コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【シネラリアの花言葉】 ( No.40 )
- 日時: 2012/02/15 17:30
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
スノードロップ
「好きです。付き合って下さい」
私遠山蘭は、
体育館裏で(ベタだな)、
生まれて初めて男子に告られました。
「「えええええぇぇぇええぇぇ!? 蘭、告られたのぉ!?」」
『黄泉の花屋』で、レイと夢想の叫び声が響き渡った。
「ちょっと声が大きいよ……」
私はあまりにも大きな声に、耳を塞いだ。まだ二月。冷たくなった耳に響くんですが。
「だだだだだって、蘭だぞ!? あの蘭が!?」
「おいこら、どーいう意味だネコ科」
「ネコじゃねえもん!! 獏だもん!!」
フン!! あまりにも夢想が失礼なこと言うからお返しだ。
「あらあら。蘭ちゃんにも春が訪れましたか」
クスクス、と笑う夕華ちゃん。……ああ!! 可愛い!! やっぱ何しても美少女は可愛いね!!
私がうっとりと見とれていると、レイが鋭く言った。
「でも貴女……誠也君が居たじゃない」
その言葉に、私はギク、とした。
私には、幼馴染の男の子がいる。名前は結城誠也。両親が警察官と鑑識課だった為忙しく、良くうちに預けられたんだ。だから小さい頃から良く遊んでいて——いつの間にか私は、誠也が好きになっていた(勿論、likeじゃなくてloveです。自分で言っといて鳥肌立つけど)。
でも……中学二年生のある日、喧嘩したんだ。
私は、幽霊や妖怪が視える。そして、それを祓う力がある。
でも、鑑識課を目指している誠也は「非科学的」と否定して——。
そしてとうとう、こう言われた。
『そう現実を逸らすなよ。そういうの、中二病って言うんだぜ?』
——この言葉に、私は彼に絶望してしまったんだ。
怒ったわけでもない。自分に自信を持てなくなったわけではない。——ただ、彼に絶望した。
科学でも証明しきれないものは沢山ある。例えば、『悲しい』や『嬉しい』と感じるのは、前頭葉が働くからといわれているけど、じゃあ何故そこに働くかなんて、説明がつかないでしょう?
それに、外国では霊能力者や超能力者だって沢山居て、それを認めている国もある。
私はちゃんと知っている。『妖怪』や『幽霊』が居ることに。
でも、彼は『知らない』。それどころか『いない』と否定している。
それが……無性に、悲しかったんだ。
それ以来、彼とは話しにくくなった。寧ろ、私から彼を避けるようになっていた。
誠也と一緒に居ると、自分が否定されるようで怖かったのもあった。でも、何より怖かったのは——。
「蘭?」
レイの声に、はっと我に帰る私。気がつくと、心配そうにのぞきこむレイ、夢想、夕華ちゃんがいた。
「大丈夫?」
レイの言葉に、大丈夫、と笑って答えた。
気がつくと外は真っ暗だ。もうすぐ帰らないと母さんが心配する。
じゃあ、帰るね、と夕華ちゃんに言うと、待って、と夕華ちゃんに引きとめられた。
店の奥に行き、少しして夕華ちゃんが白い花束を持ってきてくれた。
その花は——まるで、雪の花のように真っ白だった。
「——この花はね、スノードロップというの」
夕華ちゃんは、お代はいらない、と言って私の手に納めた。
「この花には、こういうお話があるの。
——『大昔、禁断の実を食べてしまったアダムとイヴは、降りしきる雪の中へ、エデンの園から追い出されてしまいました。
そこへ天使が現れて、「もうすぐ春がくるから絶望してはいけませんよ」と二人を慰め、冷たい雪をスノードロップの花に変えました』——』
そう言って、夕華ちゃんは悪戯っぽく笑った。
「——何も知らないで、ただ絶望するのはおかしいと思うわ。それは、貴女だって判っている事でしょう?
