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- Lv.31 王子「お伽噺の定番展開」 ( No.542 )
- 日時: 2012/08/16 20:59
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: WcizgKjn)
- 参照: 魔王「ひゅーひゅー。ってな展開だねぇー」
その壁は脅威で驚異なまでに強固だった。
まず、ミレイユの攻撃がちくりとも効かなかった。どうやら彼女の水・光の属性の技は効かないらしく、それに気付いてからは彼女はギルベルトのサポートにまわった。次々と襲いくる魔術の数々を蹴散らし、ギルベルトに攻撃の機会を与える。
どうやら、ギルベルトの火の属性の攻撃——とはいっても業火剣しかないのだが、それをがむしゃらにあて続けていた。
リティアも段々疲労がでてきている。ただでさえ魔術で魔力を消費しているのに、ロウザ・ステルスの維持の為にも魔力を使わなければならないのだ。そんな状態で悠々としていられる人間はそういないだろう。
「さて、そろそろ死んでもらうぜ、悪魔」
全身汗まみれとなったギルベルトが吐き捨てるように言う。
「あの、本当に私じゃないんです……信じてもらえないとは思います、けど」
「エメラルド色の髪、狐耳、ルビー色の瞳。貴女以外にはありえないと思いますが」
ミレイユは、怒りを交えてそう言い放つ。大事な主が目の前の悪魔に連れ去られたのだ。無理もないだろう。
————もしかしたら、『あの子』が気まぐれで……。
そう思った時には、今まで自分を守っていた壁が脆く崩れ落ちていた。
「これで終わりだ。——『業火剣』」
目の前に広がる炎の海。
『業火』の名に相応しい、彼女の今までの生き様。
ヒトの『アイ』を求めて奪い続けてきた『強欲』が、こんなに呆気なくやられてしまうことになるとは。
————まあ、これも私らしいかな……。
自分の運命を心の奥底で笑いながら、ただ、その時を待った。
それ故に気付かなかった。いや、彼女だけでなく二人も。この場所に向かっていた『彼』の姿を。
「————ッッ!! 危ない!」
業火の海に響く、その声を。
◆
「あ、れ……?」
どうやら意識が一瞬途切れてしまっていたらしい。しかし、本来ならあのまま倒されていた筈だ。
後ろを確認すると、呆然と立ち尽くしている、自分を倒した筈の少年の姿があった。どうやら彼にもこの状況が分かっていなかったらしい。
一方、敵対視していた少女は、こちらを見ながら、困惑した表情を見せていた。それはこちらも一緒である。どうしてなのだろう、しかし、先ほどから温もりが——
————ぬくもり?
おかしい。何故ぬくもりを感じるのであろうか。
そういえば、いつもと見える景色が——
「大丈夫かい、お嬢さ「ひゃああああ!!」
リティアは甲高い声をあげ、耳と尻尾をピンと立てて、ばたばたともがく。
「おい、こらこら、そんなに暴れないでくれ! 落ちて怪我でもされたら困る」
「え、あ……って、んんっ!?」
やっと自分の状況を把握する。
どうやら、自分は俗にいう『お姫様抱っこ』をされているらしい。
童話の中に出てくるお姫様抱っこをされているらしい。大事な事なので二回言いました。
「え、あの——「大丈夫。別に俺は君に何かする訳じゃないよ。というか、あれかな。助けにきた——ってやつ?」
青年は照れくさそうに笑う。
初めてそんな笑顔を見た。少なくとも、自分に向けられた笑顔は。
「って、ああ、ごめんごめん。今降ろすよ」
青年は慌ててリティアを降ろしてやる。リティアはぽけーっと働かない頭を無理やり動かし、お礼の言葉をつらつらと述べた。
——何故だか、胸が疼いた。
「……って、おい! そこでイイカンジの雰囲気作ってんじゃねえ! こんの下僕ウウウウウウウウウウウ!!」
青年はマッハともいえるほどの速さで下僕と呼ばれた青年に近づき、思い切りみぞおちを殴った。
「ぐべッッ、いだ、死ぬ……」「勝手に死んでろ! っつーか、なんで助けたんだよ、こいつは俺様達の敵だぞ?!」
「ちが、敵じゃ、なッッ」
ゲホゲホと咳き込んだ後、ふぅ、と重いため息を吐き出す。
「ふう、落ち着いてきた。ミレイユ、ちょっとこっちに来てくれないか、話したいことがある」
「……はい」
ミレイユと呼ばれた少女は複雑そうな表情で、青年のもとへと歩いた。
◆
「————てな事が、俺達が二手に別れるまでの間にあったんだ。何か質問は?」
「いや、特には」
フォンシエは所々を要約しつつ、リティアに簡単に説明をした。
「それで、これからは二手に別れた後の話なんだが……。そういえば、まだ名前を聞いてなかったな。俺はフォンシエ。で、こっちが——「ギルベルト。俺様の麗しき名前だ」
「……麗しいかどうかは置いておいて、で、こっちがミレイユ。さっき話した、シアオンのアデレイド家に勤めるメイドさんだな」
「はい」
「で、君は?……って、既に俺は知ってはいるんだがな。まあ、二人は知らないだろうからさ」
フォンシエは柔らかく微笑む。リティアは一瞬紅潮しつつ、もじもじと自己紹介をしていく。
「えっと、その……。リティアです。一応『強欲』の悪魔、です」
恥ずかしさで耳が自然と垂れる。その様子は、悪魔というよりも愛玩動物に近かった。
「リティアか、ほんとに悪魔っぽくねー名前だな」
ギルベルトがボソリと呟く。まあ、無理もない。可愛らしい名前とは裏腹に、彼女は人殺しの悪魔なのだから。
「さて、自己紹介はそれぐらいにして、と。早速、本題の方に入っていこう。
——と、その前に。おーい、アヴァリティアー。もう入ってきていいぞー」
「! アヴァちゃん!」
リティアはそう叫んだ後、よろよろと近づいてくる少年の姿をした悪魔に近づく。
「よかった、無事だったんだね……!」
「はい、そこのおにーさんがギリギリでやめてくれましたから!」
アヴァリティアはニコリと笑ってそう言う。
そう言いながらも、彼の目にはうっすらと涙が浮かんでいた。主人との再会に心から喜んでいるのがよく分かった。
「おいおい、気持ちはよく分かるけど、そろそろ止めにして、本題に入らせてもらえないか。こっちも色々と事情があるんでね」
「あうっ、すみません……」「ごめんなさーい」
二人はフォンシエの元へとてくてく歩く。
「よし、始めようか」
「早く話せよー」「お願いします」「は、はい!」「おーっ」
それぞれ声を上げ、フォンシエの台詞に答えた。