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ゆまばい一周年記念作品【ディヴェルティメント学園 前編】 ( No.598 )
日時: 2012/10/21 20:06
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: lyYROhnH)
参照: ゆまばい学園パロディです

ジリ、ジリリ、ジジリリリと、変則的なリズムを刻んで、目覚まし時計のベルが鳴り響く。
まあ、無理もない。ヘンテコになってしまった理由は——「どっせい」
銀髪の目付きが悪い青年は、寝起きにしては豪快に踵落としを決めて、強引に音を止める。
こんな事を毎日のようにしているから時計はどんどんと調子が悪くなっている。別に壊れたら買えばいいし、という販売元涙目な精神の男なのだ。

——そう、ギルベルト・H・アイヒベルガーは。



「……遅いな」
携帯で何度も時刻を確認している蜂蜜色の髪の青年、フォンシエは(実年齢は気にしてはいけない。仕様です)、友人であるギルベルトの家の前でずっと待っていたが、痺れを切らしてインターホンを押してみた。
「おーい、ギルベルトー? 早くしないと置いてくぞー」
『あぁん? ならさっさと行ってりゃいいだろ』
「そうしたらお前学校サボるだろーが」
『…………』
「っておい、切るなよ! おーいってば「うぜーよksks」
扉を乱暴に開けて、ボサボサ頭が現れる。
「ったく、なーんでベンキョーしなきゃいけねーんだろうな」
「わかったからそれを言いながら俺の靴を蹴るのを止めろっ!」
という、相変わらずのノリでぐだぐだと【ディヴェルティメント学園】へ向かっていった。



【生徒会会長】と縫われた腕章を付け、黒髪の青年は堂々と廊下を歩く。
その横には、気弱そうなエメラルドの髪の少女が歩く。
「実に憎たらしい程いい朝だね。昼夜逆になんないかなぁ」
青年はどう足掻いても出来ないであろう台詞を呟く。しかし、彼の言葉には、本当にそれが実現出来てしまいそうな程の威圧感があった。
「あーでもあれか。テレビ番組って夜の方がいいのやってるもんねー。じゃあいいや」
「……あの、会長」「んー?」
狐耳の少女(仕様です)がおずおずと口を開く。青年はちらりと少女の方に顔を向けた。
「あの、どうして私と会長——ルーシャ会長しかいないんですか?」
「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれたねリティア書記っ」
生徒会長ことルーシャは、書記リティアの正面に立ち、胸に手を当て息を吸い込んだ。
「それは——勿論、ネタバレになるからさ!」
「…………はい?」
「いや、折角生徒会は【魔界】メンバーで揃えようってのにさ、ここで出してネタバレになったら勿体無いだろう! やっぱり本編で出てからじゃないとちょっと損したような気になっちゃうじゃんかー。ま、そういう事さ」
「あの、全く理解できないのですが「まあここは、とりあえず皆サボりって事にしようよ、実にありふれていて平和的な解決方法だしね」
「……はぁ」
リティアの頭上にははてはマークが三つほど浮かんでいたが、追求すると面倒な事になることは分かっていたので、気にしないことにした。

二人が玄関まで移動すると、銀髪の青年と蜂蜜色の髪の青年の頭が見えた。
その途端、ルーシャは銀髪の青年に近づき、いきなり胸ぐらを掴んだ。
「やあおはようギルベルトくん。今日も一昔前のバトル漫画みたいなオーラを放っているねぇ」
銀髪の青年——ギルベルトは、鬱陶しそうな表情でルーシャを睨み付ける。
「あーん? いきなり何すんだよテメェ、ブッ殺されてぇのか」
「それはこっちの台詞だよ。なんだよその服装は、ブレザーのボタンを閉めろ。てかネクタイはどうしたネクタイは。そしてこのベルト。赤がかっこいい(笑)とか思っているのかな? 後チェーンを付ける必要はないと思うけどぉ?」
「テメェ風紀委員じゃねー癖にゴタゴタうっせーんだよks。フォンシエの野郎だってネクタイつけてねーぞ。つーかオメーだって黒いマント羽織ってるんじゃねーかよ! なんだよその前のモコモコ、可愛い(失笑)とか思ってるのかぁ?」
「このモコモコの良さが分からないなんてね……。君は非常に残念だね。後僕はいいんだよ別に。お前だけしか指摘するつもりはないし」
「んっ、だっ、とっ、テメェ、ぶっ殺されてえのかああん?」
「はは、止めときなよ。君は弱いんだからさぁ」
二人が仲良く(?)喧嘩している間に、蜂蜜色の髪の青年ことフォンシエとリティアは見ていると微笑ましくなるような会話をしていた。
「あ、おはようございます! 今日もいい天気ですね」
「そうだな。——しかし、君は大変だな。あんなのの下で仕事しなきゃならないんだから」
「まあ、大変ですけど……それでも、皆さんいい人達ばっかりですから辛くはないですよ」
「そうか、それならよかった」
でも、何かあったら相談しろよ、と付け加えて言うと、リティアは頬を紅潮させて、こくりと頷いた。

