コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 〜短期間休載〜 ( No.35 )
- 日時: 2012/02/25 12:32
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: gWvD8deM)
二章五話
「で、この七人が今朝説明した第零班、烏丸組だ」
もう一度、さっきと同じ部屋に戻ってきた第一班の面々は、進出の第零班の登場に目を凝らした。しかし、いかにもベテランの、強そうな連中が出てくると思って身構えた第一班の皆は少し脱力する。現れたのは奏白や知君と同程度、あるいはもっと若い男女の七人組だったからだ。
それも皆が皆それぞれ個性的だった。一人はさっき戦闘にもその姿を見せた紫の髪の毛の男。大人びた雰囲気だが顔は少し幼い。そして、髪の毛の長さと背の高さ以外がその男と瓜二つの女。これには誰もがすぐに双子だと察することができた。隣に位置するのは赤十字のマークの入った白い箱、おそらく救急箱を持っている白衣の男。横ではパソコンを操作し、それ以外には目もくれない女。隣には身の丈ほどの豪弓を持った白い袴の男。アホ程買い物袋を持っている女もいる。そして最後に、たった一人だけ普通の服装で逆に浮いている男。
一通り自己紹介の終わった今、一人一人の名前は覚えた。先程の順番から、烏丸 紫表(からすま しひょう)、烏丸 基裏(からすま きり)、白谷 治(しろや おさむ)、早乙女 沙羅(さおとめ さら)、元眞 代介(げんま だいかい)、烏丸 美千流(からすま みちる)、そして最後に小島草太だ。
「にしても……ELEVENのくせに情けねぇ奴だなぁ」
弓を持つ反対側の手で髪を掻き上げながら代介がそう言った。その辺の不良がそのまま成長したように、常に眉をひそめる不機嫌そうな表情。気に入らないというだけの理由で射られるのではないかと、何人かの者は中々にびくびくと怯えている。見ているだけでもその弓の貫通力が伝わってきて、分厚い岩盤もそれなりに風穴を開けられるのではなかろうかと想像できる。後に判明するのだが、その気になればできるかもしれないらしい。
話を振られた知君は自分にいきなり視線が向けられて目を丸くする。きょとんとして、黙ってしまったその様子に、代介は軽く溜め息を吐いた。こんなに頼りないのが“あの”phone-number110なのだと思うと本当に行く末に対しての不安が煽られる。
「いきなり出てきて大層な物言いだな。まあ、否定できないが」
「否定できないと認めるならば下がっていろ。phoneを使わないといけないボンボンはな」
そのように過小評価を受けた知君のために横やりを入れた奏白だが、同様に見下されて一蹴される。道具を使わないと何もできないのならば引っ込めと、半ば命令されるように。
「あぁ? そんな邪魔な弓持ってるくせに矢を持たない馬鹿に言われたくねぇな」
「お前は眼中に無い。下がれと言った筈だぞ、ボンボ……いや、凡人か? それに俺は矢を持つ必要性が無いだけだ」
完全に見下されて弱者同様の扱いを受けた奏白は、感情を隠さずに代介にぶつける。気に入らないのならば一回戦ってから決めろと、挑発するように彼は口を開く。
「お前、俺とやんのか?」
「闘いにならないから、躾になるな。それで良いか?」
構わねぇ、そう言って奏白は吐き捨てた。幻だろうが伝説だろうが、第零班だからと言って調子に乗って良い訳ではない。寧ろ第一班を軽視するその態度を正すために奏白は喧嘩を売り、勝負を挑んだ。
代介は確かにこの売られた喧嘩を買おうとした。しかし隣の女に止められた。
「ちょっと代介、それは後にしなよ。どーせ似たような事、後でするんだしさ」
「…………それもそうか。紫表、こいつの担当俺な」
「俺じゃなくて部長に言え」
「そして却下だ」
最初に代介を止めたのは沙羅だった。ようやくパソコンを畳んで顔を上げたかと思うと、最初にした事は喧嘩の仲裁だった。このタイミングでそんなくだらない事をして、面倒に転がり込んだら困る。強大な組織に対抗しなければならないのだ、身内で割れてはいけない。
正論を述べられると、反論した場合ただの言いがかりになる。否定できなくなった彼は紫表に、後々の何かしらの作業の担当を自分にしろと言ってのけた。しかしながら、紫表は小島の方を見ながら部長に言えと指示し、もう一度言われる前に小島は提案を拒否した。
「なんでっすか? 別に誰に誰が付いても良いっしょ」
「仲が悪くなければな。だから却下だ。割り当てを言うと紫表が月光様、基裏が知君、奏白は沙羅、残り十人程度を残った中から治を抜いた三人で担当。治は怪我の治療だ」
別に良いじゃないかと反抗をする代介など構わずに桜井の方を小島は見た。グループのリーダー同士で納得の上で進めたい用事があるのだとか。一体どういった用事なのかと桜井が聞き返すと、簡単な話だと小島は切り出した。
まず最初にトランプ・シークレットは自分たちが想像している以上に強いと釘を刺した。これに関しては誰もがすぐに納得した。なぜならあの奏白が、イプシロンという男に全く歯が立たなかったからだ。第一班の中でもこと戦闘能力に特化する奏白が手も足も出なかったのだ。後にその話を聞いた知君も目を丸くしていた。
「これから一週間、俺たち第零班の下で、第一班の面々には強化プログラムを受けてもらう」
「強化……プログラム?」
「あんたらが目に余るほど弱っちぃからよ」
「うぐっ……」
あっさりと美千流が一班全員を弱いと切り捨てる。反論しようにも彼らから見たら自分たちは弱すぎる存在だ。抵抗はそれこそ無駄というもので、一回殺り合うかどうかと訊かれたら負けとしか言い様が無い。
そんな現状にイライラとした奏白は煮え切らない怒りをどこにぶつけることもできずにしまい込んだ。本来処理しないといけないタイプの感情の爆発を胸中にしまい込んでしまったために、後にとても不味い事態に陥ることを彼らは未だ知らない。奏白自身もだ。
「……総監もですか?」
「そうだ。月光も弱いからな」
「口を慎めよ。仮にも上司だろうが」
さっきの会話の中で一つ疑問に思ったことを知君は烏丸組に訊いた。なぜか月光の名が入っていたからだ。答えたのはリーダーの小島ではなくエースの紫表。彼にとっての強弱の判別はphoneを必要とするかどうか、ただそれだけだ。その事に奏白は失礼だろうと紫表を批判した。
「別に。お前は上司に一々敬意を払うか? 払う訳が無い。そこの桜井さんは知らないけど薄汚れた木偶の坊には絶対に払わないだろう?」
紫表の正論に何も返せなくなった第一班の面々は口を閉じた。口でも腕でも彼には勝てる気がしないからだ。救いとなっているのは烏丸紫表が元眞代介のように挑発的でないことだ。無駄な争いを嫌うのか、心根が優しいからか知らないがそれは大分ありがたい。
そうは言っても、烏丸組は月光直属の最強の部隊。今、烏丸紫表は桜井をさん付けして呼んだ。初対面の相手に敬意を払ったのに、直属の上司をぞんざいに扱うことが理解しがたい。それを察した紫表は興味深い一言を残した。
「あいつは決して、正義のヒーローなんかじやないさ」
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