ま、そうでなきゃ困るけどよ」
ギルベルトはやれやれといった表情でそう返す。
「……ところで、準備の方は宜しいですか? 念のために、回復技でも」「へーきへーき。アドレナリンバンバン出てるぜ。早く戦いてぇ」
ギルベルトはどこか嬉しそうに笑う。普段はみせない、どこか子供らしい笑みであった。
「お前こそ平気か? 足引っ張られちゃ困るからな」
「問題ありません。お気遣い有り難う御座います」
「うし、それならいこーぜ!」
「はい」
ギルベルトは自分の頬を軽くはたいてから、錆び付いた扉を勢いよく開けた。
ギルベルトは拍子抜けした。
まさか、これから倒すべき相手が、まさかこんなにもか弱そうな少女だとは。
エメラルド色の髪。まるで本物のルビーのように、妖しく輝く紅の瞳。薄い桃の唇。あえてシンプルなデザインのドレスが、本人の美しさを引き立たせている。狐耳と九尾が異様な様を醸し出しているが、それすらも美しさの一つとなるような、お伽噺に出てくるような少女であった。
部屋の外観も素晴らしい。今までの荒廃っぷりがまるで嘘のような、白を基調とした空間であった。中でも、茨の中に包まれているかのような、絹のベッドが美しい。
「……なんだこりゃ」
思わずそう素直に言葉が漏れ出す。
「え、えと……何の御用でしょうか?」
小鳥のさえずりのような、美しい声の少女がそう尋ねる。
本日二度目のビックリ。まさかこんなにもか弱そうな以下略がしらばっくれるとは。
「嘘はつかないでください。シアオンの街の人々を——お嬢様まで誘拐したのは貴女なのでしょう」
ミレイユが少女を睨み付けていう。ここまで怒りの色を見せる彼女を見るのは初めてであった。
「え、え? 一体どういう——「まあ、ここまで来たんだ。やることは一つだけだ」
ギルベルトがすうっと息を吸う。そうして、
「俺様の剣の錆にしてやるぜ、悪魔野郎!!」
————まるで悪魔が乗り移ったような表情でそう叫んだ。
◆
————えええ、どういう事なの??
強欲の悪魔、リティアは戸惑っていた。
どうやら、目の前の二人の話によると、この城の近くの街、シアオンで誘拐事件が起きているらしい。
そうして、少女の方はオジョウサマという大切な人が誘拐されてしまったらしい。
そうして——それが、何故か自分のせいになっている。
……どうしてかは分からないけれど、今凄くピンチだ。
「ていやあああああっ!!」
「————ッッ!」
ギルベルトが大剣を突くようにして攻撃する。リティアは間一髪でそれをよけたが、ドレスの装飾が欠けてしまった。
————やはり、戦うしかない。
リティアはラ ベル オ ボヮ ドルマンを握りしめ、先端に魔力を溜める。
「そう簡単に攻撃はさせません!」
ミレイユが止めにかかるが、切りつけようとした瞬間に足に蔓が絡まる。
「『ロサ・ギガンティア』!!」
リティアの叫びとともに、蔓が茨へと変化し、ミレイユに苦痛を与える。
「————ッッ!」「待ってろ、今助ける!」
ギルベルトが茨を斬りにかかったが、猛スピードで茨がギルベルトにも絡まる。
茨が足の肉に食い込み、血が流れ出す。その血は薔薇に吸い取られていき、やがて花が咲き始めた。
「ぐ、あ、がッ……」「うぐっ……」
花が咲いた途端、自分たちの魔力が吸い取らていく感覚をじりじりと感じた。
ギルベルトはなんとか茨を斬りつけようとするが、段々力が弱まっていき、中々そうすることができない。
————さて、時間を稼いでいる間に『奥の手』の準備をしなければ……。
リティアは細々と呪文を詠唱し始める。
「麗しくも深い薔薇を支える鉄線の蔦よ、」
リティアの足元に小さな蔦が生え始めた。
それらはリティアの足元からリティアを囲むように移動していく。
「極楽浄土の泉から呼び出されよ」
そう呟いた途端、蔦が一斉に引っ込んだ。
「ふう、よかった、間に合って……」
ギルベルトは働かない頭で何とか脱出する方法を考えていた。
こんな状態では、斬りつけることなんかできっこない。段々魔力も吸い取られているし、強制送還されるだけならまだマシなレベルだ。このまま人生終了するのもあまりにも味気ない。
一体どうすればいいのだろうか。ふと、自分の血液がひたひたと蔦に滴り落ちているところを見た——
————ああ、そうか、その手があったか。
ふと一つのアイディアが浮かんだ。一か八かの賭けだが、きっと大丈夫。ギルベルトは心の奥底で念じた。
ギルベルトは斬りつけることではなく、大剣に力を送ることに集中した。
これ以上力が吸い取られる前に、チャンスが見つかれば——
そう思った瞬間、一本の茨が大剣の剣先の前に移動する。
「今だッッ!!」
ギルベルトは一気に魔力を放出する。すると、剣自体が燃え始め、瞬く間に茨に引火する。
茨は一瞬力を緩ませた。それだけでも十分逃げられる時間はあった。
「ていっ!」
ミレイユは流れるように薔薇の花を切り裂く。一気にぼろぼろと薔薇全体がしなしなと枯れてしまった。
「!!」
リティアは心から驚いた表情でその光景を見つめた。
「大丈夫か、ミレイユ!」「問題ありません。……助かりました」
ミレイユが軽く微笑む。ギルベルトはそれに応えるようにニンマリと笑みを浮かべた。
「さてよう、悪魔さん。そろそろ本気ださせてもらうぜ」
ギルベルトは剣を構え直す。
「喰らえ、『業火剣』!!」
紅蓮の炎の塊が、リティアにぶつかっていった。
「——って、なんだこりゃ!」
突然、目の前に薔薇の蔦の壁が現れた。それはリティアを守る騎士のように、外部の攻撃を遮断した。
「なんでいきなり、前触れもなかったじゃねえか!」
ギルベルトはうっすらと額に汗を浮かべて叫ぶ。
「こんな高難易度の術、普通は詠唱しないと……そうか、」
ミレイユがそういいかけた後、リティアが壁の向こうから答える。
「ええ。ロサ・ギガンティアで時間稼ぎをしている間に呪文を唱えていました。————これが私の最大魔術、『ロウザ・ステルス』です」
そう言った後、リティアはすうっと息を深く吸った。
「————これが尽きるまでの間に、貴方達を送還させる(たおす)!」