コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【オリキャラ募集中】 ( No.69 )
- 日時: 2012/03/18 21:39
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
アンズ
三月。
高校の卒業式が終わり、三学期の終業式も間近という頃。
「へッ?」
俺、結城誠也は、体育館裏で、同じクラスの女子に告られていた。
◆
「・・・・・・で、どうしよう?」
「だから何で私に相談するんだぁぁぁぁぁ!?」
商店街の一角にある喫茶店で、俺の親友、原宮麗、通称レイがキレた。
レイとは小学校からの付き合いで、俺の幼馴染とも大親友の為、良く遊んだり話したりしている。サッパリアッサリ、明るい奴なので、話しやすい奴だ。
・・・・・・ただ、いきなりキレたりするので、良く判らない奴ではある。
「・・・・・・まあいいや。代わりといっちゃ、ケーキを奢って貰ってるしね。
でも、そんなの断ればいいじゃん。アンタ、告られるの初めじゃないでしょ?」
「いや、そうなんだけど・・・・・・」
「?」
そこまで言って、俺は言葉を失くしてしまった。
女子に告白されるのは、もう何度かされている。だから、どう断れば相手が傷つかずに退いてくれることも、大体判っている。というか、もう断ったので問題無い。
相談は、女の子から告白されたことじゃない。幼馴染——遠山蘭のことだ。
中学の時に、くだらない喧嘩をしてそのまま離れてしまったけれど——先月、蘭が他の男子生徒に襲われるところを助けてしまった。
いや、助けたことを後悔したわけではない。喧嘩中で、一体どうすれば許してもらえるか判らないのだ。
そのことをレイに伝えると、レイの顔がどんどん険しくなっていった。
「アンタ・・・・・・」
笑ってはいるが、目が据わっているよ、レイさぁぁぁん!!
作り笑いを出す俺だが、全身冷や汗でびっしょりだった。
「ぶぁっっっっっっっかじゃなかろうかぁぁぁぁぁ!!!」
バシ、ボス、ベシッ!!
人間業じゃない拳が俺の顔面、腹部、顎に情け容赦なく降り注いだ。
「ゴフッ!!」
痛い。かなり痛い。
長い付き合いの為、この拳には若干習慣化しているが(こんな習慣は嫌だ)、それでも痛いものは痛いのだ。
「何とぼけたこと言ってんの!? そんなの土下座で謝りなさいよ!! 高校に入って変わったなあって見直したけど、やっぱりまんまのようねえ!! このヘタレがッ!!」
グサ、グサ、と情け容赦ない言葉が俺の心に刺さる。
いや、その通りなんだけど。でも、そこまで言わなくていいじゃないか!
レイは言い足りないか、まだ続ける。
「そーもそも、アンタなんで蘭の否定するようなこと言ったのよ!! 現実を見ろ? 中二病? 私らと同じ年齢であるアンタに上から目線で言われる筋合い無いわ、このドサンピン!!
幽霊とか妖怪とか、確かに見えないわよ!! でもね、だったら物理や科学もそうだろーが!! 数字ばっかりで、実際には目に見えないじゃん!! この、ボケナスがぁぁ!!」
・・・・・・だんだん、会話の内容がずれていってるんだが。
だが、レイの言い分は最もだ。
すぐ全身全霊で謝れば、許してくれるのに・・・・・・ここまで引っ張っているのは、ガキだった自分の性格の悪さだ。
それは、今でも充分に残っている・・・・・・情けない。
「・・・・・・今からでも、謝れば許してくれんじゃない?」
今度は落ち着いた声で、レイが言った。
どうやら言いたいことは言ったようなので、落ち着いたようだった。
「花束でも持って、告白したら? そしたら全て丸くなるじゃない」
「なッ!!」
その言葉を聞いた途端、全身が熱くなった。
俺の様子に構わず、すました顔でレイは続ける。
「もう、何もかもはっきりさせた方がいいんじゃない? 振られても、うじうじ悩むよりかはかなり楽でしょ」
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【オリキャラ募集中】 ( No.70 )
- 日時: 2012/03/18 21:40
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
(・・・・・・って、言われてもなあ・・・・・・)
喫茶店を後にし、レイと別れ、俺はフラフラと商店街を歩き回っていた。
最近まで、この時間だともう日が暮れていたのに、まだ太陽が出ている。もう、春なんだなあと思った。
——もうすぐ、俺も高校二年生。成人式まで、あと三年。
蘭に告白しようと、何度も想った。——でも、何時も照れくささが前に出て。
何時も出てくる言葉は、ちょっかいとからかい。
