コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 青空すけっち! ( No.2 )
日時: 2011/12/05 00:03
名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: FMKR4.uV)

勇者になる夢を諦めた俺であって、普通の学校へと通うことになったのだが、少し様子がおかしかった。
昨日、試験が不合格になって家に帰り、何が何だか分からないまま、多分ショックが大きすぎたのかは知らないが勢いのままに寝てしまった。つまり、昨日の記憶の大半が無かった。ただ、試験を受けて、落ちたというだけの記憶がこの脳の中にはある。
普通に俺は今日から地元の学校へ通うことになるのだろうと思っていたが、よくよく考えればそれは急な話で、更に地元の学校に通うといってもそれは一体どこなんだと言いたいぐらいに疑問が多かったのだ。

「起きてきたのはいいけど……遅刻だ、とか言って起きたわけだけどさ……俺はどこに編入することになったんだ?」

こんなことなら昨日、ちゃんと起きておけばよかったと後悔しながらため息を吐いた。
とりあえず、最初から前途多難なわけで、このままだと俺は学校にも行かずのニート生活を送るハメになってしまう。

「……そんなのは嫌だああ!」

嘆いたその勢いでとにかく何か便りでも来ていないものかと漁ることにした俺は、血眼になって探す。そういえば腹が減ったいたとかの愚問などはこの際全く気にも留まらなかった。
しかし、探してもほとんど全て広告やら何やらで全くの皆無状態。これはもうダメかもしれない、と俺は諦めかけた。
勇者もダメで、普通の学生もダメ。俺はとことんヘタレになっていくのだろう、と心の中で決めかけた——その時だった。

「これ……何だ?」

一通だけ、宛先も何も書いていない明らかに不自然な封筒を見つけた。茶封筒なのだが、どこを探しても名前や中身の詳細に関係する事柄が書かれていなかった。ゆっくりと、丁寧にその茶封筒をハサミで開けると、

「学園編入届……これだ! やった!」

思わずガッツポーズをしてしまいそうな気分で、笑顔でその紙を見つめていたのだが、だんだんと下の方を読んでいくにつれ、おかしい点を見つけた。

伯零はくれい学園……? あれ? ここって……東京にある学園なんじゃ?」

伯零学園は有名な勇者育成学校の一つであり、また合格していれば入学していたと思われる学校だった。
勇者を育てる学科と、普通学科が二つに分かれており、その広大な学校敷地面積によって両立することが出来るそうだ。
つまり、伯零学園の普通学業科の方へ行くこととなったわけだった。

「でも、どうしてわざわざ此処が……」

単に普通科で進ませるだけなら、この地元の学校でも良かったはず。しかし、そうすることもなくわざわざ東京にある伯零学園に入学することになったのはどうも怪しい気がした。

「……でも、行けと書いてあるわけだし……そこしかないしなぁ……」

ボサボサになっている髪の毛を軽く片手で掻きながらもう一度その紙を見つめる。
もしこれが本当なら、書いてある期日によるとこれから後5日後までに来てくれればいいらしい。向こうに行くと、きっと寮暮らしが何かになるだろうから、早めに行っておいた方が良いということもご丁寧に書かれていた。

「伯零学園、かぁ……」

勇者になって伯零学園へ入学する気でいたのに、普通の一般生徒としてそこへ入学することになったなんて……全く思いもしなかった。




それから三日後、荷物をまとめ、この家を出て、俺は遂に東京へと来た。照りつける太陽がやけに暑く感じさせる。周りはビル群で埋め尽くされ、人々が道を好き放題に謳歌していた。まだ春だというのに、この暑さは一体何なんだと思いながら汗をポタポタと地面に落としながら思った。

「えぇっと……伯零学園……」

少しフラつきながらも、例の便りを手に、伯零学園を探し回った結果、なんとか見つけることが出来た。そこは東京のビル群やらから離れた場所にある所だった。

「す、すっごいな……」

まず最初に伯零学園を見た感想がそれだった。有り得ないほどの敷地に、大きく聳え立つようにしてあるいくつもの城のようなもの。此処は本当に東京なのかと思えるほどの外観を持っていた。
巨大な黒い柵のようなもので作られている門越しに見えるのは延々と続いているように見える長い一本道があり、その周りには木々が生い茂ってあまりよく内部が見えなくなっている。
一般生徒が通っていい場所なんかじゃなく、本当にお嬢様やお坊ちゃんが通うような、そんな雰囲気を醸し出していた。

「ここに……一般入学するんだ……」

そう考えただけでも、普通じゃないのかもしれないという思いが頭の中を駆け巡っていくけれど、それと同時に一般として、という言葉もまた重なる。
込み上げる悔しい思いを抑え、巨大な黒い門へと近づいていく。
門の傍に此処の管理人か何かは知らないが、受付のような場所で中年の男がボーッと虚空を見つめていた。

