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Lv.33 道化「Yes!ハンプティ・D GoGo! 後編」 ( No.551 )
日時: 2012/08/20 14:40
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: WcizgKjn)
参照: 魔王さんおでかけなう

「——うん、大分脱線したけどさっきの話に戻ろうと思う」
「ずっと此処にいるのは嫌だからな。さっさと済ませろ」
ギルベルトの命令口調にムッとしながらも、ハンプティは説明を再開した。
「実を言うと、もうすぐハンプティ達の町——『クラウン』で武闘大会が開催されるんだ」
「ん? ……ああ成る程。葡萄栽培が盛んなんだな。大食いでもやるのか?」「やっらっねーよ!! グレープの方じゃないよ武闘だよ!」
「ふむ、サーカスらしく躍り明かすのか」「それは舞踏だよ! てか、いちいちそういうボケいらないから」
何気に息ピッタリなギルベルトとハンプティ。フォンシエはただ何も言及せずにその光景を見ていた。
「……いや、キミも助けようとしてよ」
「まさかツッコミが一人増えるだけでこんなに楽になるとはなー」
「…………むすぅ」
「そういえば、もうそんな時期になったんですね。私も毎年この時を楽しみにしています」
ミレイユがフォローするかのようにそう言うと、ハンプティの機嫌は戻ったらしく、その言葉にうんうんと頷いていた。
「へー、そんなに大きな大会なんだな」
「なんてったって、イストの三大イベントって言われるぐらいの盛り上がりだからねー! 毎年、優勝者にはハンプティが世界中を旅して手に入れたオタカラを贈呈するのだっ」
「あれだろ、ブリキの玩具とかだろ」「ちっげーよ! うえーん、ボサボサ銀髪野郎がいじめるー!」
ハンプティは、泣きながらローズに抱き付くと、ローズは宥めるようにハンプティの頭を撫でた。
「あらあら。——でも、こんなにちっちゃいけど、ハンプティちゃんの凄さは本物ですわ。十数年前から移動サーカス団を運営してて、数々の勲章貰っていたりするぐらいですもの。ハンプティちゃんは一流のマジシャンでもあると同時に、『人を集める力』があるからね。後、その時の旅やコネクションで集めたお宝は、正真正銘の本物よ」
「このチビのがかー?」
「だから26歳だってば————!!」


