コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

第一ステージ⇒第二ステージ a ( No.556 )
日時: 2012/08/21 20:45
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: Wbx5dL14)
参照: トロイ「今回ボクが担当しちゃうよ♪ 暴力シーンがあるから気を付けてっ」

「全く、駄目じゃないかぁ。呆気なくやられて、しかも自分のとっておきを惚れた男にあげちゃうなんて、さ」

黒髪の青年は不気味な笑みを浮かべる。
「てか、本気で戦ってた訳? あんなショボ試合戦闘とは呼べない気がするんだけどッ、な!」「ぐあぁッッ!!」
「アヴァちゃんっ!!」
エメラルド色の髪の悪魔、リティアが苦痛の声で叫ぶ。
目の前の光景はおぞましいものであった。自分の上司である魔王ルーシャが、大切な友達——アヴァリティアを暴行していたのだから。
彼の幼い身体は見るも無惨な姿に様変わりしていた。全身に青痣ができ、ところどころで出血していた。口からは血液を漏らし、それでも主人を心配させないように無理に笑顔を作っているのがまた痛々しい。
「さて、君はこの辺にしておいてあげよう。まあ後はご主人様の無様な光景でもみていてくれたまえ」
「————ッッ!! りてぃあさま、にッ、ゆびいっぽん……」
「うるさい」
ルーシャは闇の塊を一瞬で作り上げ、それをアヴァリティアに容赦なくぶつける。
アヴァリティアは声も出さず、壁に激突し、そのまま気絶してしまった。
「あぁ……ああ…………」
なんて自分は非力なんだろう。魔王に麻痺させられ動けなくなってしまった自分が、大切なアヴァリティアを守れない自分が、たまらなく憎らしい。
「安心して。『神聖水』はかけないからさ。ま、流石に死なれたら困るし」
どうしてこの人はこんなに平然としていられるんだろう。魔王だからって自分の部下に躊躇なく攻撃できる神経がただただ恐ろしかった。
「さーて一発目は派手にいっちゃおっかな!」
「がうッッ!!」
腹をおもいきり踏まれ、血液と胃液を吐きだしごほごほと咳き込むリティアに更に攻撃を加える。これが彼の『オシオキ』なのであった。

「さーてお次はその綺麗なお顔に硫酸祭りかなー。その内元に戻るし問題無いよねっ!」







「さてと、そろそろ魔界(あっち)に転送しようかな。ま、しばらく反省会って事で。元に戻ったら適当に記憶書き換えて生物兵器にしておいてあげるからさっ」
魔王はぱらぱらと無惨な姿になった部下二人の周りに黒の砂をばらまき、そうして呪文を咏唱する。
すると、なにやらブラックホールのようなものが現れ、二人を飲み込んでいった。

「ふぅ。——まぁ、でも悪い事しちゃったのも事実なんだけどねー。『彼ら』があんな動きしたから罪を擦り付けられちゃった訳だし。まあでも、愛があるからこそ手加減はしないものなんだー! ねっ」
と、ルーシャは自分の背後に立っていた人物に振った。
「って、なんか答えてくれたっていいじゃないか。——ああ、そっか。君も何回もあんなことされてきた『被害者』だからね」
「…………」
「ま、それよりも。今回の任務、しっかりやってよね。まぁ、君の事だから平気だとは思うけどさ。期待してるよ」
「…………」
ルーシャは手をパンパンと叩き、汚れを軽く落とした。
「————さてと、そろそろ戻ろうかな。君や他の七大悪魔に任せて、大将はのんびり高見の見物でもしているよ」

そうして、ルーシャは周りの景色に同化するように姿を消した。
一人残された方の人物は、己の武器を構え直してその場を後にした。







「やっぱりか……」
開墾一番、憂鬱げな表情の少年は、頭を抱え完全に嫌そうな雰囲気駄々漏れであつんた。
————どうして僕が『あの』イストに向かわなければならないんだ。嫌がらせか。ああそうか、僕の事情を分かっていつつの嫌がらせなのか。そもそも、僕小佐なんですけど。ただでさえ大量に仕事があるんですけど。しかも「お、お前戦闘だけじゃなくて脳味噌も優秀なんだなー。じゃあ事務仕事もお願い☆」とか言って仕事が山積みなんですけど。どうせ帰ってきたら書類が増えてるんでしょ? いつもみたいに。最初は驚きましたけどね。ここはブラック企業かと。あほなのかと。しかし僕は
「やっほ〜。ニコたん」
「ウェルゲン中尉。久々ですね」
ニコたんと呼ばれた少年、ニコラス・フィンレーはすぐさま脳のスイッチを切り替えて軍人モードになる。
「もー、ニコたん堅いよー。階級はニコたんの方が上なんだから気楽にジュリアって呼んでよぉ」
「たとえそうだとしても、ウェルゲン中尉の方が歳上であり、そうして経歴も長い訳です。そのように呼ぶことは出来ません」
ウィルゲン中尉こと、ジュリア・ウェルゲンはぶーぶー言いながらニコラスに抗議する。男物の軍服なのに、妙に様になっているのが不思議である。
「私の方が背ぇちっちゃいじゃん。まあニコたんもちっちゃいけど」
「身長の話は余計です」
「じゃあどうやったら呼んでくれるんだよーぉ! ……あ」
ジュリアはにやりと笑い、ニコラスの目を見る。
何故か色っぽい、艶やかな表情ではあったが、ニコラスはびくりともしなかった。
「なーんか傷ついたけどまあいいや。——よし、これは命令だ! 私の事をジュリアと呼べっ」
「————っ」
ニコラスはなるべく表情に出さないようにしつつ、そうして思いきり困った。
「ほらほら。歳上の命令だぞ〜。絶対なんだぞ〜」
「……じゅ、」
「ジュ?」
「…………ジュリア、『先輩』」
ニコラスは囁くように名前を呼んだ。
ジュリアはにんまりと笑い、そうしてふと過去の事を思い出した。
————そういえば、ニコたんの事は私が指導してたんだよなぁ。
自分よりも立派になった目の前の少年が、ほんのちょっぴり眩しく見えた。

「——ところで、」
ジュリアはぴっとニコラスの服を摘まむ。
「なんでしょう」
「立ち話もなんだし、ニコたんの執務室入らない?」
「いいんで……って僕の部屋入る気マンマンで言わないでください」
「だめ?」
「……構いませんけど」
「よーし、れっつらごっ!」

ニコラスは心の中で盛大にため息をついた。