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Lv.32 兄弟「まるで本物のようで」 ( No.545 )
日時: 2012/08/18 22:53
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: WcizgKjn)
参照: 魔王「…………」

「——まず、俺が単独行動し始めた時に、妙な事に気づいたんだ」
「妙な事? ここ自体が妙な気がするんだが」
ギルベルトの言葉に、フォンシエはこくりと頷く。
「まあ半分ぐらい正解かな。まず、俺達以外の人の気配がないんだ。まあ、その時はモンスターの気配がうじゃうじゃあったから、それに紛れているんだろうと思ったんだが……。それ以外にもあった」
「足跡とかですか?」
ミレイユがそう尋ねると、フォンシエはふるふると首を横に振った。
「いや、その時は急いでいたからね。そんなこと気にしている余裕なんて無かった。——そんな時でも分かるのが嗅覚だ。なんだか、血の臭いが変だと思った」
フォンシエはそう言った後、しばらく黙った。なんと説明すればいいのか、頭の中で組み立てているようであった。
「俺は普段は狩人の仕事をしていてよく魔物や動物の血の臭いを嗅いでいたんだが、その臭いとここはまるで違う。——ここの臭いは大分時間が経った後の臭いなんだ。恐らく、ここ数日のものじゃない。ずっと前のものだろう」
「よくんなの掃除しなくても平気だったよな」
「あうう……。そ、それはぁ」「それはあえてほーちしてたんですよ! リティアさまのためにっ」
アヴァリティアが困り果てた主人の代わりに説明する。
「このしろは、すーしゅーかんまえまでトクシュなケッカイをはっていたんだ。だから、ここさいきんできたわけじゃなくて、じっさいは、もっとまえからあった。ずっとまえに、『あのヒト』のめーれーでココにいたんだけどね。リティアさまとボクは、セカイセーフクせんげんがでるまえは、しばらくマカイでくらしてた。そのあいだに、リティアさまは『タマシイ』をアイとしててにいれるのをやめ、『バラのおはな』をアイとしててにいれることにしたから、もうヒトをおそったりしないもん! リティアさまはバラをあいするステキなあくまなんだぞ!」
「そう、だったのですか……」
ミレイユはまだ納得がいかないような表情をしていた。
「でも、それと血は関係なくねーか?」
ギルベルトがそう指摘すると、アヴァリティアは少しうつむいて答えた。
「——それは、リティアさまもあくまだから。ちのニオイをかがないといきていけないよ。たべるものはヒトからドウブツにかわったけど。それでもやっぱり、ヒトのちのニオイはかくべつだよ」
「はい……。ごめんなさい、気持ち悪いですよね……」
「そんなことないです! リティアさまはほかの『ななだいあくま』よりもぜんぜん——「アヴァちゃん。そういう事を言っては駄目よ。私達はそこまで力が強くないから、潰されちゃうもの」
「悪魔も大変なんだな。上下関係とか」
フォンシエは思わずそう呟いていた。


「————で、俺はアヴァリティアと戦ったって訳だ」
「さいしょはナメてたけどすっごいつよくって、ボクおどろいちゃったよ」
「俺はこう見えても狩人歴は十年以上だからな。弓の腕もなかなかだぜ」
「こうはんはもう、ボロボロだったもんボク。おにーさんてかげんしてくれなかったからいたかったいたかった」
「しょうがないだろ、こっちも必死だったんだから」
まるで兄弟のような二人のやり取りに、リティアはほっこりして笑みが漏れた。
「そうして、止めを刺そうとした時に、こいつが命乞いしてきたんだ。『何でもするから、お願いだから助けてください。もしもボクが裏切った行為をしたら【倒す】のでなく【殺し】ても構わないから』ってな。だから、此処の案内してもらったり話を色々聞いたりしていたんだ」
「ボクはそこらのイヌなんかよりもゼンゼンじゅーじゅんなんだぞ!」
むすーんと自信満々にアヴァリティアが言う。ギルベルトは若干どころか割とムカついていたが、大人の余裕だと心の奥底で呟いて何も言及しないことにした。
「ちなみに、話聞いてる途中に悲鳴が聞こえたから、こっちに向かったんだ」
「リティアさまをたすけてくれてありがとね、おにーさん」
「どーいたしまして」
フォンシエはにこりと笑う。優しい人がアヴァちゃんの相手でよかったな、とリティアは心からそう思った。
一方、ミレイユはなんとも言えぬ表情をしていた。

「——じゃあ、一体誰が犯人なんですか……。どうしてお嬢様や街の人々が攫われたのですか……。何故、狐耳やらエメラルド色の髪やらルビー色の瞳やらの証言が出てくるんですかッッ」
ミレイユの悲痛な叫びに、誰もが言葉を詰まらせた。
どう彼女に言えばいいのか分からなかった。


——そんな彼女の元へ、意外な人物が近付いてくるとは誰も思わなかった。


「だいじょーぶいっ、絶対いるよ! メイド長だって言ってたじゃん、心配しないの☆」
扉の向こうから、微かに声が聴こえた。全員が扉の方に体を向ける。耳をすませて聴いてみると、軽やかなヒールの音とぺたんぺたんという独特の靴の音が聞き取れた。
そうして、音は急に止まる。それと同時に、重い扉がゆっくりと開いた。
「!!」
ミレイユは目を見開き、そうしてよろよろとその方へ向かう。
「ミレイユちゃん! よかった、無事だったのね……。本当によかった……!」
ブロンドヘアーが美しい、サーモンピンクの簡素なドレスを身に纏った女性は、うっすらと涙を浮かべながらそう言う。
「お嬢様こそ、ご無事だったのですね……。よかった、また会えて……」
ミレイユは主人との再開に驚きつつ、そうして安堵に満たされ、応えるように呟いた。
「ミレイユちゃんに何かあったらどうしようってずっと思ってたの。貴女とまた会えて本当に嬉しいわ」
「私もです……。貴女の事を守りきれずに、私は「そんな事無いわよ。私はミレイユちゃんが私を想って行動してくれたことが嬉しくて……ッッ」
そう言うと、女性はミレイユを抱き寄せ、そうして嬉し涙を流した。
ミレイユは主人の頭を優しく撫で、そうして自身もぽろぽろと涙を溢した。