コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 0-1「世界征服をしよう」 ( No.626 )
- 日時: 2013/02/22 18:30
- 名前: とろわ ◆DEbEYLffgo (ID: Ytr7tgpe)
- 参照: 2/22修正
そこは、異様であった。
殺風景かつ広大なその部屋には、テーブルと椅子しか用意されていない。それらには黒を基調とした装飾が施されており、ひとつひとつが美術館に飾られている芸術品のように美しかった。しかし、照明はテーブルの上にあるいくつかのランプのみであった。そのランプの炎はまるで怨霊のようにゆらゆらとゆらめいており、より不気味さを醸し出していた。
それにてらてらと照らされているのは——おどろおどろしい、異形な姿をした者達であった。
人と獣の特徴が入り混じった者もいれば、全身の皮膚がただれている、醜い姿の者もいる。
中でも異様なのは——高級そうな椅子に腰掛けている、一番中央にいる利発そうな男であった。
「諸君。忙しい中わざわざ集まってくれてありがとう。……ま、来なかったら、原型が分からなくなるぐらいに、ぐちゃぐちゃに拷問してたんだけどね」
そう言って、男はせせら笑う。
その男は、まるでお伽噺に王子様として登場するような、爽やかな風貌であった。
短く整えられた漆黒の髪、細身の体型、体格よりも幼く見える甘いマスク。
しかし——彼の瞳は、まるで地獄そのものを現したような緋色の光を放っていた。
いいも悪いもぐちゃぐちゃになったような、たとえどんな事が起きてもなんとも思わないような——そんな印象を与える緋(あか)であった。
「これは重要な話だからね。魔界のトップクラスである君達に集まってもらったのさ。どのくらい重要かというと……今までの仕事を全部投げ出してもいいぐらい、かな」
部屋中に緊張が走る。そんな言葉をこの男の口から聞くのは初めてのことであったからだ。
「ま、驚かないで聞いてくれよ」
男は嬉しそうに微笑む。その瞳は、妖しく恐ろしい光を放っていた。
「これから————僕は、この世界を、ディヴェルティメントを征服しようと思う」
しん、と静まりかえった。
それは、この男の言葉の意味がすぐに理解出来なかったからだ。
そして、その直後——会場は騒然となった。
「な————!」
一人の男が勢いよく立ち上がる。
その男は、栗色の髪と朱色の瞳が美しく、綺麗に整った顔立ちであった。高潔なイメージを与えるが、嫌味には見えない。爽やかな好青年ともとれる顔だ。
ただ——ひとつだけ普通の人間と違うところを挙げるとすれば、狼のように鋭い犬歯であろうか。
「何馬鹿なことを言っているんだ、ルーシャ! 千年間の平和を、先祖の想いを台無しにするつもりか!」
「おいおい……。ブラッド、ここでは魔王と呼べって言ってるだろ。全く、失礼な奴め。そんな口のきき方をしてると、吸血鬼の権限と領土削っちゃうよ?」
その男——ルーシャという名の魔王は、嘲笑するかのように、吸血鬼であるブラッドを鼻で笑った。
「別にそんなつもりはないさ。ただ……無益な争いを無くすには、一つの決定的なまでの支配が必要なのだよ」
「そんな訳あるか! この世界は三つに別れているから平穏でいられるのだ! そんなこと協力——」
「なら、君の大切な人をころしてあげよう」
「————ッッ!!」
ブラッドは唇を噛み締める。拳を思いきり握りしめたせいか、手には血が滲み出ていた。
それほどまでに、彼には大切に想う人がいたのだ。
「——クソッ、下衆野郎め…………!」
「酷いなあ、まだ生かしてやってるどころか、貴重な戦力として大事に扱ってやってることに感謝しておくれよ。……今、そいつには人間界で情報収集をさせているよ」
ルーシャはへらへらと笑いながらそう言う。ブラッドはただ、ギッとルーシャを睨み付けていた。
「さて……。反対意見は認めないつもりだが、何か意見はあるかい?」
当然、誰も口出しをしなかった。もししていたとしたら、今ごろミンチ肉になっていただろう。
「じゃ、作戦会議をしようか。——とはいっても、ゲーム感覚でいい。お城を用意して、勇者ご一行に攻略されていくのさ。こっちは真面目にやってるんだけど、まるで馬鹿にしているようにみせるのがベストだ。だからまあ、徹底的にふざけてくれ。いたって真面目に。まあ、だから。七大悪魔の面々は、城やらなんやら、自分好みの建造物でもおっ建ててくれ。——うーん、説明するのが難しいなあ。この世界にRPGゲームでもあれば、もう少し理解してもらえるとは思うんだけど」