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- Re: 暴風警報!のちのち生徒会!!【完結版】更新遅れてすみません; ( No.11 )
- 日時: 2012/05/25 19:57
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
人生ロクなもんじゃねぇよ、というのが口癖っぽくなりそうで何とか堪えているなっていない俺こと篠坂 奏は不幸が度重なる自分の不運な体質のせいで様々なトラブルに巻き込まれる人生を今まで送ることとなってきた。それらの経験は身に持って刻まれており、危険なことが毎日のように起こる為に体が身につけたものは、超反射神経だった。何事に応じても脳よりもまず体が反応するのだが、その速度を通常の人間とは比べ物にならない速度で転換することの出来る能力をいつしか身につけてしまっていた。
そんな不運によって生まれた能力を持ちつつ、今の今までよく死なずに生きてこれた俺は、今年で高校生となった。しかし、その度重なる不運によるものなのか、顔馴染みがいるからという理由はただの言い訳に過ぎず、本当のところを言えば、迷惑はかけたくなかったのかもしれない。
そんなことで、住んでいた家から遠い場所に位置した学校へと通うことを決意し、寮のある学校ならどこでもいいかと適当に決めて受験をした。勿論、レベルやらも考えてのことだが、よくよく思えば色々間違えていたのかもしれない。
中学時代の最後の担任、そういえばボケてそうな老人の先生だったなぁと振り返って思ってみると、なんだかよく分からない二者面談を繰り返していたような気がしてならない。
「あの、俺は地元から離れてここの学校を……」
「あぃ? え? 何て言いましたかえ?」
「いや、だから……この学校を……」
「なんだって? 冷蔵庫にあったワシのプリン食べちまった!? 婆さん、そりゃねぇべ!」
「あの……」
「あぃ?」
「……また今度にしていいですか?」
……今思ったら、何で他の先生を頼らなかったんだろうと思う。というか、それ以前に俺が二者面談をしようって時に限って頼れそうな筋肉だらけの数学の先生もいなかったんだ。……というか、ずっと思ってたんだけど、絶対教える教科間違っただろうと思う。思い返してみれば……
「はい! エクササイズいきマッスル! なんちゃってー! がはははは! 面白いな! がはははは!」
もう、勝手にしてくれと当時は思っていた。暑苦しい筋肉を使って動き回りながら数学を教えるもんだから、こっちも暑かった。しかし、こんな教師でも頼れるっちゃ頼れる熱血漢だったのさ。ふっ、笑いたきゃ笑えよ。
そんな感じで、俺の学校選択はここまで不運に支配されて、俺の人生は大きく唸りを上げることになる。
「生徒会に入れ!」
そう——幼少時代以来あっていなかった、桜月 夕姫との再会をきっかけとして。
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第2話:ここは何て名前の国ですか?
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カーテンから注がれる日差しのおかげで目が覚めた。こんなにも清清しい朝は初めてだ。
起き上がると、ベッドから下りる。質素ではあるが、とりあえずベッドはベッドなので、寝心地はまだよかったからかは分からないが、体の状態も万事おーけー。ふっ、いい感じに笑顔がこぼれる。これはなかなか素晴らしい一日の始まりじゃないか?
ミニ冷蔵庫の姿が見えたので、近づいてそれを開けると、中には『すもももももももものうち牛乳』を手に取る。紙パック状になってるそれをすぐ傍にあった食器の中からグラスを取り、中に注ぎ込んだ。白い、美味しそうな液体がうむ、心を躍らせるな。
丁度いい所まで入れると、俺はそれを手に取り、一気に飲み干す。
「……っ、ぷはぁっ! 素晴らしい朝だ!」
「朝から元気がいいですね?」
そこで、俺の体が凍りついた。丁度、口元の牛乳を豪快に拭き取ろうとした瞬間のことだった。
後ろの方から手が伸びてくる。何だ、これはホラーか。いや、違う、そういえばこの部屋にはもう一人の住居人がいたことを、あまりの清清しい朝によって忘れていた。
その白くて、小さな手は、ゆっくりと冷蔵庫にあるビンを掴むと、俺の後方へとまた縮んでいった。何かいい臭いもした。それは勿論、後ろにいるビンを手にとって微笑んでいる外見詐欺のことだった。
「牛乳、"奏クン"も好きなんですか? 僕も大好きで、こうやって冷蔵庫に入れてるんです♪」
この野郎——いきなり奏クンとか言うなああ! 何か動揺しただろ! 何これ! 嫌だよ! こんなにドキッとした相手が男とか! BL系の趣味は全然ないよ! いやでも、これ、椿は騙されるよ! 誰でも! ……いや、言い訳じゃないからね!?