冬があるなら、次に春は訪れる。——その人の考えが変わるかもしれないのに、最初から決めつけるのは、とても損ですよ?」
その言葉に、私は驚きと嬉しさでいっぱいだった。レイや夢想には何のことやらサッパリの様子だったけど、私には良く解った。——思わず、私は花束を握り締めた。
どうして、夕華ちゃんには判っちゃうんだろうなあ。
私が、誠也を避けていた一番の理由。
それは、『誠也が嫌い』と思いこもうとする自分が、一番怖かったんだ——。
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【シネラリアの花言葉】 ( No.41 )
- 日時: 2012/02/15 17:33
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
「——ごめんなさい」
翌日。私は男子に告白を断った。
「貴方の気持ちには答えられません。——ごめんなさい」
あえて、私は『好きな人がいる』とは言わなかった(変な噂を流されるのも嫌だし)。
そう言うと、男の子はこう言った。
「——へえ、何でだよ?」
「え?」
「俺の事、知ってからそう言って欲しいわ。——知らないんだろ?」
そう言って、男の子は私の腕を掴んだ。
え? え?
ドユコト?
男の子の目を見る。彼の目は、どう見ても正気じゃなかった。——私は抵抗しながら、頭の中をフル回転する。
……あ————————!!
思い出したッ!! コイツ、うちのクラスの男子だった!! 目立たないから、名前すら覚えてなかったよ!! そして今でも名前思い出せない!!
その時、私はようやく答えに辿り着く。
コイツは、結構目立たなかった。友達もいなそうだったし、何時も一人で居た。何か暗かったから、皆声かけづらかったんだよね。
そして、自意識過剰とか言われそうであんま言いたくなかったけど、コイツは私を好きになったわけだ。
でも、私は名前すら覚えていなかったし、あっさり断られたから、その逆恨みとモヤモヤしたもので——コイツは正気じゃ居られなくなったわけか。
こういう時期って、身体の成長に心が追いつかない子が多いんだよね。私の同級生にも何人かいたなあ——……。
と、深く想っているバヤイじゃないッ!! こいつの目、正気じゃないから逃げないとマズイ!!
「離してよ!!」
「あ、こらテメエ!!」
何とか手を振り払おうとしてるんだけど——男女の差のせいか、中々振り払えない。っていうか、男なら好きな女の為に引き際ぐらい覚えろ!!
声をあげても、ここらへんは人気がないし、というかほとんど皆下校しているから、伝わらないだろう。ああ、自分の未熟さに後悔する!!
あんまり人に向けて使いたくないけど緊急事態だし、こうなったら霊力を使うしか————。
「おい、何してるんだよ?」
低い、声がその場に響き渡った。
バッ、と男子が振り向く。
嘘だ。でもこの声は——。
私はそう思いながら、ゆっくりと振り向いた。
夕陽を背に向けて、黒の制服を纏った誠也が、そこに居た。
彼は——かなり怒っていた。
「な、何だよテメエ!! 関係ねえだろ!!」
男子が負け犬のように吠える。だが、誠也は私の腕を掴んだ男子の手を鮮やかに振りほどき、男子の腕を掴んだ。
「関係なくてもあっても、嫌がってるだろ」
凄んだ低い声。背中を向けているから表情は見えないけど、その雰囲気や声から本当に怒っている。
誠也はそのまま、男子のみぞおちに拳を炸裂した。ゴフ、と凄い音をたてたと思ったら、男子はゆっくりと崩れるように倒れた。——流石、空手有段者。
少し呆気に取られている私に、彼が手を差し伸べた。
「——俺がいなかったら、どうするつもりだったんだ」
そう叱り口調で私に言う。——最初の一言がソレ? と思ったけれど、助けてくれたんだし、その言葉には怒りなど微塵も無かった。
私は手を出すと彼は、がしっ、ときつく無くそれでいてしっかりと握りしめた。
彼の手は、とても暖かくて、そしてとても大きかった。
外はまだ寒いのに、私の頬はとても熱くて——。
証明できなくても、確かに存在するものは沢山ある。
それは、人を好きになることも一緒でしょ?
スノードロップの花言葉 『希望』『恋の最初のまなざし』
執筆日 2012年 2月15日