コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 目指せ! 一流魔法使い☆ ( No.26 )
日時: 2012/03/30 22:17
名前: 果実 ◆i0yxwOSY66 (ID: .3z5wMXL)

魔法相談所フラーレ町支局の仮眠室——
気絶したまま起きないシーナをベッドに寝かせ、
シルヴィアはフレ遺跡で起きた事について調べに行った。

レイチェルはシーナの横たわるベッドの傍に置いてある椅子に座っていた。
その目は虚ろで、視線は宙を彷徨っていた。
悲しみから来た訳ではない。ショックだった訳でもない。
ただ、意味の分からない感情に悩まされていた。


“お姉さま”と慕ってきた人が命の危機に瀕したというのに、
わたしはただ立ち尽くす事しかできなかった————何も、できなかった。

役立たず。
無意味な人。

わたしは様々な人からそういう人だと思われたまま、生きていくのかもしれない。
少なくとも————シーナには、がっかりされただろう。
高飛車な態度をとってきたのに、
それに伴う実力なんて、勇気なんて、わたしには無いと分かったのだろうから。

‥‥‥‥ただ我侭なだけで、心の中は弱い。

そんなわたしを、好いてくれる人なんている訳も無く。

幼い頃、母が家出をした。
誰も彼女の消息を知らず、未だに母は家に帰ってこない。
わたしは寂しかったけれど、
それを他人に見せる事はプライドがゆるせなかった。

高飛車な態度で寂しくないフリをして、いつも心を偽った。
『わたくしは庶民とは違いますのよ!』
だけど、友達は変わらず優しくしてくれた。
『そうですね』

わたしは嬉しかった。

なのに。

友達はわたしがティペット伯爵——否、[権力者]の娘だから仲良くしてくれていた。
わたしを[レイチェル]として見てくれていなかった。

それどころか、影でわたしを罵っていたのだ。

『ホント、我侭でメーワクだよね』
『でも、仲良くしなきゃ。 [令嬢]なんだからさ』

『レイチェル様に権力が無かったらただのダメ人間だよね』
『それ言えてるかも』


友達だと思っていた人達の裏切りや、
父が多忙を理由にわたしにかまってくれなかった事で
わたしはますます寂しくなって、母に会いたくなった。

多くの人はわたしが母に会いたいなんて思っていないと考えているだろう。
憤りや憎しみを感じていると考えているだろう。

確かにわたしは、家族を置いていった母に憤りや憎しみを全く感じなかった訳ではない。
ただ、その感情よりも、『会いたい』気持ちの方が強かった。 

母に会って何を言うのか、何をどうするのか、自分でも分からなかった。
でも、とにかく、わたしは母に会いたくて、幼いながらもその方法を考えていた。

ある時、一流の魔法使いが大勢の人々を助けたという噂を聞いた。
わたしは、

『一流の魔法使いになったら噂が流れ、母に見つけてもらえるかもしれない』
『一流の魔法使いになったら父にかまってもらえるかもしれない』
『一流の魔法使いになったらほんとうの友達ができるかもしれない』

と思うようになり、魔法使いを志した。
幸い、わたしには魔法が使える可能性があると、王国の検査で分かった。
そして、旅に出る事になったのだ。


だけど、大切な人が傷付いているのに何もできないわたしは、
魔法使いになれないかもしれない。
いや、魔法使いになってはいけないのかもしれない。
魔法使いになった所で、わたしじゃ周囲に迷惑をかける事しかできないのだから。