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Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.2 )
日時: 2011/10/30 17:39
名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: RcHXW11o)

二話

 三日月の夜の話、警察署から少し離れた閑散とした空き地で警官数名が一人の人間と対峙していた。多対一にも関わらず、一人の方は並々ならぬ力で警官たちを圧倒していた。
 物理的な理を外したような超常的な力で、周囲のものは歪んだり、破壊されていた。高速で動く狼のような風貌の者や、炎を操る超能力者のような者、瞬間移動能力者も全て一人の男に良いようになぶられていた。一見優勢に見えて一切の攻撃は当たっていない。

「おい、前のも今のも信じようがないぐらい弱ぇぞ」

 暴力の限りを尽くして暴れ回るその男は喋る隙を見つけたと同時に、嘲笑を含んだ嫌味な声で、一見挑発のような言葉を吐く。だが現状は、そういう風な暴言を吐かれても仕方ないほど情勢は傾いていた。
 そして警官の群れはすでに分かり切っていることを彼の台詞で再確認する。この、目の前にいる存在は、三日前に警官十数人を完膚無きまでに圧倒し、殺害した犯人だと。
 それが事実だと分かった数名は瞬間的に背筋に凍り付くような何かが走るのを感じた。このままでは自分も死んでしまうのではないかという悪い予感。敗北するのではないかという諦めにも似た恐怖。冷や汗がすうっと、額を伝い首に達する。

「興醒めだ、calling…」

 ヤバイと思った瞬間には時すでに遅く、彼のたった三回のプッシュ音が響く。耳にそのphoneを当てた時、その場を絶望が支配する。もう終わりだと、誰もがすでに心の中で不本意な、何かに似た感情でなく、純粋な諦めを感じ取った。
 そして自然災害のような、避けようの無い暴威は今日もまた、暴れ始める。彼自身のcallingskillから生まれる、力によって——。




 そして翌日……




「またかよ、くそっ……」

 報道陣と警察内部は前日同様に、いや、もしかしたらそれ以上の興奮を見せていた。興奮しているのはおおよそ楽観的な一般人とマスコミの連中だけで、警察内部はただ焦っていただけだが、同士の仇を討とうと奔走する警官の姿は興奮と表現するのが正しいかと思われた。

「ELEVEN[イレブン]を起動した方が良いのか…」

 ELEVENとは、Effect—Callerの中でも特に最強と謳われる百十番以下の十一人の人間のことだ。その内の一人が日本の警察の一番のトップであり、もう一人は十年前に日本で見つかり、他のELEVENは全てとある国が保持している。ただ一人、百番の人間だけを除いて。その百十番の能力、つまりはcallingskillどころかその素性すら知らぬ者がほとんどだった。

「しかし警察の一番のトップに頼み込める奴なんていないし…百十番も行方不明だし、踏んだり蹴ったりだな」

 phone-number110はいつの間にか、発見の五年後に行方不明になったらしい。もうそれからさらに五年が経過したが、未だに見つかっていないらしい。phone-number100も同様だ。一つだけ違う点は、百番は未だに一度たりとも発見されていない。
 ELEVENという言葉を耳にした時に、ぴくりと、ほんの少し奏白は反応した。だがそれとは対照的に、知君の方は全くと言って良いほどに反応が無かった。奏白の反応に何か意味があるのかと、周りの者は勘ぐろうとしたが、思い返すとただ単にそこまで危機的な場に置かれていると再確認しただけだろうと、各々の仕事に戻った。
 彼がcallingをする瞬間を、皆は何度も見ているので、phone-numberも知っている。三百二だ。それなりに強いことは間違いないのだが、ELEVENには遠く及ばない。
 犯人の手掛かりを全く得ることができていないこの段階では額に汗を浮かべてせっせと考えなくてはならなかった。詳しいデータの無い状況でそんなことができる人間がいるのかと訊かれたら大半の者はいないと答えるだろう。だが、奏白の場合はあいつならできるかもしれないと、知君の場合、少しぐらいならできるでしょと返す。要するに、知君の場合少ないヒントで大きなヒントに結びつけることができる。

「という訳だ、頼んだぞ知君」

 頼られた知君は奏白の方に寄っていこうとするも、平らな床の上で転倒した。おいおいと、周りの者の目には憐れみの表情が現われるも、本人には届いていない。
 膝を打った痛みに悶絶して、歪めた顔のまま起き上がった。そのまま自分を呼んだ奏白のところへと向かう。ただ一人、転けたことに関しては無関心でいた彼が口を開く。

「大丈夫だよな?じゃあちょっと考えてみてくれ」

 えっ、痛いんですけどと話しかけた知君に構う事なく、考えろと押しつける。少々渋い顔をしたが、手渡された資料とこれまでの聞いたら情報からいくつか考える。

「たった二回だから断言できないんですけど、やっぱり被害者は警官だけなんですよね。しかも署の近くであり、閑散として人のいない所でだけ起こってます。これが本当なら犯人は、革命でも起こそうとしているのではないでしょうか?それよりも不思議なのは…」

 流れるように持ち前のプロファイリング能力を活用して、共通点とそこから推測することを述べる。口だけ動かしている知君は思っている以上に頼もしい。
 素の彼を知っている同僚にとってはあまり凛々しくは見えないが、素を知っているからこそ、その変貌には舌を巻いた。

「革命……か。物騒な世の中になったな」

 遠くの空を見上げて、飲みかけの缶コーヒーを机の上に置いたまま班長は立ち上がった。昔を懐かしむ哀愁のような雰囲気が漂っていた。
 数年前に、全世界を震撼させる大規模なテロが日本で起こった。主犯は女であり、callingの契約相手は停電という現象だった。全国で一斉に大停電。しかし発電所は動いている。この奇妙な事故の原因は前述の通り主犯の女のcallingskillだった。
 そして、班長はその事件の担当だった者の部下だった。中々解決しないその上司に嫌気が差したさらに上層部の連中は、その人を首にした。今の班長が父のように慕っていた人間を。

「あんなことはもう真っ平ごめんだ。何としても食い止めろ。時間はかかっても良い。確実にだ。お前達は絶対に死ぬな」

 力強く、自分の価値観を押し付けるような無理矢理さでそう奏白と知君の二人に班長は言い寄る。
 あんな上司には俺は絶対にならないとでも上を否定するような誓いのような思いは、このような状況で彼を頑なにしていた。

「必ず、俺たちで検挙します」

 力強く、奏白はしっかりと班長に言葉を返した。



please wait next calling