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Re: 目指せ! 一流魔法使い☆ ( No.9 )
日時: 2012/03/09 18:18
名前: 果実 ◆i0yxwOSY66 (ID: 3JA2YsPn)

城から帰ってきたレイチェルは自宅の家長室の扉をノックした。
「入りたまえ」
と言われ、レイチェルは
「失礼します」
入室した。

「お父様」
扉の前に立つレイチェルに、父親は机の上の書類から目を離さなかった。
「…何の用だ」

「わたくし、明日から旅に出る事になりました」

部屋が沈黙に守られる。 しばらく経ってから、
「…乳母に準備するよう言っておけ」
父親が口を開いた。

レイチェルが何かを言いかけた時、扉を下男が開いた。
「旦那様、お客様がお見えでございます」

「今、行く」
父親は立ち上がり、部屋を出て行った。

部屋に一人残されたレイチェルは、
壁に拳をぶつけ(良い子はマネしないでください by果実)、
「…はぁ」
ため息をついた。

…優しい言葉を期待していた訳ではなかった。
仕事が第一の父親だからそっけない反応を返すだろう、という事くらい分かっていた。


それでも————————————………


「レイチェル様、入ってもよろしいでしょうか?」
乳母が扉を叩く音がする。
「…何?」

母親が家から出て行ったのはレイチェルが7歳の頃だ。
それ以来、レイチェルの世話は目の前にいる乳母がしてきた。
始めは母恋しさに枕を濡らす日々だったが、今ではもう、慣れてしまった。
母親の声や顔なんて、とっくに忘れてしまった。
慣れとは恐ろしいものだ、とまるで他人事のように考えていたのだが、

「お嬢様、旅に出るそうですね」

と乳母が言ってきたのには驚いた。 
旅に出る事は父親にしか言っていないし、父親がもう乳母に言ったとは考えられない。
慣れとは恐ろしいものだ、という先ほどの考えはどこかに吹き飛び、
何故乳母がこの事を知っているのか、という事にレイチェルの頭は一杯になった。

俯きながら——これは彼女の考える時の癖であった——脳みそフル回転で考えた結果、
レイチェルはゆっくりと顔を上げた。

「あなたまさか、盗み聞きをしたわね?」

乳母の目が泳ぐ。
「な、なんのことやら私にはさっぱり…」
動揺している所を見ると、どうやら図星だったらしい。

レイチェルはさっきとは別種のため息をついた。

「…いやあの、別にやましい事があった訳じゃないんですよ。
お嬢様の事が心配で、ですね。
悪い事とは分かっていたのですが…つい…」

じっと、乳母を見た。
…多分、今のは本音だろう。

彼女は悪い人間ではない。
ただ、超がつくほどの天然なのだ。