コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 青空すけっち! ( No.1 )
- 日時: 2011/12/04 18:24
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: FMKR4.uV)
昔から、ヒーローというものに憧れていた。
男の子なら、誰しもが一度、ヒーローに憧れると思う。それは女の子も同じで、ヒーローは性別とか、そんな無粋なものなど関係なく、格好良い存在でなくてはならない。
そう、格好良い存在でなければならない。ヒーローという、"肩書きのある人"は。
だとすれば、元々そんな雰囲気を一つも醸し出さなかった、いや、ヒーローとは全く違う、勇気が無くてヘッポコな少年がヒーローなんてものを言わせることが出来たら。
……夢みたいな幻想話なんじゃないかな?
〜青空すけっちっ!〜
「うわぁぁああ!」
衝撃が全身に駆け抜け、痛みがその後からじんわりと伝わってくる。そして眩しい光がカーテンの外側から優しく光を照らしていた。
ふと気がつけば、俺はベッドから転げ落ちてしまっていたのだ。
「いてて……朝から、縁起でもないなぁ……」
腰を擦りながら何とか体を起こすが、どうにも腰が痛みを訴えて言うことをきかない様子だった。ゆっくりと、慎重にベッドの上へと座ると、一つため息を吐く。
こんな朝から寝相の悪さなのかは分からないが、とにかく運の無さそうな俺は望月 陽助(もちづき ようすけ)。一人で住むには大きすぎる家に一人暮らしをしている。よく顔が童顔に見られたり、ヘタレそうだとか言われ、実際にそんな風な立場に追いやられてしまったこともあって、昔は自分のことを僕、と言っていたのだが、今ではすっかりと少しで男らしくなる為に俺、と一人称を変えていた。
「やってらんないよ……」
力無く呟いた俺は、顔を軽く手で叩くと、ベッドにあるシートを綺麗に正した。
一人暮らしは家事なども全て自分でやらなければいけない。
両親が早くに他界し、家族といったら妹ぐらいしかいない。その妹は、学校進学の為に上京していった。俺は、残されたこの広い家に一人ぼっちで暮らすことになったのだ。
今のご時世で言うと、俺のように元々住んでいた家で暮らしている学生なんていうのは少ない。皆、都会へ都会へと進学していき、それぞれの夢を実現しようとしている。
けれど、俺にも夢はあった。その夢の為に、こうして此処に住んでいるわけなんだけど……
「もうその夢は……」
そのことを思い出すだけで頭が痛くなるというか、落ち込んでしまう。
俺が叶えたかった夢。それは——勇者になることだった。
勇者、すなわちヒーロー。人々を助ける役目を背負う責任重大な役目。そんな設定はゲームの中だけにしか存在はしない。
しかし、現代で、今この世界で勇者と呼ばれる職業が存在しているのだ。そのきっかけは、数々の凶悪犯罪などを警察組織だけでは手に負えないことが多く、だからといって放っておくとそれらは更にエスカレートしていくことになる。
その為に勇者と呼ばれるゲームの中でしか存在しないはずの職業を現代化し、身近な犯罪や警察によっては動かないような事件などの調査なども取り扱うようになった。
そんな勇者という職業が当たり前の世界。俺は、その勇者になろうとした。けれど——
勇者になる為には、勇者になるに必要な技量、素質、必要な精神などを持ち合わせているのかの試験がある。いえば、入学試験と同じようなもの。
俺が自分の家にずっと滞在している理由は、この入学試験を受けて合格し、"妹のように"東京にある有名な勇者育成学校へと入学し、立派な勇者になるというのが夢だった。
勇者には年齢制限は無い。ただその技量と素質や精神的なものを総合させて評価する為、言ってしまえば小学生でも勇者にはなれる。だが、何回も試験を受けることが出来るというわけではなく、人生の中で三回しか試験を受けることが出来ないのだ。
俺の妹は一度目の試験で見事合格を果たし、まともな学校に進めば中学2年生と同様の歳で東京へと行った。
対する俺は——
「不合格だ」
昨日のことだった。俺に告げられたのは、三度目の不合格通知だった。
「残念だ。君は勇者になる素質も、技量もない。三回のチャンスをすべて無駄にするとは……」
投げかけられた言葉は、あまりに現実的で、残酷だった。
そうして、現在に至るわけで……。俺がベッドの上でこうして後悔の念と同時に呻いているのは昨日の出来事があまりに辛すぎる現実だったからだ。
勇者試験を合格しなかった者は、通常の学校へと進学することになる。つまり、俺は今日から普通の学生となって、普通の生活を過ごし、夢はもう既に潰れたというのに、学校へと通うハメになる。学校は強制的ではないので、行かなくてもいいが、そうしてしまうとますます自分が落ちぶれて行く気がした。これ以上惨めな思いはしたくない。
普通の学校生活を楽しむことを何回も念じることによって踏ん切りを昨日つけたつもりだったんだが……
「……そんな簡単にいくわけ、ないよな……」
どうしてもため息を漏らしてしまう。
何がダメだったのかっていうと、叩けば叩くほどいくらでも出てくる。
俺は元々、根っこからのヘッポコだった。ヘタレとも言うが、ずっと付いたあだ名はヘッポコ。自分ではそんなつもりなどさらさら無かったけど、周りが俺のことをそう言い始めたにつれ、俺は本質的にヘタレへと変化を見せていってしまった。
声は変声期は既に迎えているはずなのに妙に高い方だし、顔も童顔とか言われ、背も男子にしては低い方で、体もかなり丈夫とか筋肉があるとかそんなものでもない。
自分を変えたいっていう思いからも、勇者になりたかったんだけど……その夢はもう潰れてしまった。もう人生のチャンスを使い果たしてしまったんだ。
「悔やんでも、仕方ない、か」
せめて、今頃東京で活躍しているだろう妹を応援することにしよう。新聞でも勇者の活躍はよく見られる。その中で、この間妹の名前を見つけた。それに、顔写真も。元気そうな様子で、良かったとは思ってる。だけど、それが羨ましくないかと言われれば、否定できない。
まだ自分の中で夢を諦めた、という気持ちが無いのかもしれない。けれど、もう俺は——
「あ……! やばいっ! 遅刻するっ!」
ふと時計を見ると、随分と時間が経ってしまっていた。焦る思いと同時に、俺はベッドから直行してリビングへと下りて行った。