——だから、蘭の言うことが信じられなかった。
妖怪なんて、居ないと思った。だって、こんな科学が発達した時代に、妖怪なんて存在しない。自分は、そういう世界で育ったから。
だから——彼女を、無理やりでも自分が居る世界に引き込もうとした。
そうしなきゃ、自分を見てくれないと想った。蘭が見ている世界は、俺が否定している世界だったから。
今想えば——何て浅はかだったのだろう。
あんなことを言えば、嫌われるのは当然なのに。
だけど、時をさかのぼっても、きっと同じ選択を取るだろう。
やっぱり、蘭の言うことは『信じられない』から。
◆
「・・・・・・ここは、何処だ?」
気が付けば、何処だか分からない場所にいた。
・・・・・・うん、それは流石にないだろう。
馴染のある地形で、迷い込むなんて有り得ないだろう! それも、もう高校生だぞ!? そう、これは何かの間違えだッ!! そうに違いない!! ・・・・・・と、若干現実逃避した。
いつの間にか日は暮れており、暗い小路。『何か』がいるような、そんな気配。
「ッ・・・・・・!!」
何だ、この悪寒は。
感じたことも無い寒さに、俺は恐怖を覚えた。
『何か』は、実態がつかめなくて、それが更に恐怖を呼ぶ。
——出来ることなら、とっととここを去りたい。そう、切に想った。
その時、ふと看板が見える。少し錆びた看板には、『黄泉の花屋』と書かれていた。
窓から漏れる光を見ると、どうやらまだ経営中のようだ。
俺は、道を尋ねるために、その花屋へ入ることにした。
ドアを開けると、瞬時に甘い花の匂いが漂った。
煌びやかとは言えないが、春の陽だまりのように柔らかな光。外とは全く違う場所だ。
壁につけられた棚には、花が植えられた鉢があって、外見は普通の花屋だ。
「あ、ようこそ、『黄泉の花屋』へ」
店の真ん中で、店員と思われる女の子が挨拶した。
歳は俺とさほど変わらないだろう。茶髪の髪を短く切っており、長袖パーカーと半ズボンを身に纏っている。
店員は、俺の姿を見て、申し訳なさそうに言った。
「すいませんが、今お姉ちゃ・・・・・・店長は出かけているため、少し待たせてしまいます。ソファーに腰掛けて待ってください」
「あ、いやあの・・・・・・」
じゃあ、紅茶とお茶菓子を持ってきますね、と言って、店員は店の奥へ入ってしまった。
いや、道を聞くだけなんだけど・・・・・・。
しかたがないので、ソファーに腰掛ける。
隣には、先客がいた。
っていうか・・・・・・。
「せ、誠也!?」
「ら、蘭ん!?」
その先客は、俺が見知っていた幼馴染の姿だった。
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【オリキャラ募集中】 ( No.71 )
- 日時: 2012/03/18 21:40
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
◆
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
き、気まずい・・・・・・。
蘭も、店の奥から紅茶と茶菓子を持ってきてくれた店員も、気まずそうに口を結ぶ。
「・・・・・・えっと、蘭ちゃん、お知り合いかな?」
店員が、やっと話題を口にした。
「・・・・・・幼馴染の、結城誠也。
誠也、こっちはこの店の店員、白花真紅」
「あ、どうも」
「どうも・・・・・・」
・・・・・・はい、また沈黙。
蘭を通じて話すのは難しいと思った俺は、真紅に話すことにした。
「真紅ちゃんは・・・・・・」
「『ちゃん』?」
真紅は、思いっきり不思議そうな顔をした。
? どういうこと?
クエスチョンマークを顔に出している俺達に、蘭が言った。
「・・・・・・誠也、真紅は男の子だよ?」
・・・・・・・・・・・・何だってぇぇぇぇ————————ッ!?
「え、まさか僕また女の子って間違えられたの!?」
「あ、いやスマン!!」すぐに謝った。
「いや、いいんですけど・・・・・・」
と、言いながら落ち込む真紅。
・・・・・・まあ、女の子と思われて嬉しがる男の子は、そんなに居ないよな。女装していたら別だけど。
その時、ガラ、と勝手口のドアが開く。
「すみません、蘭ちゃん。遅くなりましたー」
出てきたのは、十歳ぐらいの女の子。
鮮やかな黒い、長い髪。おかっぱにしている。瞳は吸い込まれそうな黒。鼻や口は、完璧な位置にある。まるで人形のように。そして、幼い外見には似合わず、神秘的で落ち着いた雰囲気を纏っている。
び、びびび美少女だッ・・・・・・!! 『美少女』は死語かとずっと思っていた。
・・・・・・かといって、俺はロリコンじゃないからなッ!?
