コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 キャラクター募集中です ( No.28 )
- 日時: 2011/12/04 21:10
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Rc3WawKG)
九話
「あな…たは……」
「てめぇ、あの時の……」
欠けていない丸い月の下で、知君との青年の声が重なる。いきなり登場した第三者の存在に驚きを隠し切れずにいた。いきなり出てきたにも関わらず、二人共がこの白髪の若人を知っていた。お互い、知っていた理由は全く異なっていたが。
「なんであなたのような者までがここ……ぁ痛ッ!」
目を見開いたまま、その者のところに詰め寄ろうとした時に、知君は足元のめくれあがったタイルに足を引っ掛けて盛大に転んだ。一瞬、冷たい雰囲気がその場に充満した。こんな奴に敗れたのかと、今更になって進撃していた青年は恥ずかしくなった。そして、関西弁の第三者は盛大に笑いだした。
「えらい間の抜けた子やねんなぁ。こんな奴でも選ばれるって、ELEVENもいい加減やな。ま、ワシが言えることじゃないねんけど」
ひとしきり笑い終えた彼は知君に向かって正直な感想を述べる。緊張感が切れた途端にこれか、とでも言うように。
青年は、そんな態度の男の姿を見て疑問に思う。なぜここまでズケズケと物を言うことができるのかと。彼はまだ知らなかった。この男は、知君の遥か上に位置する、かなり上の方の階級の者であった。すくなくとも、警察では最高位。
「んじゃ、知君くん、ワシの事そこの子に説明したげて」
「分かりました」
上司が部下に指示するように、その人は知君に半分命令するように言う。その指令に素直に従って、幼げな顔の警官は語りだした。
「この方の名前は、古都割 月光(ことわり げっこう)。日本の警察の最高権力、警視総監です」
警視総監、告げられる衝撃の事実に青年は目を丸くする。対して月光は不敵な笑みを浮かべたまま彼の方をじっと見ていた。その視線に、鬼に睨まれたような恐怖を感じた青年は、即座に目を逸らした。
「こんな若い警視総監なんているのか?」
半信半疑、そういった具合で青年は知君に確認するために再度問う。すると、今度は今までで一番驚く答えが返ってきた。
「あの人生まれは江戸時代ですよ」
「……………………は?」
それ以外の言葉は出てこなかった。江戸時代って、callingするためのphoneすらないではないかと、納得できないがゆえの反論が渦を巻いている。
「そもそもphoneというのは、選ばれし者だけに許可されていたcallingという契約者の使役と解放を、どんな人にでも扱えるように核として作り出された装置にしかすぎないんです」
本来Effect—Callerとは他者を隔絶する圧倒的な存在だった。だが、その力を持たない一般の科学者がcallingを欲した。何年も研究を重ね、その科学者は……
「ついにphoneを完成させた」
まあ、そのせいで洒落にならない事件が急増したねんけどな、と月光が横からちゃちゃを入れた。自分がしたこともそれに含まれていると気付くと、胸の奥に歪みのようなものが生まれた。
「callingについてはもう良い。なぜ、江戸の者が今に、こんな若い姿で実在しているんだ?」
「それがワシのcallingskillやからや。ちょっと使う時は頭使ぅてしまうけど、中々使い勝手のええ力やで」
知君に聞いたはずなのに本人が返答する。寿命を延ばすこともできると言うなら、相当恐ろしい能力だろうと。それに思い出す、調べたとき、この国のELEVENは行方不明の百十番、そして警視総監の二名だと。
ELEVENが三人、その状況に少し知君は緊張気味でいた。実質的には二人しかいないのだが、『あの計画』さえ完成すればと。
「ワシの能力はrejection[リジェクション=拒絶]。身の回りの現象を拒絶する能力や」
それでも多少は面倒な制限がかかると彼は続ける。否定型を拒絶して、二重否定で肯定したり、直接生死に関わる事は拒絶できない。
そうでないと死人を生き返らせるという神にも許されざる禁忌に触れることになる。他にも自分のパンチで岩を砕けないことを拒絶したりすると際限無く自分が強くなってしまう。
だが、肉体が老いることは否定できた。それの付加価値として寿命で死ぬことは無くなったが、それでも頭を消し飛ばされたりしたらやはり死んでしまう。
「ついで言うておくと五年前のspiral-truthも拒絶してるからな」
「やはり……分かっていらしたようですね。ところで、僕は『サルベージ計画』に参加するのでしょうか」
途端に、二人にしか分からない会話が始まる。一体何の話をしているのだろうと、青年は首を傾げる。五年前のspiral-truthも、サルベージ計画も、聞いたことが無く、その意味の予測すらできない。
ただ、ずっと緊張感が感じられず、オドオドしたり間の抜けていた知君がいきなり真剣な面持ちになったのだ。少なくとも軽い中身ではなく、『サルベージ計画』は大きなプロジェクトだろうと予測する。
「当然やん。君がいるからこその計画やねんから。君がいないと画竜点睛を欠く、やで」
知君はそれにあまり乗り気ではないようだが、知君がいないと成り立たないことから、月光、つまりは組織としての警察は彼を利用したがっている。
「もう良いからお前の過去を話せよ」
「まだです。もう一つ、あなたにお聞かせすべきことがあります」
いきなり出てきた月光の正体はもう分かったから早く知君についての話を出せと催促する。だが、最後に言っておくべきことがあると、まずは先延ばしにする。これ以上何を言うのかと思いながら、青年は考える。もし自分の罪状についてなら、相当重い罪だろうなと、今更ながらに後悔した。
