コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.3 )
- 日時: 2011/11/07 22:09
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 91QMlNea)
三話
月が半円から一欠片程度が欠けたような形をするはずの日の、昼の話。依然として暴威を振るう犯罪者の存在は全てが謎に包まれていた。被害は三日月の晩以来増えていないが、それでも二十人以上の警官が殺されていた。
痺れを切らした上層部は、遂にとある決断を下すことになった——。
Wepon-Callerの起動を命じるとのことであった。
基本的に、Effect—Callerは三桁と四桁の者だけだと以前説明したが、そこには少し例外が含まれている。phone-number9999である者だ。九千九百九十九番だけは、この世に複数人の、同じphone-numberを持つ人間がいる。
そのphone-number9999のcallingskillは、携帯の形状変化、それも武器化である。そういう集団を集めた特殊部隊、Army[アーミー]を起動するとのことだ。徹底されたその集団戦術にはただ押し流されるのみと、一人一人の質より量で押し切る実力行使部隊、それがArmyだ。
「かなり上も焦っているのだな…総監直属のArmyを起動するなど。あの時と違って今度は流血しているからか…それも警官が、数十人も…」
Armyは孤立すると普通の警官一人と比べて圧倒的に弱い。だが、数十人集まった場合は同人数のEffect—Callerを楽々圧倒する最強の集団戦法を持っているとのことだ。そのため、訓練等は相当に厳しいのだが、敗北する機会など滅多に無い。そういう事から、Armyの奴らは弱くして警官の立場に就いているEffect—Callerが大嫌いである。実力が伴っているならまだしも知君のような者は…
「おい役立たず共ォっ!!」
壊れるかと思うような、一瞬はた迷惑にも思える程に荒々しくドアは開けられる。役立たず、そう暴言を吐いて現われたのはArmyの内の一人だった。
「なんで知君とかいうお荷物を使ってんだ!?確かに奏白なら強ぇがな、その知君とかいう奴はカス中のカス、キングオブカスだろうがァっ!!てめぇらは黙って俺たちに任したら良ィーんだよ!」
煩く長く一方的な話し方に班員は皆顔をしかめた。現われたのは一人の男、年齢は三十路と言ったところだろうか、多少の年を渡って勤務しているような雰囲気を放っている。
兵隊のような迷彩柄の敵意丸出しの服を着て、手元には携帯電話に酷似した一本の刀を持っていた。
あれこそがcalling-number9999、transform[トランスフォーム=変形]のcallingskill。
「Army五番隊隊長…西川慎二…」
Armyにはいくつかの分隊がある。特攻隊の一番隊、諜報活動の二番隊、救護班の三番隊、陽動部隊の四番隊、そして力押しの最強集団、五番隊。
五番隊は確かに最も強いが、班員の個々の能力が高いために隊長自体はあまり身体、精神的な能力が高くなくても就くことができる。よってここは有能な人材のために設けられた登竜門とも呼ばれている。
「えっと…知君に何か文句でも?」
「大有りだぁッ!!なぜ貴様のような雑魚が我らを差し置いて世を牛耳っている!?それを言いに来た。試しに知君、てめぇcallingしてみろ」
言われっぱなしではいけないと思った、パートナーである奏白が極めて冷静を保って彼に質問する。何か知君に文句でもあるのかという風に。
しかしそれもあっさりと肯定されてしまう。それの証明だとでも言うのか、知君にcallingを促そうとしている。
「なんだと……!」
奏白の額に怒りの血管が浮き出る。しまったと、西川は後悔した。一人で来たのだ、他のEffect—Callerの機嫌を損ねたら自分が不味い事を思い出したようだ。
だが、その険悪な雰囲気を一時中断し、さらに油を注いだのは知君だった。
「喧嘩は止めて下さい。それに…警察に居続けたいのなら、僕にcallingはさせない方が良いですよ」
喧嘩はするなと、極めて平和の下の住民のような意見を知君が提案する。争うだけでも解決しない上に奏白の機嫌を直したい西川はそれに同意するように頷こうとした。
頷こうとしたのだ、だがその同意の証明の前に知君が今度は爆弾発言をしてしまった。警察に居続けたいのならば自分にcallingはさせない方がよい。それは西川に自分は彼、知君自身に劣ると宣告されているようなものだった。
「えらく上からだなぁ?知君、てめぇやっぱり舐めてんだろ?言えよはっきりと!ア゛ァ!?」
せっかく厚意で言ったのに、なんでこうなるのだろうかと知君は頭を悩ませる。個人としてはそれほど悪いことを言ったつもりは一切無かった。
そんな心情を噂だけ聞いている初対面の西川慎二に察しろと言う方が不可能だった。
それ以前にまず、なぜそのような自信満々な言葉が口から出てくるのかさっぱり同僚すら分からなかった。
「分かった…何でも良いからとっととcallingしろや!てめぇに情けかけられるほど落ちぶれてねぇぞぉ!」
弱ったようにポリポリと彼は頭を掻く。本当にやっちゃって良いの?と奏白の方を向いて首を傾げた。苛立つ奏白はやってやったらいいと、ふんぞり反っている。
疲れたような溜め息を吐いて知君は自分のphoneを、ポケットから取り出す。
重苦しい雰囲気がその場に漂う。ピッ…ピッ…ポッ…とコール音が、その静寂の中で、小さい音ながらも存在感を出して響く。
その携帯電話型の機械を彼は耳にゆっくりと当てた。
「calling……」
瞬間、千里眼などとは比べ物にならないほど怪しい感覚がした。身体中を機械が這い回り、全身の粗を探されているような感覚。それを最も大きく感じていたのは他ならぬ西川だった。
「…………」
何も起こらないじれったい時間が数十秒経過する。誰も言葉を発しようとしないので依然沈黙の均衡は保たれたままだ。
痺れを切らした西川が苛立って怒号を飛ばそうとした時だ、それを遮るように知君が言葉を発した。
「transform、携帯電話武器変形能力。基本変形、日本刀」
「………は…?」
何を言うかと思うといきなりcallingskillの解説を始めた。今そんなことは不要だと言うのに。
「それがどうしたって?」
怒りなど飛んで呆れて目を丸くした西川が間の抜けた声でそう問う。
こいつのcallingskillは一体何だ、今の発言にまるっきり関係ないじゃないかと、ほとんどが頭に疑問符を浮かべる。
そろそろ疑問もじれったさに変わってきたこの頃、ようやく変化が訪れた。いきなり彼のphoneが変形を始めた。ガシャガシャと音を鳴らして、その形は柄のようになる。
どこかで見たことがあるcallingskillだと皆が感じた次の瞬間にその柄のようなそれから、光り輝く粒子の刀身が現れた。
「これじゃあまるで…」
phone-number9999そのものではないか、最初に皆が感じたのはそれだった。
でも一抹の疑問が頭の中を渦巻く要因になっていた。確かにコール音は三回しか鳴らなかった。
三桁のphone-numberで四桁のcallingskillが発動している。その理由は謎に包まれたまま、その日の公務は始まることとなる——。
please wait next calling