「あのー……」

おそるおそる近づき、声をかけてみたが、反応はない。返事を返そうとする動作どころか、まるで魂の抜けた亡霊のように目を開けて見つめているばかり。というより、元からこの男の目は細くて小さかった為、目を開けているかどうかさえも分からない。

「あのー……?」

もう一度呼びかけてみれも、全く返事が無い。だんだんと無視されてるような気がしたので、今度は思い切り大声を出して言ってやろうと息を吸い込んだその時、

「あーはいはいはい、完全にのぼせてやがんなー……」

突然、男の後ろから長身の女の人が現れた。
すらっとした体に、整ったそれぞれの部位に、反則的な凹凸がハッキリしているボディーラインをもったその黒髪でポニーテールをした女の人は何度か男を叩き、

「ったく……あれ?」

俺の存在がまるで分からなかったような反応をとられた挙句、怪しげな表情で見られた。

「お前、此処の生徒じゃ……ない、よな?」
「あ、え、えっとー……」
「何の用?」

いつの間にか受付から出てきて、腕を組み、俺を睨みつけるようにして見ていた。
これは色々とマズい、と思った俺は咄嗟に手に持っていたあの便りを突き出して慌てながら、

「あ、あの! お、俺、この便り通りに来たんですけど……」
「便りぃ?」

その女性はあからさまに眉をしかませて近づいてくる。手を前に出したら触れられるぐらいの距離まで来た時、ふわりと良い匂いが眼の前の女の人からした。それだけで顔が赤くなる俺は本当どうしようもない……。

「……へぇ? 珍しいっていうか、あんたみたいなのがいるんだね」
「え?」

何故か感心したような感じに頷くと、不敵な笑みを浮かべられた。
何を言っているのかよく分からなかったので、ただ呆然としているとその女の人は人差し指を伸ばして、

「こんだけの距離を移動してきてまで、この学園に入りたかったのか?」
「……あ、あぁ、そういうことですか。えぇっと、一応、俺は編入生で……」

きっとこの女の人は、どうせ普通の学校に一般入学するなら地元や近場のどこかでも構わないのに、どうしてわざわざ俺の元々住んでいた所からはるばる此処へと来たのだろうか、ということを言っているのだと思う。
しかし、俺は編入生なわけで……。編入生というのは、勇者になる為に受けるあの試験を不合格し、一般学校へと入学するようになった生徒のことを指す。普通の転校生なんかと一緒ではない呼ばれ方が少し嫌味ったらしい気はする。

「あぁ、お前、編入生? ……んー、でもお前のようなケースは初めてかもしれないな」
「どういうことですか?」

女の人は人差し指を戻し、また腕を組みながら、

「どちらにしろ、此処に来る必要なんてないだろ? 地元の学校かどこかに編入すればいいだけの話じゃねぇか。なのに此処に来るっていうのは……うん、分からん」
「分からないんですか……」
「ま、細かいことは気にすんなってこったな! せっかく来たわけだしな」

バンバンと、大きな音を鳴らしながら俺の背中を叩いてきたんだけど……とても痛い。どんな筋力をしているのか、はたまた何をしている人なのかも全く分からないけど、女の人でこの腕力は異常だった。

「一般入学って言っても、この学園はすげぇからなぁ……ま、ようこそ、伯零学園へ」

そう言った途端、黒い門がギギギ、と開き始めた。自動なのか手動なのか、どちらにしても仕組みが分からない。何か合い言葉でも決めてあるのかさえも分からなかった。

「あ、ちなみに私は教師だからな。一応勇者育成の方の、だがな。教官とかっても呼ばれるな」
「え! あ、あの、教師だったんですか?」
「一応な。名前は代々木 燕(よよぎ つばめ)って言うー……まあ、代々木先生、とか呼んでくれても構わんよ」

豪快に男のような笑い方をする代々木先生の初めての印象はとても男っぽくて、強そうだった。この人が、勇者を育成する教師的な人。つまり、この人も勇者……。

「ぼ、僕は望月 陽助といいます! よ、よろしくお願いします!」
「ははっ、俺でいいだろ。ま、授業担当は違うけどな。この広い広い学園内で会ったら声でもかけてくれや。……あ、そうそう。その便りを持って第三職員室に行け。そこでー……そうだな、まあ適当に誰かが手続きしてくれるだろ。そいじゃーな!」
「え、代々木先生が案内してくれるんじゃ……」
「用があるんだよ! ま、そういうことだ! じゃーな!」

代々木先生はまるで風のように俺の前から過ぎ去って行ってしまった。
……はぁ、前途多難だ。