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- Re: 暴風警報!のちのち生徒会!!【完結版】 ( No.13 )
- 日時: 2012/05/30 23:09
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
「国枝 涼音(くにえだ すずね)といいます。今日からこの学校にお世話になる者です」
「これはどうもご丁寧に……俺の名前は——」
「あ、別に名乗らなくてもいいです」
「いいのかよっ!! そこは名乗らせて、いや、名乗らせてください!」
「そこまで言うなら……」
「篠坂 奏っていいます。とりあえず、変態ではないです。……学校にお世話になるってことは、寮生になるってことか?」
「まあ、そうですね」
俺達は一旦落ち着くと、とりあえず俺の目の前にいる桃色髪の女の子、すなわち国枝 鈴音が何故俺達に話しかけてきたのかということを確認する為、落ち着いて話しをすることになった。
「二人共、寮生なんですか?」
「一応、まあ……」
「一応というより、そうですね。共に暮らしています」
「同棲!? 学校でなんて卑猥な……!」
「え? いやいやいや! そうじゃないそうじゃない! ここの寮はルームシェア制で、仕方なくだ、仕方なく!」
「ていうより、そもそも僕と奏クンは"男同士ということになっている"ので、問題はないかと」
「だからいちいち意味深な言い方するなぁぁっ!!」
と、まあ要するにこの国枝 鈴音という美少女、俺と同様にパンフレットなどを見ずに学校へと来た感じになっているので、寮の場所というか、部屋が分からないそうな。やっぱりあれだよね、パンフレットとか読まないよね。読むとしても、楽しそうなところしかね、うん。
「それで、俺と椿が通りすがったから、教えてもらおうと?」
「はい、まあ、そうなんですけど……分かりますか?」
「一応寮生だからね。案内——」
「出来るんですか? 奏クン」
椿に言われて、冷や汗をかいた。
その理由、まあ簡単に言えば、案内できるほどまだよく知らない。ていうか、ここどこだっけ? っていう状況だった。丁度俺も案内してもらっていたんだったということを思い返すと同時に、俺もまたこの国枝という少女と何ら立場は変わらないことに気付いたのだった。
「すみません、俺は無理っす」
「ですよね♪ まだ入学したばかりなんですから」
「うぐ……!」
椿から言葉のボディーブローを喰らった。畜生、いいじゃないか。こんな可愛い子、地元の中学でも——いたっけ? いや、いないよなぁ。ていうか、本当に見れば見るほど可愛いなって思えてしまうのがあらやだ不思議。
「なんだ……やっぱり、見た目通りに変態に声をかけたのがまずかったみたいですね……」
「ぐばぁっ! そ、そんなことは——」
「あ、安心してください♪ 僕がちゃんと案内しますから」
「え、椿? ちょ——」
「本当ですか!? 七瀬君なら安心して頼めそうです!」
「待て待て待てぇぇ! 俺の案内はどうなった! そしてこの心の傷をどうしてくれる!」
「……あぁ、そうでしたね。なら、奏クンも勝手について来てください」
「おお! 椿!」
「ただし、変な行動を起こした場合はすぐに終身刑ですので」
「そんなに罪重いの!? ていうか、変態じゃないってぇぇええ!!」
——————————
その頃、仮生徒会室ならぬとある部室の中で、夕姫は一人考え込んでいた。
「はぁ……まさか、あんなにもお祖父ちゃんが反対するとは思わなかったよ……」
ぐったりとした様子で、夕姫は目の前の砂時計を見つめた。砂時計の中に入ってある砂が上から下へと移動していく様子をじっと見張る。耳を澄まさなければ聞こえないような砂の音に耳を傾け、誰もいない無音の部屋の中でいるのはどこからか孤独を感じられた。
そして、その砂時計の奥の方にあるのは、ホワイトボードに書かれた"暴風警報!!"という文字だった。
それがこの、夕姫が生徒会として成り立たせるグループの名前。何故この名前にしたのか。それは一つの古い紙か本に書かれてあったことのような気がする。
なんとなく、自分に合っている気もした。
「まあ、やるしかないよね……」
夕姫は寝そべりながら、砂時計の奥に見える暴風警報の文字をぼんやりと見つめ、呟いた。
「……奏」
丁度、砂時計の砂が全て下に落ちきった所だった。
——————————
さすがに休日の日に校舎を歩き回っているといったら部活動関係の人とか、その他役職の部類で仕事をしている人ぐらいしかいない。椿にさっきまで案内してもらっていたのは、あくまで凡といっては何だが、普通の校舎の方。今から向かうのは——
「あれがお坊ちゃまお嬢様の方の……通称、伯麗と呼ばれる校舎です」
「……待て、椿」
「はい?」
「……"あれ"は何だ?」
「見て分かりませんか? あれはどこからどう見ても——時計塔でしょう」
俺達の目の前にあるそれは、どこぞのヨーロッパかここはと思わせるような時計塔が聳え立っていた。何だここ、本当に日本国ですか、非国民めが。
なんたって規模が凄い。ただ時計塔が聳え立っているだけでもなく、校舎の方もまた嘘だろうと口にしてしまうほどにバカげたものだった。
正直、普通校舎の方と比べ物にならない凄さだった。何だあれは、お花畑か? うふふふーって戯れろといいたいのか、この野郎め!
「鬼のような顔をせずとも、まあ気持ちは分かることは分かります。普通校舎とは大いに違う。それでも、この伯麗と普通校舎である盆栽は同じ学校として二つ共成り立っているわけです」
「……普通校舎の通称、盆栽って言うんだ……」
「凡、からかけまして、盆栽と」
「そんなことだろうと思ったけどさ……」
にしてもバカ凄い。本当にお嬢様とかが通うにふさわしい、みたいな学校じゃないか。俺の隣にいる国枝も口を開けて時計塔を見つめていた。
「……お二人共、こちらの校舎で過ごす……ということで?」
「そんなわけないだろっ!」
「そんなわきゃ、にゃ……! にゃ、な、ない、だろ!」
「……可愛い」
「はい、終身刑」「すみませんすみません」
……と、ひと段落してから、椿が笑顔で人差し指を立てて俺と国枝に向けて言った。
「まあ、お二人共、気にしなくても全然大丈夫ですよ」
「……いや、何がだよ」
「生徒会を目指す者は、伯麗で勉学を学べるという決まりはしっかりとありますので♪」
「何だその決まり! 別にいらねぇよ! 普通でいいわ!」
「ていうか……あの、生徒会云々って、何のお話ですか?」
そういえば、どさくさに紛れて椿の奴、俺達二人のことを指して言ったな。俺は契約的に断れないものだが、国枝は——
「正直な所、勧誘です。共に生徒会を目指してはもらえませんか? 数多くの生徒を見てきた中、僕は貴方には才能があると思いまして……」
「え、えぇっ!? 何を言って……私、何も才能なんて……」
手を左右にぶんぶんと振って、必死に拒否を示す国枝。……なんちゅー美少女なんだ。
「とりあえず、奏君は終身刑確定で」
「人の心を勝手に読むなよっ!!」
「じゃあ、心を読みますね」
「今更遅いわ!!」
俺の返答はスルーして、椿は一呼吸置いてから再び口を開いた。
「国枝さん、貴方は類稀なる能力を持っています」
「能力……?」
能力、と聞いて、俺のような立場にあるのかと思った。この国枝が。
何をするにしても、途中で諦めなければ取り返しのつかないことになる。そんな俺の人生のような、そんな人生をこの国枝も送ってきたのだろうか。
何故か、ふとそんな思いが脳内に走った。
「貴方の能力、言い方は悪いですが……それは"影の薄さ"です」