「あなたは誰一人として殺してません」
そんな風に考えていた矢先にだ、いきなり自分の業が軽くなったことに彼は目を見開いた。そんなこと、ある訳が無いとすぐさま反論する。だが月光もそれを肯定する。
「っていうかワシのお蔭やねんで。ワシはこいつらが負った流血するほどの大怪我を拒絶した」
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 キャラクター募集中です ( No.29 )
- 日時: 2011/12/04 21:10
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Rc3WawKG)
建物の中から現れた何十人もの警官がずらりとその場に並ぶ。青年はその全員の顔を見たことがあった。というより、自らが戦った敵であった。さっきの言葉から理解する限り、これは月光の力のようだ。
「やから、ワレの罪状は殺人やなくて傷害、殺人未遂てとこやな。まあそこからお偉いさんのELEVEN擁護の情状酌量が入るからワレの刑罰は監視付きの留置ってとこやな」
基本的にどの国も戦争に備えてできるだけELEVENを集めようとするから、そのようにあっさりと理由を述べる。
だが、そんなことよりも遥かに気掛かりなことがあったので、青年の関心はそちらに移っていた。
「でも、ニュースで死んだって報道されて……」
「ワレ、やっぱり勘違いしとるやろ。この国がマスコミに介入する力が無い綺麗な国やと思うなよ」
今の日本の世の中は、全て自分が牛耳ってやっているのだとでも言いたげに彼は言い放つ。そんなことがあるものなのかと、青年はただ目を見開いて茫然としている。
「まあ、それを命令させたんはワシの玄孫の玄孫の玄孫や。古都割 日向[ことわり ひなた]、初の女性総理大臣」
次から次へと突拍子もないことばかり口から発するので、そろそろ青年の頭も付いて来れなくなった。だらしなく緩んだ表情を見た月光は、もう限界と感じたのか黙り込んだ。何かを指示するように知君に目をやった。
「じゃあ、そろそろ僕について教えてあげましょうか……」
十年前、僕はただの中学生でした。正確には成りたての、入学したばかりの中学一年生。入学祝いに両親からphoneをプレゼントとして貰いました。そして、もちろんのようにcallingしました。
まさか、自分がELEVENに選ばれるだなんて思ってもみませんでしたよ。そのせいで政府から毎日毎日、二十四時間ずっと見張られているんですから、洒落にならないほど疲れましたよ。そんな疲れるだけの日々が五年も続いた時に、knowingしか姿を現していなかった僕のcallingskillのtyrantの部分がいきなり目覚めました。
僕の能力のknowingの部分の効果は、あらゆる物事を知ることができる力です。callingskillの名前、効果、普通のCallerの場合何を呼び出せるか。そのskillの一番有効な使い道なんかも思い通り知ることができる、全知の力。テストの答えだって簡単に分かる。周りから騒がれないためにわざと間違った解答を記入。
それでもね、やっぱり皆ELEVENを特別視するんですよ。国の息のかかった存在です。下手に手は出せないので、虐めなどは当然起きませんでしたよ。でも……一度たりとも、彼らは僕に心を開いてくれなかった。
こんなことになるのなら小さい頃からの夢だったEffect—Callerだってならなかった方が良かった。そう思った時にtyrantは僕に呟いた。
《ならばお前がELEVENだという事実を捻じ曲げたら良い》
すぐ近くに、spiral-truthを持ったCallerがいたのが、この運命を決定付けました。tyrantの効果、それは……
「他人の能力を無理矢理奪い取ることです」
そして現段階では、奪った力を使い終えた後は、飽き性なので放そうとしますが、我が儘な暴君は返したがらず、どこかへと破棄してしまいます。二度と、持ち主の手には戻らない。
そして、そこらの人から奪ったspiral-truthで、事実を捻じ曲げ、失踪したのは知君ではないと思わせるために、架空のELEVENをでっちあげて全世界にそれを催眠のようにして浸透させました。
もちろんそんなことするためには莫大な精神力が必要なのですが、僕という器を失いたくないtyrantがその一回だけ肩代わりして、力を使ってくれました。まあ、総監は例外ですけどね。
「それが、過去に起きた真実です」
その途端に知君は口を閉じた。何やら哀しげな表情を浮かべて。その理由もすぐに彼は語りだした。
「そのせいで、僕は誰かのcallingskillを奪い、破棄しました。報道を見て僕も初めてskillが無くなることを知りました。そして決めたんです……」
他人のために生きようって。他人を守って生きていこうって。
「だから僕は同じELEVENでありながらこんな事件を起こしたあなたを最初は軽蔑しました。でも、違ったんですね」
あなたは僕と同じだっただけなんです。誰も死んでいないと分かった今、あなたが気に病むことは何一つありません。
そこまで言って本当に知君は口を閉ざし、ポケットをごそごそとあさって手錠を取り出した。ゆっくりと青年に向かって歩いていき、その鋼鉄のリングを彼の両腕にはめた。
カシャンという錠のかかる軽い音が響く。これが、物語の一つの区切りだとでも言うように。
満月は、夜の一番の頂上で、他の星を置き去りにして隔絶した明るさの光を地上に届けていた。
please wait last calling of chapter 1