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Re: 狛犬 ( No.1 )
日時: 2012/03/24 23:10
名前: アルミナ ◆SaU.uAEqac (ID: wxv5y7Fd)

ー1ー

「落下」


五月雨雄人。
俺が十六と言う年齢で単身で郊外のこの町に越して来たのは、単純に都会の息苦しい生活に飽き飽きしただけだった。
後悔はしていない、交通の面でも苦労することはないし、少し歩くがスーパーもコンビニもあるので生活に不自由はない。高校への通学も問題無し。
そんな自由奔放に暮らしていた俺は、ある日死んだ。


室内に響き渡る機会音が俺を夢の中から現実に引き戻す。
五月蠅い目覚まし時計を壊す勢いで止めると、次に部屋を満たす音はアブラゼミの鳴き声。網戸にしがみ付き、一週間の一生を嘆くかの様に鳴くアブラゼミをデコピンで弾き飛ばすと、やっと部屋は静かになった。
食パンをトースターに突っ込み、顔を洗い歯を磨き、制服に腕を通してカバンに教科書の類を詰め込み、焼けた食パンを再び口の中に突っ込んで家を出る。
毎日繰り返す動作は起床から無意識に行なわれる。
田んぼのあぜ道を突っ切り、無駄に広い田舎の国道を横断して、次は近道の神社のこれまた無駄に段数の多い階段だ。
照りつける真夏の日差しが、階段を登る俺を足止めしようとする。
負けじと脚を強引に持ち上げた時だった。
「危ない!!」
その声は上の方から聞こえた。
その言葉の意味を理解したのは次の瞬間だった。
自分の真上を見上げたとき、それの存在に気づいた。
それは、狛犬だった。
狛犬が頭上に落ちてきたのだ。

俺は痛みを感じることもなく意識を失った。
即死だった。


目を覚ますとそこは天国でも地獄でも、はたまたソウルソサイティでもなく、死ぬ直前まで登っていたはずの階段の先にある神社の境内だった。
俺は何故か賽銭箱の裏に横たわる形で倒れていた。
最初に目に入った人間は中学生くらいの巫女の少女だった。
彼女は俺が目を覚ましたことに気づくとホッとしたような素振りを見せた。
「目を覚ました?良かった…。」
その声は、俺が意識を失う直前に聞いた声だった。
「俺は…、死んだ…のか?」
「死んだよ」
彼女の口からは、その声に似合わない言葉が発せられた。
続けて彼女は話し始めた。
「けど、ギリギリなんとか蘇生させたから大丈夫、問題ないよ。」
「本当に大丈夫なのか?」
「それよりお兄さん、制服着てるってことは学生さんだよね?時間大丈夫?」
色々と誤魔化されたような気がして不満に思いながらも腕時計を確認した俺は目を疑った。
「九時じゃねぇか!?」
俺は横に置いてあったカバンを背負って学校の報告へ走り出した。
「色々と説明しなきゃいけないことがあるから学校終わったらここ来てねーっ!!」
手を振って俺を見送る彼女を背に俺は学校までノンストップで走った。