「ま、それがあるから宣伝しに街へ向かっている途中、ローズ達が倒れてたから、ハンプティ達が助けたのさ」
「本当に助かったわ。ありがとうね、ハンプティちゃん」
「えへへー」
ハンプティはご満悦そうな表情になる。
「ちなみに、その時に私達を襲ったのは、リティアちゃんではなかったわ。リティアちゃんよりも凶暴そうな娘だったもん。……可愛かったけど」
「本当にコイツじゃなかったのか……」
「ほらいったろー! リティアさまはムジツだったんだよー!!」
「ごめんな、二人共。知らなかったとはいえ」
「いえ、いいんです。——いつかはこうなる運命だったから」
リティアはぼそりと聞こえないように呟いた。
「本当に申し訳御座いませんでした……」
「大丈夫ですよ、全然。——これからも、主人さんの事を、大切にしてあげてください」
「はい」
リティアがミレイユに柔らかく微笑む。ミレイユも、それを返すように微笑んだ。
「リティアさま、リティアさま。『アレ』をわたさなきゃですよ」
「ああ、忘れるところだった。——ギルベルトさん。貴方に渡す物が」
「ん、俺様にか?」
「ええ。『世界が選んだ』貴方に」
その言葉にギルベルトは首をかしげたが、気にしない事にしてリティアの正面に立った。
「はい」
そう言って、リティアは青薔薇のペンダントをギルベルトの手に置いた。
「『強欲の悪魔』を倒した証です。『貴方』がしっかり持っていてください」
「……まあ、よう分からんが持っていておく」
ギルベルトは疑問符を頭上に浮かべつつ、ペンダントをしまった。
「んにゃ、それってなんだい?」
ハンプティが興味津々で二人に近付く。
「あ、駄目ですよ。『選ばれた人間』にしか渡せませんからっ」
「選ばれた人間……? って、ここそういや七大悪魔のお城だったんだっけ。」
「って、また俺様おいてけぼりトークす「なら君達は相当な実力者って訳だー! きゃはっ、これなら大会も盛り上がるぞー!」
「…………なんだコイツ」
「さぁ……。俺には何とも」
「もしかして、城に入れた私達三人は……」
二人がリティア達の会話に付いていけず、ミレイユは気づいた事実に戸惑っていると、ハンプティは目を輝かせながら三人の服を摘まんだ。
「それなら、是非是非武闘大会に参加してほしいなー! 今回の賞品凄いし、実力者が集まる大会だから、参加するときーっと楽しいと思うよ!」
「まあ、それなら結構オイシイかもしれんな」
「えー、なんかなぁ」
「憧れの舞台で闘えるなんて……」
「よーし! 決まったからには早く話を進めよう! さ、屋敷に戻ろ戻ろ! 大会の事とか説明したいし、なんなら選ばれた人間についても話すからさ、ねっ!」
「ああ、おうおう……」
ギルベルトはハンプティにぐいぐい押される形でその場を後にした。
「では、私達も戻りましょうか。暗くならないうちに帰らないと」
「そうね。……うふふ、リティアちゃんも今度いらっしゃいね! 紅茶と茶菓子を用意して待っているわー!」
と、主従コンビもそれに続いて部屋から出る。
「さーて、俺もそろそろ戻りますかねぇ」
「あ、フォンシエさん!」
去ろうとするフォンシエを、慌ててリティアが止める。

「その……。フォンシエさんにも渡したい物があるんです」
「ん、俺にか?」
フォンシエはリティアの方を向く。
「はい。——先程は私やアヴァちゃんを助けていただいて本当に有難うございました」
「いや、礼はいらないよ。こっちにも非はあるしね」
「それでも……。私、初めてだったんです」
リティアは唾をごくりと飲んで、胸をきゅっと抑える。
「あんな風に、人に優しく接してもらえた事が。今まで恐怖の対象として恐れられ、石を投げられたり、罵られたりしてきましたから」
「————『悪魔』だから、か」
「はい。まあ、私も人々を襲ったりしていましたから、私も悪いんですけどね。……だから、もう嫌われたくなくて。だから対象を薔薇に変えたんです。でもやっぱり怖がられて」
無意識に涙が零れる。その涙を、フォンシエはハンカチでそっと拭き取った。
「それでも、君は変わろうと努力してるんだろう? 大丈夫。いつかきっとわかってもらえる日がくるさ」
「そうですかね……」
「ああ。もう既に俺がそうだしな。悪魔=怖いなんて方程式は存在しないって事がよく分かったよ。君やアヴァリティアは優しい悪魔だよ」
フォンシエは優しく頭を撫でてやると、ひょこひょこと尻尾が揺れた。
「へへへ……。そうだ、渡さないとっ」
リティアは手で円を描くと、そこからエメラルド色の魔力の塊が現れた。
「これは?」
「これは、私の技『ロウザ・ステルス』です。この先の旅で使ってください。きっと役に立ちますから」
「いいのか? そんなの貰って」
「いいんです。——これが、私の気持ちです」
そっと塊を差し出す。すると、塊がフォンシエの体にすっと入り、消えてしまった。
「凄い、頭の中に呪文が入ってくる……」
「これで使えるようになりました。……さあ、皆様が待っていますから、フォンシエさんも屋敷のほうに向かってください」
「ああ。——じゃあな! また、いつか」
「はい、また会いましょう!」
二人は手を振って、そうして別れた。


————さようなら、私の『初恋』の人。

リティアはぽろりと、一粒の涙を零した。





——そんな彼女の元に、『誰か』が近づいてるとは気づかずに。