コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 本部開始 ( No.32 )
- 日時: 2011/12/25 19:06
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: Zqou3CL2)
二章二話
「オラオラオラァッ!! そんなもんかよ!! あぁ!? コラ!」
「何だこいつ……callingしてない筈なのに……」
「callingだぁ!? 最初からずっとしまくってんじゃねぇかよ!! カスが!」
身の丈程もある大きな太刀を振り回して、大柄でやや痩身の男は暴れている。柄だけでその剣は、五十センチもの長さを誇っていた。白銀に煌めくその刀身には、所々黒ずんだ後がある。長年の戦闘の証といったところだろう。振り回す男の刀さばきにも歴戦の猛者と言うにふさわしい実力が見受けられた。隙の無い斬撃、歪み無く真っ直ぐと振り下ろされる鋭利な切り口。
コンクリートや大理石にまでその切れ味が及んでいるのを、ずっと目の当たりにしている男は終始怯えている。これが当たった時には……そう考えると冷や汗が止まることはない。必死で自らのcallingskillで回避を繰り返している。
「番号までは知らねぇけど、そいつはFloat[フロート=浮上]の能力だな!? ちょこまか逃げ回りやがって……ぶった斬ってやるから降りてこいコラァ!!」
Floatの効果は勿論、あらゆる物を浮き上がらせることだ。だが、それをしやすい順というものがあり、まず第一に自分、次に無機物、その後に有機物且つ無生物であり、最後に己以外の生命体だ。力量の無い者は目の前の敵を浮かすことができない。
そしてここで戦う警官も、それほど実力がある訳でなく、それができない方の一員である。よって相当な悪戦苦闘を彼は強いられていた。
「もう少しの辛抱……もう少しで、第一班が来る……」
止まらぬ冷や汗も、払えぬ恐怖も、湧き出る焦りも何もかもごちゃ混ぜになりながらも彼は桜井率いる一班を待っていた。もう警報は鳴った。ちょっと耐えたらもう良いのだ。だが……目の前の言葉が荒い男はただの者では無かった。
ぐっと足元に彼は全霊の力を、身体中から搾りだして込める。第三者から見ても明らかなほど、そのエネルギーの充足は見て取れた。なぜなら、彼の脚に黄色い何かが収束していたからだ。
「段階弐だぜ!! ドカスがぁっ!!」
そしてその絶大なパワーは瞬時に爆散する。彼が溜め込んだ力を一発で、無駄なく全て地に叩き込んだのだ。コンクリートの地面にハンマーで叩かれたようなヒビが入った。そしてその砕いた張本人の姿は消えていた。
相対する警官の口から声にならない悲鳴が漏れる。目の前には不敵に笑うあの男。見るだけでその重量感が伝わる大太刀はと言うと、いとも簡単に片手だけで振りかぶられている。
「覚えとけ!! これがトランプ・シークレットが一人、イプシロンの実力だ!!」
イプシロンと名乗った男性は迷い無くその刄を振り下ろそうとした。しかしその瞬間、横槍の合図であるコール音が耳に入った。
「calling、SOUND!」
表面積の広い太刀の側面に空気を伝わる波動がぶつかる。世の中に満ちあふれ、それを聞かぬ日はそうそう存在しない波動エネルギー、『音』だ。凄まじいまでの振動はイプシロンの手から脱力させ、剣を弾き飛ばした。
放物線を描いてその刀は地に墜ちた。重力に負けて軽々と着地したイプシロンは忌々しげにその方向を見つめた。そこにいたのは、ひと足早くcallingした奏白、そしてその他の第一班の連中だ。
「てめーらかぁ!? 邪魔したのは!?」
「だとしたら何だって言うんだ?」
代表として奏白がイプシロンに言葉を返す。挑発のための笑みを添えて。
「いーい度胸してんじゃねぇかぁ!! てめえの墓はここ、命日は今日だコラァ!!」
「言ってろ。今日はお前の記念すべき日になるだろうよ」
「んあぁ!? 新手の遺言じゃあねーか!!」
「天道様に長めの別れを告げときな」
舌戦は終わり、二人は身構える。互いに挑発には乗っておらず、どちらもまだ仕掛けようとしない。イプシロンはそうでもないが、奏白には彼のskillが分からない。迂闊に踏み込む訳にはいかない。
それならこうするしかないな、そう思いながら彼が標的にしたのは先ほど弾き飛ばした大太刀。武器は使われない方が有利に決まっている。音波を発する本体であるphoneを刀に向ける。幸いな事に刀と本人のいる方向は対して違わない。直前に気付いても音速には対応できない。今にも発射させようかと奏白がした時にようやく違和感に気付くことができた。
あんなにも長い剣を持っている、だと言うのにも関わらず彼は……イプシロンは……鞘らしき物を持っていなかった。
「考えても仕方ねぇ、SOUND!」
それでも策が読まれる前にどうにかするしか道は無く、高速の一撃を彼は放った。そろそろ自分が狙われていないことに彼も感付いたようで、それに対応すべく自身のcallingskillを発動させる。
しかしだ、ここで奇妙な事が起こる。イプシロンはcallingにphoneを必要としていなかった。
「calling! Expansion and Contraction[イクスパンションアンドコントラクション=伸縮]」
その瞬間、音速よりも速いスピードで太刀の柄の部分が伸びる。そしてそれを掴んだかと思った次の瞬間には、柄の長さは元に戻ろうとし、元のサイズに戻っていた。彼の手元にまたしても太刀が現れる。
標的を見失った音塊は地面を抉るだけに終わった。この事に奏白は茫然とする。今まで誰にも対応されなかった音の攻撃が、いきなり現れた一人の青年にあっさり対処された。
「馬鹿な……そんな事が……あるのか……」
あまりの衝撃に我を忘れて立ちすくむ奏白の、不意を突くなどという卑怯な真似はせずにイプシロンは高々に笑った。嘲るように、見下すように。「やっぱ敵にならねぇーなぁ」と鋭い目で睨み付けてくる。
「くそっ、まだだ!」
もう一度phoneを目の前に構える。本体のイプシロンならば音を回避などという超人的な事はできまい、そう考えた。
だが奏白はまたしても攻撃が無効化される。今回に至っては発射することすらできなかった。
さっきの柄同様に今度は刀身が伸びてきた。間一髪で躱そうとしたが、phoneは貫かれて使い物にならなくなった。
「しまっ……」
「終わりだクズ野郎ォ!!」
そして十数メートルにも及ぶ刄はそのまま振りぬかれ、奏白に襲い掛かる。これまでかと悟り、彼は全身から力が抜ける感覚がした。今までの記憶が走馬灯のように思い出される。ついさっきの知君の転けたことまでも。最後まで締まらない奴だったな、そう言い残そうかとも思ったが、いつまで経っても斬られる感覚は無かった。
「久し振りじゃなんじゃないか? イプシロン」
突如奏白の背後から声が聞こえた。奏白や桜井含め、第一班には声の主が分からなかった。
だが、イプシロンにとっては知り合いのようで、その表情には明らかな驚きが見て取れた。
「第零班班長、小島草太」
鬱陶しげに、イプシロンはそう呟いた。
please wait next calling