コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: Re:主人公になるには【合作小説】 ( No.6 )
- 日時: 2012/03/18 05:13
- 名前: 遮犬 ◆.a.RzH3ppI (ID: /HF7gcA2)
僕達が登校している学校は徒歩で15〜20分程度かかるぐらいの距離で、案外近い場所にある。住宅街を抜けると、すぐに都市の方へと出るが、そこを上手い具合にすり抜けたところにある。都市の方より、住宅地からの方が近い高校だった。
学校は既に賑わいを見せていた。廊下や教室、様々な所で行き交う挨拶が耳に届き、そして隣にいた護は周りからかけられる挨拶に笑顔で答えていた。
「おはよーっ、涼代」
「あぁ、おはよう」
護が行く道を、僕はその少し後ろから着いて行く。周りからかけられる声は、ほとんど全て護に対してのものだった。
成績は優秀というわけではない。けれど、運動は出来る方で、性格も良く、人受けが良い。……これが主人公と呼ばれる者の所以なのだろうか。
「護ッ!」
その時、凄まじい勢いで僕の隣を駆け抜け、まるで僕がいないように、まっすぐ護の元へと飛んできた女の子がいた。
その容姿は綺麗というより可愛らしく、身長も小さい。髪をお気に入りのリボンで結び結びしている肩に少し当たる程度の髪の長さを持つ女の子で、正直の所、美少女と呼べるような容姿の女の子だった。その女の子の名前は、初宮 結衣(はつみや ゆい)。
僕は、苦々しい想いでいっぱいだった。
それは——彼女は、僕の初恋の人だったからだ。
「いってぇ!」
その直後、初宮は護の頭を勢いよく叩き、そのまま前のめりになりつつも腕を組んで護の目の前を立ち塞いだ。
「何すんだよっ」
「何するもクソもないわよ! まずは部室の方に覗いてから来いって言ったでしょー?」
「あれ……そうだっけ?」
ボリボリと、頭を掻きながら護は言った。それを呆れたようにため息を吐くと、即座に表情を鬼のように変えて、
「このバカちんッ!」
と、チョップを護の頭上に振り落としていた。
それを喰らった護は、痛みを抑えきれないかのように頭を両手で押さえて唸る。それを見ていた周りの人達は、またかという感じに微笑む。
これだ。この雰囲気。
何も、護はもの凄いイケメンで、学校中から騒がれるほどのものでもない。確かにブサイクでもなく、どちらかといえばイケメンというか、童顔混じりな感じがするような顔だが、これだけ多くに影響を与えるものなのだろうか。
ちなみに、僕は今の今まで挨拶を今日交わされたといったら全て護の後のことだった。護を見て挨拶をしたら、後ろに僕がいたから適当に挨拶を。そういうものだ。中には、護だけに挨拶をして、僕の存在に気付かない奴もいる。
「あ、雄一! あんたからも言ってあげてよね? 本当に……一応、幼馴染だし」
「え? あ、うん」
突然、初宮に声をかけられたので驚いて返事を返してしまったが、一応幼馴染という言葉を聞き逃すことはなかった。
そう、一応なんだ。幼馴染というのは、あまりに飾り物だった。僕が護に繋がることといったら昔からの馴染みということぐらいしかない。他のことについてはかけ離れすぎている。けれど、護は——
「おいっ、一応とか言うなよ。雄一は俺の一番の親友だっつーの!」
といって、護は初宮の頭に軽くチョップを喰らわせた。
「いたっ! 女の子に手をあげるなんて! サイテー!」
「サイテーもクソもあるか! 雄一をバカにした罰だ」
「バカになんかした覚えないわよ! アホッ! このバカ護!」
「勝手に言ってろ」
いつものように、こんな会話もはたまた起こる。
この雰囲気に、護はしっかりと僕のことを介護してくれる。これだよ。これだから、僕は戸惑うことになって、あんなスレをたててしまったりしたんだ。
どうしてそんなに僕のことを介護するんだよ。僕はただのお飾りで、君にとって僕はただの幼馴染という名の脇役なのに。
自然と手が握り拳を作ってしまっていたことに気付き、咄嗟に力を解いた。何だ、最近の僕は本当におかしい。
「行こうぜ、雄一」
「あ、あぁ……うん」
いつの間にか初宮はいなくなっていて、視界には護が笑顔で僕に向かって声をかけてきていた。
実際のところ、何を考えているか分からない。護は本当に僕のことを幼馴染で、大切だと思っているのか。いや、ただ見下して、そういう風にしているだけじゃないのか?
