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Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.4 )
日時: 2011/11/13 21:35
名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: z9DnoDxA)

四話









 去る日から数日後、半月の、夜の話。数百人の武装警官が一人の青年と戦っていた。殺気全開で、本当に殺害しそうな勢いで。練りに練られ、鍛えに鍛えられた最高の戦術と強靭な筋肉が集団を構成する者たちのほとんどに見受けられた。
 彼らが一番上に着こんでいるジャケットには五番隊と荒々しく赤の糸で刺繍されている。
 だがここには、いないといけないはずのあの人間の姿は見えなかった。各分隊の隊長、この班で言う西川慎二だ。彼は到底人に言うことのできないような理由で辞職したということだけ、隊員は聞かされていた。
 何を原因としてそうなったか、それは誰も聞かされていなかった。ただ一つ断言できる事は、確実に西川はあの日、凶悪calling犯罪対策課第一班に赴いてからおかしくなった。

「こいつを倒して何があったかあの連中に聞くぞ。皆一斉に片を付けるぞ」

 隊長のいない今はリーダーシップを持ち合わせている奴が代表して取り仕切っていた。とは言ってもどの戦術が適しているか考えるだけ。新しい作戦等は考えない。
 だが隊長に起きた事を奴らに問いただす、それを目的としているその隊の全員は掲げられた目標にたどり着くために目の前にいる一人の青年を見据える。

「俺を殺るってか?やってみろよカス共」

 優越感とそれから生まれる恍惚の感情に浸りながら不敵に青年は高笑いしている。かかってくるなら早くきてみろと。
 言われなくてもだと心の中で頷いた隊員達は駆け出す。これで隊長の無念を晴らし、Effect—Caller共を見返すことができると。黙したまま、襲い掛かる。


 そして無情な、コール音が、鳴る——。

「calling……」

 青年が、自身の、契約者の能力を解放した。




「で、大口叩いたくせにおめおめと逃げ帰ってきた、と?」

 傷つき疲弊した兵士達に労いの言葉も返さずに、辛辣にも現実を突き付ける。それが事実なのだから、一層質が悪く、参列する数百人の怪我人は気と肩を落とした。
 つい昨日、またしてもあの例の青年が出現した。前回と違う点は、ヤバイと判断した隊員達が総撤退したので、一切の死亡者が出なかったこと。しかしそれでも、相手に傷を負わせることすらできなかったし、惨敗の上に尻尾を巻いておめおめと引き下がっただけだった。

「その件については、言わずともこちらに非がある。我々の隊長の失言、我らが心から謝罪する」
「分かってるよ、これ以上引きずるなよ」

 心からの誠意を見せるために一同は凶悪calling犯罪対策課第一班の面々に頭を下げた。
 その誠意を感じ取った奏白は気にするなと軽く言い放つ。そんなことより今はその相手についての情報が欲しい。

「相手について、何か覚えていないか?」
「そのことなんだが、一つおかしいことがあったんだが……」
「おかしなこと?」
「そいつは、複数のcallingskillを保持していた」

 その言葉に驚いた奏白は瞠目した。ありえない、一人の人間が複数のcallingskillを持つなんて。絶対に一人当たり一つしか無い。複数犯の可能性も示唆したが、それならばArmyの五番隊の連中がとっくに感付いていると、否定する。
 そのような混乱の中、いきなりその焦りを鎮静化させる横槍が入る。

「その可能性もあります」

 横槍を入れたのは知君だった。話の腰を折られても、一切奏白は嫌な表情をしなかった。
 横槍を入れたのが同僚だということ、犯人が複数のcallingskillを持つCallerの可能性があるということに対する好奇心があったからだ。

「理由…は?」
「壁に刻まれているphone-numberは一回目と二回目で異なっています。ですが、筆跡…と言うには変ですが特徴が似通っているんですよ。おそらく同一犯でしょう」

 複数のcallingskillを持てる可能性がある、それはどういうことなのか、奏白は分からなかった。
 もしも人のcallingskillを奪ったり、写すようなものだったら軽く三桁の世界に踏み込めるはずだ。だが、三桁のcallingskillは全て発覚している。そのような類のものは無い。
 本当に、そんな事があるのか…
 知らず知らずのうちにその言葉は小さく、口から発せられていた。そこから奏白の思考を予測した知君は解答を突き付けた。

「もしかしたら相手は、ELEVENの可能性があります」

 ELEVEN、そう聞いた時に頭の中で繋がった。
 特に、ELEVENの中で唯一行方の知れぬphone-number100なんて怪しいにもほとがある。その上、ELEVENのcallingskillは全て他人の能力の効果の無効化や反射、弱体化や強化など、干渉する能力だ。

「もちろん、そのphone-numberは…」
「百番が怪しいです」

 やはりかと、奏白は苦渋の表情を浮かべた。ELEVENが敵だというなら、勝ち目が無いのではないかと、悲観的になってしまったのだ。
 不安げに溜め息を吐くと、心配そうに知君が覗いてきた。そういえばと、思い出す。確か知君の能力も三桁であり、それなりに強かったはずだ。
 一度だけ共に仕事をした時にwind[ウインド=風]のような感じのcallingskillで相手を圧倒したような気がする。
 その時の相手は、焦りながらphoneを取り出したくせに、callingしなかった覚えがある。そんなこんなで自分より強かった気がする。

「それにしても…コピーなら、使い勝手が良いでしょうね」

 ポツリと、寂しげに知君が呟いたのを奏白は聞き逃さなかった。どういうことかと、彼の方に振り返る。
 その表情には、声音に含まれるような寂しさなど感じられず、ただ憧れのような色が浮かんでいた。

「どうかしたのか?それが」
「いえ、五年前の能力消失事件を思い出して…」

 そんなこともあったなという風に、懐旧の思いで周りにいた皆が首を小さく縦に往復させた。
 今にして考えても奇妙な事件だ。突然誰かのcallingskillが消えるなんて。
 確か、消失したのはspiral-truth[スパイラルトゥルース=捻曲がった真実]、催眠幻覚系のcallingskill。

「でもまあ、今回は被害者いなかったからまだ良いか」

 逃げ帰ってきたが、死なれるよりましだと、多少思いやりのような言葉を放つ。それを聞いてすぐに、今度は彼ら五番隊員が訊く番となる。

「なぜ…西川様はご退職なさったのですか?」

 この質問に答えたのは知君であり、さらっとだが、悲しげに呟くように解を伝えた。

「彼は警官である必要条件を満たさなくなったんだ」

 重々しくそう言うが、周りの者にはその意味が分からなかった。
 それよりも気になることがある奏白に、質問の順番が舞い戻ってきた。

「次の襲撃…いつか分かるか?知君」
「月に絡めているような気がします。満月の夜ではないでしょうか」
「そうか……」



 その宣言通り、何も起きない日々が続き、ついにとある日は満月を迎えようとしていた。



please wait next calling