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Re: 携帯電話で闘えてしまう世界    キャラクター募集中です ( No.26 )
日時: 2011/12/01 18:53
名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Rc3WawKG)



「五年前の月食の夜!?そんなもん、今関係無いだろ!」

 知君の言葉を聞いた男は隠す事なく怒りを露にする。怒りを露にした理由は、月食が今関係無いというところではなく、男の過去を知っていると、知君が妄言を吐いたと思い込んだからだ。
 どこの資料にも残っておらず、誰も捜査に関わるどころか、惨劇が起きたことすら知らない事件だ。どうせ警察の長官も知らない。ならばただの下っぱのような知君が知る由も無い。
 それに知ったからと言って知君に、都会で何も知らずぬくぬく生きてきた奴に同情もされたくなかった。どうせその苦しみは誰にも分かりはしない。

「確かに、月食の話は関係無いです、あなたには。ただ単に僕だけがあなたの過去を知るのがアンフェアだと思っただけです」

 あなたには、その部分まで聞き終えた青年はやはりそうだろうと、苛立ったように眉間に皺を寄せた。
 だがその次にまたしても、知君が自分の過去を知ったと言うので今度は怒りでなく奇妙な感情を覚えた。

「じゃあ、何があったのか言ってみろよ」
「分かりました……それは、先週の午後の話————」







 あなたは、家族と一緒に暮らしていた。小さな山奥の村で。総勢二百人程度のphoneすらない田舎でしたが、その村をあなたは大層気に入っていた。
 あなたには、生涯を誓いあった愛しき者がいた。二人は誰からも祝福されていて、いつかは式を挙げる予定だった。
 しかしそれは遮られた。とある問題の前で。その頃近くの山々の木々を次々と切り倒してその辺りにゴルフ場を立てようとする企業があった。村を、山を、自然を愛していたあなたはその企業が次は自分たちの村の辺りの樹木が伐採されると聞いて、その会社に直訴した。
 するとそこで、会社は思いもよらない強攻策に出た。村の殲滅という悪魔の所業に。
 そしてあなたはphoneに出会う。必然的に最後のELEVENが現れた。






「だが、そのせいで大切なもの……」
「うるさいっ!!これ以上言うな!!お前が俺の過去を知っていることは分かった、だからもう……」

 語る知君の言葉を青年は遮った。激しい怒りを、深い悲しみを掘り返さないでくれと、必死で懇願しているようにも見えた。
 それでも知君は、その動く口を止めようとしない。

「あなたというELEVENの存在が進攻者を本気にさせた」
「だから黙れって……!!」
「トランプ・シークレットが牙を剥いた」






 咄嗟に敵のphoneを奪ったあなたは天に導かれるように100と押し、callingした。すると目の前の奴らのskillがコピーされた。
 相当に焦ったでしょうね、トランプ・シークレットは。村の壊滅という彼らにとって楽なはずの仕事はあなたというELEVENの存在でかなりリスキーな物に変わった。襲撃した二人の強者は矛先を瞬時にあなたに変えた。
 でも、動揺したのはあなたも同じで、なりふり構わず力を放ってしまった。見当違いの方向に飛んだそのエネルギーは、村一帯を包み込んだ。
 我に帰ったあなたが見たのは赤く燃える炎と、膝の上で弱々しく生きる最愛の女性。


Re: 携帯電話で闘えてしまう世界    キャラクター募集中です ( No.27 )
日時: 2011/12/01 18:54
名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Rc3WawKG)




「もう止めろって……言ってんのが……聞こえないのかお前はぁっ!!」

 いきなり、いや、とうとうと言うべきか、彼は目に涙を湛えた。顔は悲痛で歪んでいる。
 そこでようやく知君は口を閉じ、黙祷するように冥目した。数秒の後にその目は再び開かれる。

「最後に彼女はあなたに残した。相手を恨むなと。相当……心が綺麗なお方だったようですね」

 子供が駄々をこねているような、五月蝿い泣き方でなく大切な者を失った悲しみに沈む静かな泣き方に変わった。
 目からこぼれた涙は頬を伝わって地へと降りる。その涙の量は普通ではなく次々と、止むことのない雨のように降り注ぐ。

「そうだよ!自分のせいで被害は増えたさ!もしもあの時ちゃんと制御できていたらと今でも思ってる!!」

 静かながら語調を強くして、脅すように青年は再度口を開いた。
 ELEVENは自由に生きれず、安らかに死ねず。世の中の大いなる力に操られて冥俯へ送られる。いつだったか、誰かが言っていた言葉を知君は思い出した。

「分かりました、では……その悲しみ、憎しみ、そしてその根源をこれより奪い取って見せましょう」
「奪い取るだぁ!?何言ってんだお前は!あの後俺なりに色々調べたけど、そんな能力[ちから]は無かった」

 それに同情したのか、知君は目の前の青年に救いの手を差し伸べるように言葉を言い放った。
 だがその差し伸べられた手を青年は振り払うように叫ぶ。そんなことできるはずが無い、と。

「できます、いや、してみせます」
「そんなcallingskillが無い以上、できる訳が…」

 それでも知君はできると豪語する。それがあてのない自信からくる強がりに見えた青年は、呆れるように諦めの言葉をこぼす。
 希望はもうすでに捨てたのだから。今さら餌をちらつかされても何も感じない。そんなことする輩が哀れに見えるだけだ。

「もう良いんだ。お前も死ねよ。phone-number100……」
「させませんよ」

 世に絶望したように、自嘲するように彼はphoneを手に取り、ゆっくりとボタンを押そうとする。
 それよりも早く知君は、ずっと手に持っていたphoneに自分のphone-numberを入力する。

「phone-number110……」

 急に青年の顔つきは変わる。この頼りない青年もELEVENだという真実に。
 しかし思い出す、その番号のcallingskillはassist[アシスト=援助、助力する]、他人の能力の力を底上げする能力。
 やはり知君の言葉は狂言ということに……

「calling、knowing-tyrant[ノウイングタイラント=全知の暴君]」

 大いなる力に阻害されたかのように、青年の力は発動しなかった。その異変に青年は隠しきれない動揺を感じた。
 何度ボタンを押そうとも、幾度callingを試みようとも、契約者は一向に現れない。

「何で!……何があって……こんな!!」

 驚愕に影響されて、自然と声が大きくなる。phoneをそのまま握り締め、壊しそうな勢いでボタンを乱打する。
 嘘だ、こんなことがある訳が無い。phone-number110の力は、こんなものでは……ただただそれだけが、後悔の波の中を何度も何度も輪廻の輪を廻るように復唱される。

「だから……言ったじゃないですか。今度こそお聞かせしましょう。捻れることのない真実を」

 そして、知君がゆっくりと口を開けようとした瞬間に、コツコツと、乾いた音が響いた。コンクリートの地面と靴が織り成すバックグラウンドミュージックが静寂の中に響く。
 誰かと思い振り向くと、そこには二人供が知る一人の男がいた。狐目の、怪しげな笑みを絶やすことの無い白髪の若者。簡単に説明したらそのような感じだ。

「何やえらい楽しそうな話が始まりそうやな。ちょいとワシにも聞かしてもらおか、その話」

 威厳がいかにもありそうな声が、靴の音と共に静寂を裂く。
 この国のELEVENが全て一点にと集まった瞬間————。



please wait next calling