「あ、お姉ちゃ・・・・・・店長、お帰りー」
「夕華ちゃん、お目当てのものはあった?」
「ただいま、真紅。ええ、蘭ちゃん。ありましたよ。
あら、お客様?」
夕華という女の子の言葉に、俺は本来の目的を思い出した。
「あ、いや、俺実は迷ってしまって・・・・・・」
「いい年して迷ったの?」
呆れたように蘭が言った。ったく、可愛くねーな。
「あらあら、じゃあ案内しましょうか」
ニコニコと微笑みながら、夕華ちゃんが言った。
「あ、その前に私、花を買いたいんだけど」
蘭の言葉に、夕華ちゃんが、判りました、と店の奥へ行ってしまった。
「・・・・・・というか、何でアンタ、ここに迷い込んだの?」
「んなの知らねーよ。第一、この商店街にこんなお店があったか?」
「・・・・・・在るといえば在るけど、無いと言えば無いかな」
「は? 何だそれ」
「このお店があることを知っている人間は、かなり少ないってこと。ここに来れる人も、知っている人間の極々一部ってことだよ」
「・・・・・・? ますます判んねーけど。だって、この店結構古いだろ?」
そう言うと、蘭は思いっきり呆れてため息をついた。
「おい、何だその顔は」
「妖怪とか幽霊とか否定する奴に、説明は出来ないってことだよ」
「何だよそれ!! つーか、まだ引きずっているのかよ!!」
「まあまあ二人とも」真紅が喧嘩する直前の俺達を止めた。
「・・・・・・誠也君、君は今日、体育館裏で同じクラスの女子に告られたね?」
「・・・・・・え?」
「んで、その後原宮麗・・・・・・レイちゃんに、殴られたね? ヘタレとかドサンピンとかボケナスとか言われて」
「何で知ってるんだぁぁぁぁ!?」
あの恥ずかしい一部始終を見られていたのかぁぁぁ!?
「違うよ。心を読んだの」蘭が説明した。
「は?」
「真紅はサトリの妖だから。アンタの心の中を読んだのよ」
「・・・・・・嘘だろ?」
「妖を全否定するアンタに嘘付くんだったら、もっと信憑性のある嘘をつくよ」
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【オリキャラ募集中】 ( No.72 )
- 日時: 2012/03/18 21:41
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
そう言って、蘭は少し冷めた紅茶を飲んだ。
・・・・・・蘭は嘘をつくのが下手だ。変に動揺したり、目線を泳がせたり。
けれど、今の蘭にはそれが無い。——・・・・・・どうやら、本当のことらしい。
それでも、俺はまだ信じられなかった。——それに、レイから聞いたっていう可能性もある。
その時、夕華ちゃんが店の奥から戻ってきた。
「その子の言うことは、本当ですよ。今日は、レイちゃんには会っていませんしね」
「夕華ちゃん」
夕華ちゃんは、桃色の花を抱えていた。桜のように見えるけど・・・・・・。
「それ、アンズじゃないの」
「ええ、良く判りましたね。蘭ちゃんの言うとおり、アンズです」そう言って、アンズの花を花束にし、俺に渡した。
「はい。御代は要りません」
ニッコリ、と微笑む夕華ちゃん。
「ちょ、何で誠也に渡すの!?」
隣で蘭が少し怒ったような声で言った。
「あら、違うの?」夕華ちゃんはキョトン、とした顔で言った。
「何がよ?」蘭は訝しげに聞き返す。
「誠也さんと蘭ちゃん、恋仲だと想ったんだけど・・・・・・」
まさかの爆弾投言。絶対零度のブリザード。青天の霹靂。
「ちょ、違うよ夕華ちゃん!!」蘭が顔を真っ赤にして言った。ビッ、と俺を人差し指で指し、大きな声で言う。
「誰がこんなヘタレな男!!」
その言葉に、カチンと来た。
「おい、どーゆー意味だ、それは」
「そーゆー意味よ!!」
「だからどーゆー意味だよ!!」
「ああ、落ち着いてください」俺達の喧嘩を夕華ちゃんが制裁した。
「違うならいいのです。ですけど、たまには素直にならないと損してしまうんですよ?」
