コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Lv.34 屋敷「その屋敷(とびら)のむこうに」 ( No.579 )
- 日時: 2012/09/16 20:54
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: B2tgeA34)
- 参照: トロイ「二章開始! タイトルはとある曲から拝借したみたいだよ〜」
五人はシアオンの屋敷に戻り、今までの出来事やこれからの事を整理することにした。
——道中で、シアオンの住民にわいわいと囲まれて、喜びあったり、ローズが「明日に街全体で祝賀会でもしましょう」と大胆すぎる発言をして、本当にそうなることになったが。
客間の上質のソファーに腰掛け、ギルベルトは今までの疲労を吐き出すように、溜め息をどっとついた。
「あはは。久々のおうちねぇ。匂いとかメイドちゃんとか懐かしいわ。やっぱり家が一番よね」
ローズは心から嬉しそうな、安心しきった表情をしていた。
「メイド長や他のメイド達も喜んでいましたね」
「ええ、ほんと。改めて私愛されてるんだなーって思っちゃったもん」
ローズやギルベルトやら五人分の紅茶を注ぎ、ミレイユはそっと座る。
「そー思うのは勝手だけどよ、聞きたい事は山積みだからさっさとそれを済ませてからにしてくんね?」
「……こほん。ローズは、拐われている時はどんな事をされてたをだ?」
気だるそうに言ったギルベルトにやれやれとフォンシエは思いつつ、質問を投げ掛けた。
ローズは少し考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「えーと、なんだか薄暗い——牢獄なのかしらね? そこで手錠をかけられて、座らされていたわ。動こうにも力がはいらなくて……多分そういう魔法がかかっていたのでしょうね。で、一日に一回、その手錠の裏側から針がでて、腕を射した後に血を吸いとられたわね」
「なんて事を——」「落ち着いて、ミレイユちゃん。まあ、そんなに量自体は多くなかったし、不思議と腕には傷が残ってないから。ああ、ご飯は美味しかったわぁ。それに、皆一緒だったし、口枷とかがなかったから皆でおしゃべりとかできて楽しかったわよ」
「…………精神逝ってやがる」
「よくパニック起こさなかったなぁ……」
二人は思わず驚き半分感心半分の台詞を呟いていた。
「流石にちょっとは驚いたわよ。だって目が覚めたら牢獄にいるんだもの。焼いて食べられちゃうかもーって思ったわ」
「やっぱりどっかおかしいと思う」
「ローズは昔っからこんなんだからねー。気にしたら骨が折れるよー」
ハンプティはへらへらとした表情でそう言った。
「そうして、数日後に、気づいたら『モン リッシュ』の山中にいたのよね。皆起きようとしたけど、不思議と力がはいらなくて——ハンプティちゃん達が来なかったら、今頃私達はモンスターの餌になっていたでしょうね」
「ん、ちと待て」
ギルベルトはハンプティをちらりと見る。
「前々から思ってたけど、こいつの他に助けた奴って誰なんだ?」
「そりゃあ、ハンプティの優秀な……って、あっ」
ハンプティに「げっ、どうしよう」という表情がくっきりと浮かびあがる。
「——うん、早めに武闘大会の話を終わりにしよう」
「仲間放置したままだったんだな……」
「ブラック企業だな、ブラックブラック」
「ちっがう忘れてたけどそうじゃないことにしてー! ——じゃあ、話すよ」
話の切り替えの速さにギルベルトは呆れたが、とりあえずハンプティの話に耳を傾けることにした。
「まあ、武闘大会っていうのはその名の通り優勝目指して闘いまくるやつなんだけど、毎年毎年強者ぞろいなんだよねー。南のミディから来る挑戦者も多いかな。ウェストの人はたまーに来るね。ノーフはからは残念ながら参加者はゼロなんだけど」
「なんでだ?」
「現在鎖国中、って言えばわかりやすいかな。だからあんまり人が来ないんだよねえ。行ったことはあるんだけど」
「ほへぇー」
ギルベルトが若干どうでもよさそうに関心してみせる。
「ちなみに、優勝した暁には、この世に一つしかないといわれるすっごい武器をしちゃうんだよ!」
「……ほう」
ギルベルトがにやりと笑う。ハンプティはその反応を嬉しそうに見た。
「ちなみに、大会は五日後。多分それまでの間には山を登ったり装備を整えたり十分な休息をとったりできると思うから、是非参加してもらいたいなぁ」
ハンプティはギルベルトとフォンシエ、そしてミレイユの表情を窺う。
前者の二人は悪くはないな、といった表情をしていたが、ミレイユは重い表情で考えている様子だった。
————たしかに、武闘大会は魅力的だし、自分の腕を確かめてみたい。でも、私はここのメイドであって、戦士ではない。一体どうすれば……。
そんな様子に気付いたのか、ローズは思いもよらないような一言を放った。
「……悩むぐらいなら、クビにしちゃうわ、メイド」
「「「へ?」」」
「…………え?」
全員が凍りつく。そりゃそうだろう、そんな台詞が大真面目な表情の人間から発せられたら。
「別に人には困っていないし、それに、あのお城に入れたって事は、ミレイユちゃんも『選ばれた人間』なんだろうからね。私なんかのところにいないで、ギルベルトくんたちについていきなさい。そうして、世界をもっと深く知りなさい」
「しかし——「貴女は此処で働き始めてからずっと、ほとんどの時間をシアオンで過ごしてきたわよね。貴女がいると私も助かるし、ずっとここにいてほしいけど。……それでも、私はミレイユちゃんの成長の方がよっぽど大切だと思うの」
「お嬢様……」
「だから、いってらっしゃい。未知なる世界へ。まずは山越えをして、武闘大会になるわね。そこで自分の実力を思う存分発揮すればいいわ。その前に、準備を整えないとね。明日は二人を連れてシアオンで色々調達したほうがいいと思う」
ローズは毅然とした表情でそう言う。しかし、本心は寂しさでいっぱいであった。
「それでいいのか、ローズ、そしてミレイユ」
思わずフォンシエはそう声をかける。ローズはただ黙ってこくりと頷いた。
「じゃ、お前は?」
ギルベルトがぶっきらぼうにそう訊ねる。
「——正直、信じられていません。こんな事……。でも、いつかは限界まで戦ってみたかった。あらゆる景色をみてみたかった。それに、クビにされてしまったら、そうするしかありません。……あの、お二方」
ミレイユは二人の顔をまっすぐと見つめる。
「旅にお供させていただけないでしょうか」
ギルベルトとフォンシエは暫く向かい合って黙っていたが、ギルベルトがフッと笑ってミレイユの方を向いた。
「旅は道連れ世は情け、別に構わないぜ。お前つえーしな」
「————!!」
ミレイユの表情はぱあっと明るくなり、弾む胸をきゅっと押さえて、嬉しそうに笑った。
「……三人参加、決定だね」
ハンプティは満足そうに笑った。