コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.1 )
- 日時: 2011/10/28 20:35
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: r9aqtm1a)
一話
とある事件は新聞の一面を飾った。事件の内容を簡単に説明すると警官殺しだった。本日未明、公園で十数人もの警官が死体で発見された。出かける前に話を聞いた同僚の話によると外に出て一向に帰ってこない友人の様子を見に行ったらその人たちも帰ってこなかったのだとか。その公園には、callingでの戦闘痕跡が多数見受けられた。
今現在、犯人探しが迅速に進められている、とテレビの中のアナウンサー集団は大々的にニュースを流していた。それもそうだ、警察とはその国最高のcalling戦士部隊、ただ圧倒されるだけでなく、こうまで一方的に十数人も殺害されるなど、考えられなかった。
突然、苛ついた男はいきなり、乱暴にその喋る箱の電源を切った。箱ではなく、今の時代では板の方が形容する言葉としては充分正しいかもしれないが。
そんなことはお前たちに言われるまでもなく分かっているのだと荒々しい警官はアナウンサーに対して憤る。
確かにそれなりの実力者である、Effect—Caller[エフェクトコーラー]でないと警察にはなれないが、決して最強の人間が属している訳ではない。実際、警察の中にも信じられないように弱い者もいる。
「あいてっ」
ガシャガシャとCD-Rの山を蹴散らし、バサバサと紙が舞い散る音が向こうから聞こえる。又あいつかと、彼らは溜息を吐く。ここに住む中での、最も鈍臭く、最も弱いと嘲笑されている若手。どうせ何かに足を引っ掛け、転けて残念なことになったパターンだろう。よくあることだ。
「すいません、今すぐ直しますんで……」
あたふたと、急いで片付け作業に入る。散乱したCD-Rを一ヶ所にまとめ、積み上げて机の上に戻す。その次に、落ちた書類全てにざっと目を通して内容で大体を分別して事件ごとに分けている。なぜこんな作業は楽々とこなすくせにそこまで鈍臭いのだろうかと、肩を落とした。人ごみの中歩くと必ず誰かに因縁を付けられる、物が立ち並んでいたら倒す、そして何もないところでいきなり転ける。
警官らしくないと、子供から笑われるほど、第一印象は悪い。ただ、同じ職場で働く者は知っている。事務的作業は天才的に力を発揮する。それを活かすためにこの班の長が余所から引き抜いたのだ。ただしやはり、彼がphone[フォン]をphoneとして使っているところを見たのは中々いない。
「倒された奴はたまにラッキーなんだよな。自分以上に綺麗にまとめあげるんだから」
そういうこともあって、飲食物ではなく、書類やCD-Rのようなデータ類が落ちても文句を言う奴は誰一人いなかった。それどころか全く怒らずに片付けてくれたら良いと告げる奴が多かった。
「召集かかってるぞ」
テレビの電源を乱暴に切った彼は隣にいた仲間に声をかけられた。さっきの話に出てきた班長からの召集だ。おそらくさっき堂々と報道していた事件のことだろうと皆の集まる輪に向かった。
二人が最後にやって来た二人で、もうすでに自分を入れて七人の班員と班長はすでに集合していた。
「諸君、知っているとは思うが、今朝警官が十数人死体で見つかった。犯人はおそらく強力なCaller[コーラー]だ」
やはりそうかと皆が頷く。彼の取り仕切る班は主に凶悪なcalling犯罪に対処するために動いている。
「壁にはphone-number252と刻まれていた。おそらくこれは犯人の番号だ。とすると相当な手練れだ。心してかかれ。……の前に担当のメンバーを決める」
起こる事件は一つではない。日に五件は起こっている。いくらてこずるとはいえ一人検挙するのに総動員する訳にはいかないのだ。
「いつも通り千里眼に従うぞ」
千里眼、それが班長の契約者だ。あらゆる状況を解決する最良の手段を導きだす。
班長が胸ポケットから携帯電話型の機械を取り出した。3084とコードを入力する。そして、それを耳に当てて、小さく強く言う。
「calling……」
十秒程度の短い時間だけだが、そのCallerは目を見開いて空のただ一点を見つめていた。論点から外れたそんな所に何があるかは分からない。それでいつも答えを知れているのがcallingskillの一つ、『千里眼』のEffect[エフェクト=効果]。
その十数秒という時間は何度経験しても周りの者はさっぱり慣れなかった。神秘的な感覚に陥り、我が心の内の不安のような気持ちを沸き上がらせるような気がして、永久の中に閉じ込められた閉塞感のごとき感覚に苛まれる。
「見えた」
その、気味の悪い感覚にもようやく終止符は打たれる。軽く風が吹き、頬を撫でて髪をかきあげるような解放感がさらりと身体の芯を通り抜ける。目に映る全ての光景は、いつもよりも眩しい。生きている幸せのようなものを感じられることは、この副作用で中々に凄い事だといつも皆は感じている。
「ところで、どのようなものを御覧に、いえ、どのような答えが出たのでしょうか?」
班一番の切れ者であり、一応最強と班長に言われている奏白(かなしろ)が訊いてみる。すると、変則的な内容が返ってきた。
「それがだな、奏白。千里眼はお前がこの班で最も強いと思う者をメンバーに入れろと訊いて、答えた者らしい」
皆の脳裏に今まで無かったパターンの答えが返ってきて首を傾げるが、当の本人、奏白はすぐにその問いに答える。
「そうですね……まあ、知君(ちきみ)ですかね?」
その言葉に一同は目を丸くする。誰しもが必ず多少謙遜しつつも彼自身の名を出すと思っていた。しかしだ、出てきた名前は知君、あの超鈍臭人間である。
無い無いと、冗談だと思い、高笑いする同僚を尻目にやれやれと肩を落として奏白は知君の肩に手を置いた。
「ま、そんなんだからたまにはcallingしとけよ」
それだけ言い残し、解散となる。結局メンバーは千里眼に従って知君と奏白になった。
please wait next calling