夕華ちゃんは、蘭にそう言うと、今度は俺に向っていった。——蘭に、聞こえないように。
「アンズの花言葉、知っています?」
首を横に振ると、夕華ちゃんは続けた。
「花言葉は、『疑い』。中々他人の気持ちを察しする事が出来なくて、他人の行動に過敏に反応し、人を疑う。
まあ、そんな人は男の風上にもおけない、ヘタレ野朗ですが☆」
ニパー☆ と効果音がつくほどの満面の笑みだったが、発した言葉は中々に腹黒かった。
だが、夕華ちゃんの言葉は身に染みるほど良く判った。
蘭と喧嘩した理由。それは、俺が蘭を疑ったから。
・・・・・・いや、違う。そういうことじゃない。
俺は無理やりでも、自分の都合のいいように考えたいだけなんだ。
だから、どれだけ蘭が自分が見てきた世界の話を俺に聞かせようと、俺は耳を塞いで。
でも、蘭はそんな俺に近づいてくれた。歩み寄ってきてくれた。
俺は——蘭を自分の世界へ引き込むだけで、蘭の方へ歩み寄らなかった。
屁理屈練って、素直には受け止められない。——まるっきり、ガキじゃないか。
——・・・・・・あ。そういうことだったんだ。
受け入れるだけで、良かったんだ。
蘭が見ている世界があるって、ただ受け止めれば良かったんだ。
胸のつっかえが、取れたようだった。それだけで、何だかスッキリした。
夕華ちゃんが、俺の様子を見て満足したのか、悪戯っぽく笑っていった。
「——でも、アンズの花言葉は、それだけじゃあ、無いんですよ?」
- Re: 『花言葉』—気まぐれ短編集—【オリキャラ募集中】 ( No.73 )
- 日時: 2012/03/18 21:42
- 名前: 火矢 八重 ◆USIWdhRmqk (ID: kGzKtlhP)
◆
夕華ちゃんから花束を貰い、アンズのもう一つの花言葉を聞かされた後、俺と蘭は帰ることにした。
街灯が照らされている。もう、あたりは真っ暗だ。今日は両親は深夜に帰ってくるし・・・・・・料理、自分で作らないとな。
隣を見ると、蘭が顔を少し赤くして俯いていた。何か言いたそうな感じだが、俺はあえて何も言わない。蘭が言う言葉を待つことにした。
「・・・・・・あ、あのさ・・・・・・喧嘩の原因、覚えている?」蘭は俯きながら言った。
「ああ。妖怪を信じる信じないって、もめていたやつだろ」俺は蘭の方は見ずに言う。
「・・・・・・私、あんな言葉言われて、とてもショックだった」
ポツリ、と呟くように蘭は言った。けれど、その言葉は俺の心に刺さった。
「私は、誠也が目指している夢を知っているから、それも仕方が無いなって想ってた。でも、違った。ホントは、誠也に受け入れて欲しかった。私が見ているもの、聞いているもの、感じたもの・・・・・・それを判って欲しかった。
だから、とても悲しかった」
でも、と蘭は続けた。
「でも・・・・・・一番辛かったのは、私が誠也を『嫌い』って想っている事だった。
自分に嘘をついて、痛いことから逃げて——自分が、とても情けなかった」
蘭の声が、どんどん擦れていった。
蘭の顔を見る。——蘭は、泣いていた。
「ごめん・・・・・・本当にごめんなさい・・・・・・!」
「——俺こそ、悪かったよ」
はっと、蘭が顔を上げた。
照れくさくて、俺は蘭の方には見ず、俺は続けた。
「す、・・・・・・好きなんだ。お前の事がよ。
どうやったら、気持ちを伝えられるか判らなくて、どうすれば俺の方を向いてくれるかって、悩んで・・・・・・結局、蘭を傷つけてしまった。ごめん」
——判っていたけど、想いを伝えるのに、こんなにエネルギーを使うなんて。冷静に考える余裕も無かった。
——蘭が、息を吸うのが判った。
気付くと、蘭は泣きながらはにかんだ。
見惚れている間に、ドス、と腹部に衝撃が来て、それを受け止める。
「ありがとう・・・・・・嬉しい!」
胸のところに、蘭の顔がうずめられた。
蘭は、とても暖かくて、柔らかくて。壊れないように、抱きしめた。
——三月。一歩、やっと彼女に近づけた。
アンズの花言葉『疑い』『乙女のはにかみ』
執筆日 2012年3月18日