コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【アザレアの花言葉】 ( No.29 )
- 日時: 2012/02/13 16:55
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
シネラリア
私、原宮麗と言います。バリバリの高校一年生です。
好きな食べ物は羊羹(ババ臭いとか言わないで)、嫌いな食べ物はこれといってない。
性格は……友達からは、とにかく明るいっていわれる。打たれ強いとか、図太いとか。
けれど、本当は打たれ弱い。「死ね」「アホ」「バカ」……この言葉を言われるだけで、結構傷つく。
でも、全然分かって貰えないんだ。「え〜、うっそぉ〜」とか、「そんなふうには見えない。寧ろ明るい」って、本気に取り合ってもらえない。ふざけていると思われて、とても辛い。
でも、唯一人、受け止めてくれる友人がいるんだ。
「——ねえ、肉まん食べない?」
下校中そう誘ったのは遠山蘭。小学校三年生からの付き合いで、大親友だ。私の悩みを受け止めてくれる唯一の友である。
私が頷くと、早速彼女は商店街の「林森まんじゅう」と言う店に駆け寄った。この店は、饅頭も上手いし、夏限定でかき氷も売っている。これがまたでかくて美味い。まるで雪のような感触ッ!!
しかも、この店の店長はとっても気が良く、大学生までなら半額で売ってくれる。小学生までなら二個までタダだ。それでつぶれないのは、この人の人望だろう。
私たちは店長から饅頭を貰った。出来たてなので、フーフーと息をかけながら冷まして食べる。
「最近元気ないねえ。また男子に何か言われた?」
蘭があっさりと指摘したので、私は少しの驚きと喜びを感じた。
蘭だけは判ってくれた。それだけでも凄く嬉しかった。
私がコクン、と頷くと、蘭は笑って言った。
「これから、私の馴染みの店に行くけど、レイは来る?」
蘭に案内されて来たのは、『黄泉の花屋』と書かれた花屋さん。
少し寂れているけど、雰囲気がとても良い。元々祖母の家で過ごしたからなのか、こういうレトロな雰囲気は大好きなんだ。
店は気に入った。店はね!!
何この通り!! はじめて来たけど滅茶苦茶怖すぎるよ!! 絶対何かいるって!! 蘭は巫女さんだから怖くないだろうけど、私としちゃ滅茶苦茶怖いよ!! ゾンビでも出るんじゃないッ!?
「す、素敵な店だねえ。さ、さっさと入ろう」
あまりの怖さ声が裏返ってしまった。私の様子に、蘭はニッコリと笑って頷いた。くそう、楽しんでるなッ!!
怒るんだか情けないんだか複雑な想いで私は店に入る。
店に入ると、何だか暖かかった。こう……陽だまりに居るみたいな、暑くない暖かさ。眠気を誘うような暖かさ。
花の良い匂いが漂っている。何だか天国のような場所。
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【アザレアの花言葉】 ( No.30 )
- 日時: 2012/02/13 16:57
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
「あれ、蘭ちゃんではありませんか」
店の奥から、小さな少女が現れた。
艶やかな黒い髪は蘭と同じ(私は少し脱色しているので茶髪。時々羨ましい)。白い肌、淡く染めてあるつるっとした頬(これが俗に言う『美少女』ですか!?)。
歳は……私たちよりも絶対に幼い。けれど、その少女が纏う雰囲気は、私たちより遥かに大人びて、そして神秘的だった。
蘭はその女の子に呼ばれて、笑顔で挨拶する。
「レイ、この女の子は夕華ちゃんっていうの。この店の店長さん」
ふーん、店長さんねえ……店長さん……え?
この十歳の女の子がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????
私が心の中で叫んでいるうちに、蘭ったら私の紹介を進めている。
何処までもマイペースだなこの野郎ッ!!!
「それで、あの花はあるよね?」
蘭が言うと、夕華ちゃんは天使の笑みで、ございますよ、と答えた。
夕華ちゃんは棚から一つの鉢を取りだす。両手に収まるぐらいのサイズで、そこには夕焼けのように真っ赤な花が咲いていた。
花弁は、まるでばあちゃんの家にある蛇の目傘のようだ。——私は何となく、可愛いなあと思った。
「この花の名前はね、シネラリアって言うの」
蘭が説明してくれた。
ふうん、シネラリアかあ。ちょっと「死ね」を連想させるけど、でもやっぱり可愛い花だなあ。
まじまじと眺めていると、蘭はニコニコしながら私の純粋な気持ちをかき乱すようなことを言った……。
「直訳すると、『殺人などで血まみれになった』という意味」
——前言撤回。怖ぇぇぇぇえぇ!!
何、その物騒な意味!!! 今一瞬でも可愛いと思った自分がおぞましく感じたよ!!
ギャアギャアとのたうちまわっている私を見て、夕華ちゃんはクスクスと笑いながら、でもね、言った。
「——この花の花言葉は、『何時も快活』なのよ」
その言葉に、思わず私は動きを止めた。
「この花、まるで蛇の目傘のようでしょう? 傘の回りには、優しい春の雨が躍っているの。その音を楽しみながら雨の中を散歩する少女……そこから生まれたんじゃないかしら」
夕華ちゃんの言葉は、私の疲れた心身に沁み込んで、癒すようだった。一つ一つを聞き逃さないと、私は釘付けになって聞いた。
『何時も快活』……。
雨の中でも、元気に楽しく散歩する少女……。
嫌なことばっかりあって、私は辛かった。
どしゃぶりの雨の中、傘もささないで居る、そんな感じだった。
どしゃぶりの雨の時は、傘をさしても濡れてしまう。だからさすだけ無駄だと思った。
——私は、いつの間にか「何もかも無駄」だと思ってしまっていた——。
どんなに私が「悪口をやめて」と言っても、男子達は全く止めようとしない。
どんなに人に助けを求めても、誰も相手にしてくれない。信じてくれたのは、蘭一人だけ。
だから、楽しくいようとする心も、忘れてしまった——。
思わず私は俯いていた。
やっと判った。——私が落ち込んでいたのは、男子の悪口でも誰も信じてくれないことじゃない。
前向きになれない自分に、一歩を踏み出せない自分に、嫌気がさしていたんだ——……。
やっと、顔をあげることが出来た。その先には、蘭が写っていた。
——蘭は、信じてくれた。一人だけでも信じてくれる人がいるなら、どうってことないじゃないか。
「……蘭」
「うん?」
「——ありがとうね」
私が言うと、蘭は頬を染めて、どういたしましてと言った。
「——レイは、やっぱり『何時も快活』でなくちゃ!! ね?」
その言葉に、思わずは泣いて頷いた。
あれから、男子の悪口が減って来た。
最初はかなり言われていたけど、放っておいていたらだんだん収まって来た。それでも止まらない時は、蘭に頼んで一緒に保健室の先生に相談した。
最近、私は「更に元気になって来たんじゃない?」と回りから良く言われる。
私は今日も元気。
晴れの日も、雨の日も。
玄関に咲くシネラリアの花が、夕焼けに照らされて更に赤く見えた。
シネラリアの花言葉 『何時も快活』
執筆日 2012年 2月13日