「何をそんなに顔を引き攣らせてるんですか?」
「……いえ、何でもないです……はい」
ため息を吐きたかったが、黒服筋肉隆々のおじさん達が物凄く恐かったのでやめておいた。
椿は牛乳のビンについてあるフタを取り外すと、そのままゆっくりと口へと運んでいった。その動きが、一つ一つ滑らかすぎて見惚れて——いやいやいや、やめようやめよう。
「ふぅ、美味しいですね、ズドゥビバ牛乳」
「何それ!? 初めて聞いたわ!」
「生乳70%、後の30%は色んな出汁で出来ているといわれている牛乳ですよ?」
「それはもはや牛乳ではないんじゃないかな!?」
「そうですね、どちらかというヨーグルトです」
「ドロッとしてんの!?」
凄まじいオーラを放つズドゥビバ牛乳。いや、もう牛乳ではないから……ズドゥビバ? ——ズドゥビバって何だ。
「何で、すももももももももものうち牛乳があるのにズドゥビバ牛乳を飲むんだ」
「一個"も"が多いですよ。……言いにくいですし、ズドゥビバ牛乳の方が朝はいいですから」
「"も"の数とかどうでもいいわ! じゃあ夜は……すもものうち牛乳を?」
「もが少なすぎますよ。……いえ、僕は基本朝はズドゥビバ、他は緑茶オンリーです」
「"も"は略したんだよ! 緑茶オンリーって、じゃあ朝もそうしたらいいだろ……」
何かこう、話していたら疲れるのは初めてのことだった。いや、今まで鬱陶しい奴は幾度となく見てきたが、椿はそういうのじゃなくて、この笑顔に圧倒されるような、そんな表現しか出来ない妙な疲れを覚えさせてくれていた。
「まあ……どうでもいいけど、今日と明日で一応休みが終わるんだよな?」
「えぇ、まあそうですね。ですから、明後日から学校が始まるというわけです」
丁度よく転校してきた、というのか。今日と明日は休みで、明後日から学校が始まることを聞いた。
色々準備というか、この寮生活……いや、椿に慣れなければならない為、少しでも学校に慣れる時間が欲しい所だったのだ。
「学校の内部、俺まだ全然把握してないんだよな……」
「あぁ、それなら僕が案内しますよ」
ズドゥビバ牛乳を飲み終わり、ビンをテーブルの上へと置いた椿がしれっとそう言った。
「え? いや、椿も一年だろ? 同じ境遇っちゃ境遇じゃねぇか」
「いえ、一年は一年ですけど、この学校には既に2〜3年は在籍しています」
「は? ……えっと、それはどういう……?」
頭がこんがらがってきた。この学校に来てからというもの、驚くことが多すぎて困る。まだこれでも初日を過ごしただけとは思えないほどに。
「つまり、僕は飛び級してるってことですね♪」
「……飛び級って、あの飛び級?」
「はい。様々な飛び級は存在しますが、今回は学歴の方ですね。それに、ここは中学生も通う学校、一貫性の学校なので、それぐらいはしている人、いっぱいいますよ?」
「いやいや……でも、相当頭賢くないと無理だろ?」
「まあ……確かにそうかもしれませんね。昔から英才教育を受けている人が多いですね、飛び級は」
「……なんていう学校なんだ、ここは」
今更ながら何だが、この学校のシステムやら状態やらを聞くたびにとんでもない学校なんだと認識する。敷地もクッソ広いし、見ているだけでも迷いそうだ。中学はこの校舎と寮の他に存在しており、確かにあるようだ。中学専用の校舎、グラウンド、別館など。
まだ中学は義務教育なので、寮は設置されていないとあるが、高校の方でルームシェアをする形ならば、別に構わないとか。いやいや、それはもう既に義務教育じゃない気がする。
「一人で探索するには、広すぎる学校ですし、色々と面倒事とかあると、まだ学校を登校したこともないのに嫌でしょう?」
「……まあ、確かにな」
昨日のことを思い出すと、身震いした。駅のホームでのあの可憐な美少女に……鎖鎌の業務員のおばさん。あの人は恐かった。本当に人間だったのか?
「というわけで、早く用意してくださいね?」
「え? 今から?」
「当たり前じゃないですか♪ こういうのは、早いのにこしたことはないんですよ」
と、椿は言うと、笑顔で着替えに奥の方へと向かっていった。
「はぁ、何と言うか……」
言葉に出したくはないが、波乱万丈の予感がしてきた。