「しかし、そろそろ止めないとだな。これ以上すると何か破壊しかねない」
「そうですね」
そう言うと、フォンシエはルーシャを殴ろうとするギルベルトの腕を押さえた。
「んだよ下僕、邪魔すんじゃねーよks!」
「落ち着けって。こんなところで殴り合いしたってしょうがないだろ?」
「違うよフォンシエくん。これは僕の粛清だ」
「会長、そろそろ朝礼の時間ですから、ね?」
リティアがそう言うと、ルーシャは渋々と引き下がった。ギルベルトも不服そうだったが、あまり面倒事を起こす気にならなかったようで、腕をゆっくりと下げた。
——と、万事解決したと思ったその時、空気を読まないお惚け教師の声が響いた。
「おはよーん諸君っ。バトルでもしたいなら、面白そうだから許可しちゃうよ〜。さぁ、【闘技場】へれっつらごーだ!」
紫のもみ上げが特徴的な、金髪碧眼の青年——トロイ・メライの一言によって、凄まじい朝が訪れる事になるのであった。



この世界では、人々は様々な【魔術】を使う事が出来る。
それは大小様々で、日常生活で役立つものから戦闘において爆発的な効果を発揮するものまである。
しかし、多くの魔術を使いこなせる者もいれば、ほとんど使えない者もいるのだ。
その中でも、主に戦闘用の魔術を使いこなせる人間が多く通う学園、それが【ディヴェルティメント学園】である。
授業のカリキュラムは普通の高校と大差ないが、授業の一つに【魔術】なるものが存在する。
魔術の基本知識の授業をしたり、選択で【戦闘】【回復】を選び、実技を行ったりするという面が最大の魅力と言われている。
そうしてここ、【闘技場】は、選択で戦闘を選んだ者の憧れの場所——年に一回ある【武闘会】で、選ばれた者のみが闘う事の出来るところである。
そんな神聖な場所に易々と入れてしまうトロイは教師として失格のような気もするが……なんと、その闘技場の管理をトロイがしているんだから仕方がない。基本気まぐれで行動する人だから。
「てか、いいんですかー、トロイ先生」
フォンシエが呆れ顔でそう言うと、トロイはにこにことした表情を少しも崩さずに答える。
「うん。今日の朝行事は二人の闘いの見学に切り替えてもらったから〜」
「な…………」
フォンシエは絶句した。目の前のちゃらんぽらんにそんな権力があるとは到底思えなかったからである。
その一方、当の二人は闘志をみなぎらせて歩いていた。一触即発の雰囲気が漂っており、フォンシエでもかなり恐ろしいものを感じとっていた。
「まあ、模擬武器だからあの大剣の重みが感じられなくて残念だけどよぉ、それでもテメーの面汚しが出来るなら——たまんねえな」
「ハッ、木製でもよろよろしている君の首をもぎ取ってあげるさ」
「っ、よろよろしてねーよks! テメェなんて片手剣でもよろよろしてんだろーが!」
「そんな事してる訳ないだろう、捏造しないでくれるかな」「まーまーまー、闘う時にそれをぶつけてよ。今は大人しく、ね」
元々こんな風にしたのはお前だろうが、とツッコみたかったが、フォンシエはそれを飲み込んでスルーすることにした。


二人は模擬武器——ギルベルトは大剣型の武器、ルーシャは片手剣型の武器を手に取る。
ルールは【トロイが勝ったと判断した方が勝ち】という、単純明快かつ複雑怪奇なものであった。そもそもトロイの基準がどんなものなのかわからないため、どこまでやればいいのか全くわからない。トロイ曰く、「そうでもしないと楽しくないだろう?」とのことだった。
ほぼ全学園の生徒が集まり(サボタージュしている生徒もそれなりにいる)、固唾を呑んで見守っている。
「えーっと、改めてルール説明をしようか。今回は特別に攻撃魔術の使用を許可するよ。で、ボクが勝ったと思った方が勝ち。制限時間は三分。三分経過したら両者引き分けだよ。負けた方はその服装を直す! ……でいいよねっ」
「ああ、構わねえぜ」「望むところさ」
二人は声を揃えてそう言うと、二人への黄色い声援が響きわたった。
フォンシエは溜め息をついてその様子を見守る事にした(リティアはその後ろについている)。
トロイが人差し指をすっと頭上に掲げると、何処から現れたのか、金のトランペットが空高くに浮いた。
「それじゃあ、ラッパの音が鳴ったらスタートだよ〜」
二人はじっと黙って音が鳴るのを待つ。そうして、音が鳴った直後に、二人は地面を蹴った。

