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- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.16 )
- 日時: 2011/11/25 19:47
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 6CqIKfIj)
- 参照: 分割パート3
七話
空の遥か高みに、ほんの一欠片も欠ける事のない、美しい円形の、黄色い光がそこにある。古来より人々はそれに神秘的な何かを感じて憧れ、崇拝してきた。
少しだけの、うっすらと数多の光を遮る薄い雲が空を覆い、月光にもやをかけてより幻想的に仕立てあげていた。光はその雲の中で拡散して、折角の真円を崩していた。
まるで今まで成功続きだった誰かの失敗を暗示するように。
「綺麗な月の晩に暴君は似合わないのだけれど……」
誰とは分からないが、机の並ぶ一人ぼっちの空間で彼は溜息を吐いた。その表情はとても哀しげで、懺悔のような色がその声音から聞いて取ることができた。
この危機的状況、動かない訳にはいかないと、彼は数年来人に強要されるならともかく、自分から触れようともしないphoneを取り出した。
「…………calling」
そして満月の下、警視庁という建物の目と鼻の先のコンクリートの上で、交戦が長く続いていた。
奏白が倒れてすぐに、仲間の警官達は後詰めにでもなれたら良いと、一斉に駆け出した。奏白がせっかく疲労させてくれたこのチャンスを逃す訳にはいかないと、我先にと。
恐れを捨てて、振り払って走り抜ける彼らの元にはいつも以上の善戦があった。奏白と戦って少し疲労しているからか、単に人数の都合か、はたまた強い意志の問題なのか、多対一とはいえ、ELEVENと対等に渡り合っていた。
「まずは奏白を死守する。ここまで働いた英雄はむざむざ死なせはしない。その間の時間を稼ぐぞ」
千里眼を発動させて相手の動きを先読みできる、奏白の直属の上司たる班長はそのように指示した。全員の思いが強く団結しているこの瞬間では迷いなく彼らは頷いた。必ず奴を検挙してこの国に平和を取り戻す。初めてそんな警察らしいことを考えたと、彼らは感じた。
ようやく気付いたのだ、奏白の強さの理由に。
「かかれ!決して逃がすな!必ず仕留めてやるぐらいの志でいけ!」
統率として彼は引き続き全体としての意欲を鼓舞する。しかしその程度の差異で圧倒できると言うならば、Armyがすでにこの男は終わっている。
そう、終わるはずがないのだ、この程度では。情勢が悪くなりかけているこの瞬間、青年は奥の手を使役した。
「phone-number169!calling、FLAME」
最初から発動させていたNEAR SONIQ MOVEMENTを“発動させたまま”彼はFLAMEを解放した。
ただでさえ三桁のcallingskill、それも500より小さい数なのにそれが二つも重なるとなると……想像を絶することになることは言うまでもない。
「さあ、見せろ。傷を、鮮血を、倒れ臥す虚しさを!しょせんお前らは、ELEVENにはどうあがいても勝てねぇんだよ!」
その声を発しながら彼は動いた。狂気とも呼べるその叫びが聞こえた、ほんの一瞬の後に動く。これには班長も反応ができなかった。どこに現われるか察知する〈見る〉前に、背後に潜まれていた。
彼が気絶する寸前に見届けたのは、紅い炎に身体中包まれて膝を着く、自分の姿。もうすでに、皆の声が遠い。
感傷のための時間など青年は与えなかった。次の標的に狙いを定めて駆ける。しかし、狙った相手が悪かった。決死の覚悟を予期していなかった青年はしっぺ返しを喰らう。
「phone-number3052、calling、Explosion[イクスプロージョン=爆発]」
我が身を犠牲にして、仲間をも犠牲にして、誰もの生命がもう少しの所で済む程度だが、自己犠牲の大爆発を引き起こした。
誰も殺さない強さでの、最大限の威力の攻撃。爆風の初速は音速を越える上に、攻撃半径は超広範囲。回避は不可能。
そう、回避は不可能なのだ。大勢の人間も爆風をもろにその身に受けて、宙を舞う。最も遠くに位置していた警官も飛ばされたが、意識はまだまだ残っていた。そして勝利の喜びに身を浸している時、見つけた。
phoneを手に取り、新たにcallingskillを発動させた一人の男の姿を。
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.17 )
- 日時: 2011/11/25 19:47
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 6CqIKfIj)
- 参照: 分割パート3
「phone-number553、calling、Recovery」
あっという間にその人物は受けた外傷を回復させた。このskillは奏白の交戦中にも使われていた。肉体の傷を高速で修復させるcallingskill。
「やはり、そいつの力は録っていて正解だったな」
倒れ臥す奏白を指差して青年は独り言を呟くように、意識の残るただ一人に話し掛けた。
悟る、確かに回避は不可能だ。でも、防御で破壊力を欠かせて耐え切り、回復すれば万事解決という訳だ。もう、戦う力が残っている者は居ず、万事休すの状況に陥っている。
「そこの奴、ちゃんと見とけよ。お前だ、一人だけ意識のある」
唯一意識の残った警官は呼び掛けられた。よく見ておけと言われ、青年の指差す方向を見る。だが、そこにあるのは無残にも敗北した同僚たち。
自分がここまでしたと誇示したいのかと初めは感じた。お前がさせたのであってお前がした訳じゃあるまいと小声で憎まれ口を叩く。その声も、青年に聞こえて欲しくないと、直前で思ってしまい、恐怖のため消え入るような物になった。
「さぁ……phone-number100、coppy and memory」
ゆっくりと、彼の頭上にCの文字が現れる。ゆっくりと、ゆっくりと。そしてCが完全になったかと思うと今度はまた別の文字が現れる。
そして空にCompleteと文字が瞬いた。一瞬で悟る。奏白同様に全員のcallingskillがコピーされたのだということに。
「さぁて……この世とお別れする覚悟はできたか?」
今奪ったばかりのcallingskillを試すように彼はボタンを押す。その番号はExplosionと同じものだった。
「SOUNDとの併用だ。俺にダメージは無い。さあ、ここで皆して消えな」
爆発のためのエネルギーを青年はphoneの中にため込み始めた。phoneの下から順番に光が満たされていく。
「待っ…」
待って、そう言おうとしたその声を青年は聞かない。ただこの場で制裁を始めようとするだけ。
エネルギーの充填はもうすぐ完了する。五体不満足の彼らに回避する術はない。
「散れ」
そう言い残してphoneを放り出した。放物線を描いて悠然と下に向かって落ちていく。
今にも爆発すると死を覚悟したその瞬間、すっとんきょうな音を上げてphoneは地に落ちた。
「どういうことだ?」
そう言って急いでphoneを奪うようにして拾い上げる。視線を上げるとそこには、さっきまで戦っていなかった警官がいた。
「誰だ?」
するとその男は軽く会釈した。手を見れば、開かれたphoneが握られている。
新手の敵が出てきたと青年は身構えたが、少し待ってもその警官が襲ってくる気配は無い。痺れを切らした青年が仕掛けようとした時、彼は手で律した。
「僕の名前は知君と言います。失礼ながら、あなたの過去は全て知りました」
「何?」
初めは目の前の男の気が狂っているのかと感じたがそんな風でも、嘘を吐いているようでもなかった。
「だからあなたにもお聞かせします、捻れることのない真実を」
この時より、遡ること五年前、月食の、夜の話。
please wait next calling