コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界を創り出す愛情理論 ( No.1 )
- 日時: 2012/06/16 11:11
- 名前: 蟻 ◆v9jt8.IUtE (ID: hTgX0rwQ)
#00 - 私、どこかへ逝っちゃいました
————十二月一日、車に轢かれた。
たった数秒。学校の帰り道に起こった出来事だった。もう赤くもない夕方に、赤い血がそこに舞った。
じわじわと痛みを感じる。赤い液体の中心に、私は居る。そして、人の中心に私が居る。
車にぶつかっただけあって、血は大量に流れるし肉は裂けてるし。何とか正常に働く目を動かして、辺りを見回す。買い物帰りのお母さんが、一緒に連れて来た子供の目を手で塞いで、こちらを見ていた。あーもう、何見てんのよ。とんでもないくらいの醜態を晒してしまった私が憎い。
その親子の他にも、野次馬は沢山居た。顔を真っ青にしてこちらを見ている人や、気味の悪そうな目でこちらを見ている人。混乱している人、怯えている人、中には「大丈夫か!」と私を心配してくれて叫んでる人も居た。この状況を見て大丈夫とか言えるわけない。いやむしろ、大丈夫とか実際言えない。言葉を出そうとすると、激痛が私を襲う。声に出せるのは「あぁ」とか「うぅ」とか呻き声だけで、声を出すこともできずに、ただただ皆の行動を見ていた。
お母さんは、居ない。お父さんも妹も誰一人だって、私に関係する人なんか居ない。……まあ、仕方ないよね。皆いつも通りの日常だって思ってたんだ。私もまさか自分の命が亡くなるなんて思わなかったし。いつもの様に、お母さんとお父さんは仕事してるし、妹は彼氏とデートしてるんだ。下校途中に車に轢かれるとか、だっさー。明日から見れることはないだろう月がうっすらと浮かぶ空を見て、心の中で呟いてみる。
——はあ、私死んじゃうんだろうなー。
意外と恐怖はなかった。直前になるまで全然緊張とかしないタイプだから。関係ないって? そりゃそうだ。死ぬ手前だから日常的なことは全く関係ない。恐怖は今現在感じないけど、ただ死にたくはなかった。せめて、一回ぐらいまともな彼氏がほしかったと思う。走馬灯の代わりにやりたかった事を思い出す。これは確実に死亡フラグだ。既に何本か立ってるけどさ!
体温が奪われていく。死ぬっていう感触が何となく分かって、ちょっとだけ恐怖心が芽生える。今更なんだけどさ。
こんな結末だけはしたくなかったなー。私の人生安楽死って決めてたのに。人生は全く分からないなあ。血とかだらだら流したくないのに、そんな願いも空しく体温は急降下中。意識も朦朧として、見えていた景色が見えない。睡眠欲に負けそうになる。ここで諦めたら試合終了ですよ! 試合終了どころの話じゃなかった。
落ち着いてみる。一気に後悔と激痛が襲ってきた。
何でこんな時に、死んじゃうっていうのに、家族が誰一人居ないのよ。人付き合いが苦手な私は、近所で事故に遭ったっていうのに知ってる人も居ないし。友達だって、見ていない。
一人でこうして死んでいくなんて悲しすぎる。——人と付き合わなかった、私のせいでもあるんだろうけど。自業自得ってもんだ。悲しいけれど。
そろそろ眠ってしまおうかな。もう駄目な気がする。周りの声なんか全部無視して、最後にちゃんと顔を向けた人を思い出す。
————知らない人だった。