ゆまばい一周年記念作品【ディヴェルティメント学園 後編】 ( No.599 )
日時: 2012/10/21 20:54
名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: lyYROhnH)
参照: 勇者VS魔王という夢の構図

残り一分。二人は襲いくる疲労すら気にならなく成る程疲れきっていた。
まさか目の前の相手がこんなにも強いとは。さっきから互角の状態が続き、一向に試合が終わる気配がしない。
しかし、引き分けの時は刻一刻と近付いており、二人は焦っていた。
————後ろに回りこもうにも、ルーシャの野郎がすばしっこくて中々近づけねぇ。隙をついて懐を狙うしかねえんだよなぁ……。
ギルベルトは剣を構え直そうとした途端、ルーシャが剣を思いきり叩きつけてきた。間一髪のところで受け止めたが、このままやられていれば間違いなく戦闘不能に陥っていただろう。
「……ったく、いい加減リタイアしたら? 疲れてるんじゃないの?」
「それはオメェもだろうっ、がっ!」
ギルベルトが大剣を思いっきり押し付けると、ルーシャはそれをバックステップで回避した。
「そろそろおしまいにしようぜ。まあ
最後に笑うのはこの俺様だがな!」
「ふん、前半の言葉には賛同するよ」
ギルベルトは剣先に力を込めると、そこから炎が燃え上がる。
ギルベルトは間合いを取りながら、得意技——【業火剣】を繰り出そうとしていた。
一方、ルーシャの剣には闇の塊がなにかの生き物のように不気味に動き回っていた。
トロイはその様子を見て、不敵に微笑んでいるが、勿論二人が気付くことはなかった。
「うおらああああああああ! くたばれっ、【業火剣】ッッ!」
先に動いたのはギルベルトであった。
剣を振り上げ、ルーシャの懐めがけて全力疾走していく。
ルーシャもギルベルトの懐めがけて剣を叩きつけようとする。
二人の距離が縮まり、決着がつこうとしていた、
——その刹那、第三者の声が響きわたった。
「うおっと、そうはさせねぇぜ」
その人物はいきなり二人の間に割り込む。二人は驚愕して慌てて止めようとしたが、止めようにも止められない。
が、突然身体が急停止した。恐る恐る目を開けると、そこには……
「うあー、結構強くなってんのな」
「「んなッ?!」」
澄んだ小川のような、水色の髪の男が、二人の武器を【素手で】掴んでいた。
「学園長!」
ルーシャは目を丸くしてそう叫ぶ。学園長と呼ばれた男——パラケルススは、やれやれといった表情で二人の顔を眺めた。
「ったく、お前たちはもう少し手加減をしろ。これから授業があんだろーが」
「いでっ」「————! も、申し訳御座いませんでした……」
パラケルススに拳骨で殴られ、二人とも頭を押さえる。ルーシャは細々とした声で謝罪した。
「後トロイ。せめてルールを変えるとかしろ。二人が怪我でもしたらどうするんだ」
「ごめんなさーい、がくえんちょー」
トロイはにこにこと頭を下げる。反省する気はどう見てもなさそうだった。
「しかし、これだと引き分けっていうか……あ、そうだ。ここはがくえんちょーの勝利という事にしようかな♪」
「おう、負けた罰として、お前ら一週間学園指定の服装になること」
「んがッ……!」「僕のマントがぁぁ……」
そう言いながらも、二人は破る気満々だった。
「そうそう、破った場合の罰なんだが、特別に優しくしてやろう。昼休みにこのオレと一緒にひるごは「「言う事聞きます」」
普段なかなか頭を下げない人間が深々と下げている図は実にシュールだった。
「ま、とりあえず万事解決してよかったね♪ これで学園も平和になるね〜」
トロイは相変わらずへらへらと、呑気に笑っていた。


————その後日。
あの自分の信念をやたらと曲げないことに定評のある俺様人間と生徒会長が無駄にキッチリと制服を着こなしており、全学園の笑いものにされたのであった……。