コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.14 )
- 日時: 2011/11/23 16:13
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 01wfR6nM)
- 参照: 分割、パート2
六話
満月の日の、夕方の話。もうすでに夕月はゆっくりと昇り始めていた。
辺りの景色はもうすでに夕焼けの橙色に染まっていて、日も半分ほどすでに隠れてしまっている。
絵に描くとのどかに映るであろうそんな景色の下、二人のEffect—Callerが戦っていた。片方は、ここ二週間マスコミ、警察内部、そして一般人を騒がせている、未発見だった、ELEVENの一人。
そしてもう一人は、警察の中でも、凶悪なcallingに対応するために出来た凶悪calling犯罪対策課の中でも一番の手練れだと言われる第一班の奏白。彼の実力は警部未満の階級の中では、警察内部で最強。
「今までより、よっぽどやるじゃねぇか。面白い」
そう言った青年は奏白に水の球体を打ち出した。高速で飛ぶ物体は、硬度に関係なく危険。そんなことは奏白だって重々承知していた。
真っ正面から奏白は音波を水に向かって浴びせる。大気を揺るがす音の波動は水の砲弾を容易く拡散させ、弾き飛ばした。キラキラと舞い散る水しぶきが払われたかと思うと奏白は青年の眼前にまで迫っていた。
突然のことに対応できず直後に奏白が放った音波を直接浴びる。今度の波動では喰らった青年は微動だにしない。衝撃は体の内部を突き抜けたが、吹き飛ぶ類のものではなかっただけであり、威力はどうかと訊かれると相当なものだ。
最初に発動させたNEAR SONIQ MOVEMENTを再び呼び起こして奏白から遠ざかろうとする。だが……
「ほんの少しの差で、俺の方が速い」
まるで空中を滑るようにして奏白はまた急接近。なぜこんなことが可能か、青年は考えてみたが思い付けそうにもない。その瞬間、奏白の靴が振動しているのを発見した。
「そうか…音に乗っているのか……」
callingskillを使いこなすと物理的には確実に不可能でも、超人的な何かをすることができる。
奏白がしたのはそのうちの一つ、自身を音に乗せることで自分に音速と全く同じスピードを与える。NEAR SONIQ MOVEMENTは和名だと音速同等の動きだが、NEAR[ニア=近い]と付いているのだ、全く同じという訳ではなく、若干遅い。
「くそっ、phone-number169……」
「遅い!」
それをいち早く察知した彼は別のcallingskillで対向しようとした。新たにphone-numberを入力したはいいが、その瞬間にはもうすでに奏白のphoneは無防備な土手っ腹に押し付けられていた。
何かのタイミングを見計らうように一拍二拍置いた後に、SOUNDを発動、前後から音波の衝撃を交錯させる。二つの衝撃は青年の体内で重なり合い、合成波を作り出してより強い振動となる。重なった二つの破壊音波は内側から青年を攻撃する。
「えぐい力だな……二重奏と言ったところか?」
「生憎、一々技名付ける年頃じゃないんでね、次で決めてやろうか」
奏白は、さっき放ったものが向かいのビルに当たって跳ね返ってくるそのタイミングに合わせて打ち出して、二重奏を見舞った。彼のよく使う、いわゆる常套手段の一つだ。
基本的に全ての内蔵に一通りのダメージを負わせるため、もう青年の体はボロボロだと言える。正直さっき喋ったので精一杯だろう。
しかし、こういう時の対策を打っていないほど抜けた敵である訳が無く、奏白の気が緩んだ隙にphone-numberを入力する。
「phone-number553、Recovery[リカバリー=回復]」
瞬時に身体中の傷は回復する。だというのに、奏白は慌てることなくただぼうっと突っ立っている。
この事に違和感を覚えた青年は、不可解な疑念を取り払うために、奏白を問いただした。
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.15 )
- 日時: 2011/11/23 16:14
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 01wfR6nM)
- 参照: 分割、パート2
「ちょっと……舐めすぎじゃねぇの?」
やや心の中で馬鹿にされていると感じた青年は眉間に皺を寄せて、苛立ったような雰囲気で舌打ちを鳴らした。
その様子を見て奏白は失笑する。そしてさらに、それを見た青年が憤る。
「だから、舐めすぎだって言っ……」
「舐めていないさ」
怒りの一線を越えて怒鳴ろうとした青年の言葉を冷静に、淡々と奏白が遮る。その後に、舐めていないという言葉に驚きを覚えた。
「だったらなんで手ぇ止めてんだよ!それが舐めてるってんだ!」
ゆっくりと、重々しく奏白は深すぎる溜息を吐いた。まだ俺が何をしているのか気付いていないのかと付け足して。
「今してること?攻撃の手緩んでるぞ」
「緩めていないさ。お前と開戦してから手は一度も休めていない」
「何……だと……?」
そう言いながら一歩を踏み出そうとした時に、さっき回復したはずなのに全身を鋭利な、かつかなり重い、針で貫かれるような激痛が走った。
こんな馬鹿なことがあるものかと、自分を叱咤している時間が無駄だった。また奏白が懐に飛び込んできた。
その刹那、彼の中で怒りと言った類の感情が沸き上がってきた。ようやく全てが理解できたが、遅かったからだ。
おおよそ人間が聞き取れない高周波の音、いわゆる超音波で絶えず攻撃されていて、損傷していた。
その程度のことにずっと気が付いていなかった自分に、自分を力でねじ伏せて嘲て見下すように喋る目の前の警官に、言い様のない憤りが、沸々と、湯気を上げている。
「終わりだ、SOUND!」
奏白が止めの一撃に最大音量で莫大な空気の振動を放つ。なりふり構わず打ち放ったので、飛ばない種類でなかったのだが、青年はその場に気力で持ち堪えた。
こんなことは初めてだったので、奏白は目を丸くした。
その隙に、悪魔のようなコール音が、鳴り響く。
「phone-number100、coppy and memory[コピーアンドメモリー=複製と記録]」
瞬間、奏白の体を精密機械で調べとるような、緊迫したような雰囲気が流れた。それ以前に確認する、本当にこの男はELEVENなのだと。
青年の頭上に、Completeと、光で文字が描かれた。完了、その言葉の意味を考えるには、callingskillが大きな手がかりとなっていた。
「俺の能力、取ったって訳か……」
「違うな、写させてもらっただけだ。そんな凶暴なskill持ってねぇよ」
不味いと、歯を力強く噛み締める。ただでさえいくつもcallingskillを持っているだけで脅威的であるというのに、自分の能力も入ったとすると、SOUNDの対策を打たれてしまう。
「phone-number302……」
「しまっ…!」
そして、ついこの瞬間奪った奏白の力を存分に発動しようとする。
慌てた奏白も、その手の中のphoneを持ち直す。驚き油断した彼は、敵に対する集中を欠いていた。
「SOUND……解放!」
「くっそ」
青年が解放する、奏白のcallingskillを。そして、我が武器のはずであるその音は無情にも奏白に襲い掛かる。防ごうとするために音の壁を築こうとするが、一瞬の差で間に合わなかった。
放射状に放たれた波動は奏白の全身を包み込み、その強大な力を轟かせた。
大幅に体力を消費したがまだいけると、強気になったがやはり、もう遅かった。
「phone-number169、FLAME[フレイム=炎]」
燃え盛る紅い炎が奏白の意識を奪い、ようやく気絶させる。この時、警察側の情勢は最悪に近付いた。
そして満月の、夜の話——。
please wait next calling