コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.8 )
- 日時: 2011/11/20 22:10
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 01wfR6nM)
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五話
初めの事件が起きてからもうおよそ二週間の時間が経過していた。未だに犯人は見付かっていない。最初のものを含めてすでに三度も交戦しているというのにかすり傷一つ付けることさえできていない。
犯人は、新月、三日月、半月と、月に絡めて犯行を起こしている。だとすると今日、満月の夜にまた起こると考えるのが妥当だろう。そのために、その日の奏白は相当にピリピリしていた。
今日でこの狂った犯罪人を検挙する、ただそれだけを考えて、集中していた。
奏白はその日の朝方からずっと、callingし続けている。彼のcallingskillの応用である、周囲の状況察知をしていた。
callingは体内の気や、体力のようなものは特に必要としないが、その代わりに長時間維持するにはかなりの集中力を要する。大抵維持するのは三時間が限界のはずだ。
はずなのだが、奏白は午前七時から十時間もの間維持し続け、尚且つ普通に生活するように庶務や食事もこなしていた。これには流石と呆れ誉め讃える他無い。間違いなく奏白は天才だと皆が信頼している。
「夕方からだけで良かったんですけど…よく持ちますね」
尊敬と感嘆の感情を込めて知君は奏白に声をかける。何事もないかのように奏白は反応する。
その顔をパッと見渡しても汗一粒も浮いていなかった。いつもと変わらぬ顔つきでそこに佇んでいる。
「今回はあまりにも結果が出てないからな。念には念を入れておかないと」
そうですかと、軽く返答して知君が引き返そうとした時に腕が誰かの机の上の書類にクリーンヒットした。バラバラと激しい音を立てて紙が散乱する。
又かよと、同じ部署の皆が苦笑する。誰の机か調べたところどうやら倒した彼自身のようだった。
誰に謝ることなく知君は黙々とその書類を元通りに直していく。その時に奏白が一枚の用紙を拾い上げた。
「こんなもんがなんでここにあるんだ?」
拾い上げたのはphone-number110、要するにELEVENの失踪事件についての記事だった。五年前の新聞、同時期に起きた能力消失事件も載っていた。
「それはですね…犯人がELEVENだった場合を考えて資料室に行ってELEVEN関係のものを全部持って来て手掛かりになるか探しているんですよ」
ELEVEN、確かにその可能性があると知君は言っていた。行方の知れぬ百番が怪しいと。だがそれが実話ならば、検挙など不可能に近い。そうでないことを信じる。
そしてもう一つの疑問がなぜ百十番ではなくて百番に固執するかだ。その二人を除く全てのELEVENは国に行動を制限されているからその二人には絞られるが、百番と決め付ける訳が分からない。その理由を聞いてみると、さほど大きな訳ではなかった。
「百十番はコピーなんていうcallingskillじゃないですからね。もっと強引で非人道的な能力ですから」
callingskillの性質上そんなことはできない、そういう話だ。
だがここで入った言葉が奏白の頭をさらに複雑にした。
「百十番のcallingskillは他人の能力強化だったぞ」
現われたのは班長。四苦八苦している二人を見つけてフォローしに来てくれたのだろうか。
それよりも知君と班長で言っていることが違うことの方が問題だった。
その訳を考えようとすると、いきなり知君は自分を全力で否定し、班長を肯定した。
「あー……そ、そうでしたね!僕の言ったのは別のELEVENだったかもしれません」
その声は動揺で震えていて、焦燥のせいか呂律が回っていなかった。
何かあるとは思ったが、一々言及するほどのことでないと気にしないでいた。自信満々に言ってしまったのに間違えたのだからだろうと無理に納得する。
その瞬間にようやく、奴がかかった。
- Re: 携帯電話で闘えてしまう世界 ( No.9 )
- 日時: 2011/11/20 22:11
- 名前: 北野(仮名) ◆nadZQ.XKhM (ID: 01wfR6nM)
- 参照: 分割します
「来たぞ知君!現在地は……言ってる間に違う場所移るな…くそっ!」
大体の位置を特定することはできる。どのように動いているかも分かる。だが説明しようとしても、いつの間にか別の場所に移動。目的地だけでも特定しようと思い、その先にある主な建物を探す。
結果、見付かったものは今自分たちのいる建物、警察庁だった。
「犯人、この場に急速に接近しています。俺は先に出動するから……知君!お前はここ残ってろ」
ここの警備は任せたとでも言うように手で合図を送る。それを見た知君は了解の印として親指を立てた。
それを最後に見納めた奏白は風を切って駆け出した。非常出動用の高速のエレベーターですぐさま一回に到着する。非常出動用のエレベーターの機動に、サイレンが鳴り響く。
音のセンサーのおかげで分かっている。もうすでにすぐそこまで迫っていることは。警察庁のドアを開けて外に出る。前方の大通りから何かが近づいてくるのが見える。彼は一時停止させていたphoneを取り出した。
「phone-number302!calling、Sound[サウンド=音]」
携帯電話型の武器を耳に当てて契約者、『音』を解放し、使役する。
前方から突進してくるその例の奴に、衝撃波状の大音量の、破壊力を伴った音波をぶつける。
自分自身もそうだが、音の動きが相当素早いこともあり、真っ正面から直撃する。
直撃したとはいえ、その直撃したものが異常に煩い音だった以上、鈍い音は聞こえてこなかった。それでもその喰らった奴は豪快に吹き飛ばされる。
かなりの手応えを感じたはずなのに、華麗にそいつは着地を決めてみせた。
初犯からおよそ二週間、やっとのことで彼の顔を拝むことができた。その小さな達成感に奏白は微笑した。
「結構…イケメンじゃね?お前?」
顔を上げた犯人に向けて奏白が呆れるようにして呟く。ピアスを耳に付けたり髪を金に染めている上、不機嫌そうに吊り上がっている目は、巷をうろつく不良のような出で立ちだが、そいつらと比べると充分に端正に整っている。
「あんたには負けるよ。ところでもちろん…分かってるよなぁ?」
目の前の男も自分のphoneを取り出した。三回のコール音が、鳴り響く。
「phone-number252、calling、NEAR SONIQ MOVEMENT[ニアソニックムーブメント=音速同等の動き]」
彼の周りで空気が爆散する。最初に被害が出た時に壁に刻まれていたcallingskillのphone-number。
NEAR SONIQ MOVEMENT、その使用者の速度は音速より少し遅い程度に引き上げられる。間違いなく強敵であるが、奏白にはぴったりの相手だった。彼の攻撃の方が速いということだ。
「どうせお前も、瞬殺じゃねぇの?」
そして、その言葉だけ残して彼の動きは消えた。しかし奏白は、見えているかのように落ち着いていた。
音速など、さすがに奏白でも目視できないが、周りに超音波を出して、それの乱反射で周囲のものの動きをキャッチする、コウモリのような方法で、現在どこに潜んでいるか調べる。
「そこだな」
先刻見舞ったような莫大な威力の音波でその周囲ごと吹き飛ばす。またしても真正面から当たり、ダメージを与える。
「……想像以上には強いんだな。その方が良い……」
その表情には嬉しさからか、笑みが見て取れた。
please wait next calling