幼馴染という、"設定"があるから。その設定を上手く利用しているだけなんじゃ……。
(あぁ、何を考えてるんだ、僕は……)
頭がグルグルと回転し、教室に辿り着いてもこんな感じだった。
「おうーっす! 護に、雄一じゃんー!」
その時、勢いよく教室の中から飛び出してきたのは、活発そうな、いかにもツッコミ役のキャラだと言わんばかりの男だった。
この男の名前は、久利 銀之助(くり ぎんのすけ)。僕と護とほとんど一緒に行動する、いわゆるいつものメンバーの一人だった。
「銀、おはよう」
「おぉ、雄一っ、おはような! 護も!」
「あぁ、おはようおはよう。今日もテンション高いな」
「まあなぁ! お前ら、来ないかと思ってたぜー」
うんうんと何故か頷きながら、銀之助こと銀は嬉しそうに顔を綻ばせていた。
銀は僕とは似てないけれど、同じような配役であることは間違いないだろう。違いといえば、護と幼馴染かどうかということだ。銀とは、高校1年の頃から一緒で、本当に一年未満しか一緒に行動を共にしていないけれど、とても仲は良くなった。僕の頼れる友人の中の重要な一人であることは間違いない。
「連休明けだからなぁ……最近、風邪とか流行ってるみたいだしな」
「おいおい、まだ春の季節よー? 護ちゃーん。そんな心配より、護ちゃんは自分の身の心配した方が良くないかい?」
「あ? それって、どういう——」
あぁ、そうか。忘れていた。初宮だけじゃなかった。初宮は1年の頃に僕と護と同じクラスだったけれど、今の2年になってからは別のクラスになっている。だから先ほどのように部室に寄れなどを言ってきたりはする。勿論、それだけが理由じゃないけれど。
で、忘れていたというのは、何も印象が薄いとかそんなわけなくて、ただ単に、護の影響受けている人がこのクラスでいたなぁということを思い出したのだ。
「おい、涼代」
凛々しい面持ちで、ポニーテールに髪を纏め上げているいかにも剣道をやっておりますといった和風な雰囲気の彼女の名前は、久鷺 郁(ひささぎ かおる)。漢字で郁と書くので、名前の読みを「いく」と呼んでしまう人が多いが、実際は「かおる」と呼ぶらしい。
久鷺はその美女的な容姿もそうなのだが、高校生らしからぬモデル体型のように足が長くてスタイルも抜群のお姉さんのような雰囲気を持っていることから男子と女子共に人気だ。
しかし、この久鷺は見たところ無口そうで、なかなかフレンドリーな感じになりにくい印象を受けるのだが、結構可愛いものとかが好きで、意外と女の子ぽかったりする。
「ん、久鷺か。おはよう」
「おはようはいいのだが……桐嶋が探していたぞ」
「桐嶋が? 分かった、ありがとう」
護が久鷺に礼を言うと、一言だけそれに対しての返事のつもりなのか「ん」と呟くと、久鷺は自分の席へと向かっていった。もしかして、照れているのだろうか。
先ほど出てきた桐嶋だが……これはまあ、後でまた現れた時に説明でもすればいいだろう。それよりも今は——
「SHR、始めるぞー」
忙しなく教室に入ってきた教師に合わせ、席へと戻った。護は何気無く自分の席へと向かおうとする際、僕と銀に向かって「後でな」と一言呟いてから座った。
さて、今日もひっそりと暮らすのか。護の脇役として。
そう自然と思ってしまっていたことに、自分自身でも気付かなかった。