コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 暴風警報!のちのち生徒会!!【完結版】 ( No.5 )
- 日時: 2012/05/01 23:50
- 名前: 遮犬 ◆ZdfFLHq5Yk (ID: GHOy3kw9)
思い返してみて、いくつか盲点があった。そのことに気付かなかった俺は非常にバカ野郎であることを今更言っておくことにしよう。
その理由、まずその一。進学する学校をちゃんと選ばなかったこと。
まあ、条件が合えばどこでもいいとか思っちゃったわけだね。学力まあ平均程度だし、ここでいっかーという軽い気持ちで学校を決めてしまったこと。
その理由、その二。パンフレットをしっかり読んでいなかったこと。
所詮パンフレットだろ? とか思って全く学校についての事項を読んでいなかったのは、とんでもなく恐ろしい結果を招くことになるんだねっていうことを俺はここで初めて知った。
その理由、その三。俺が不運すぎて乙ってること。
もうこれは……正直どうしようもない。ていうか、どうにかしろっていう方が無理な話だ。
まあそんなところだ。盲点がありすぎて、俺も参っている状態なのは事実で、パンツ一丁姿で正座とかしているこの状況も事実なわけだ。
何でこんな盲点抱えながら俺は生きてんですかって話なわけなんだが、理由その三辺りはどうしようもないから許してくれ。
とりあえず、生徒会室の中で目の前の女の子相手にパンツ一丁で正座させられるハメになった経緯をお教えした方がいいだろう。
——それは、寮での出来事だった。
——————————
寮の中に入ると、大きなロビーに出た。
ロビーは結構広く、ちゃんと受付までもがある。受付の中には人がいるようで、どうせ歳をとったおばちゃんだろうなぁとか思っていたら、意外とかなりの美人さんだった。おっとり系のお姉さんのような外見で、長くて艶やかな黒髪が光っている。
「あの……」
「あ、はい?」
柔らかい声だぁぁ……! と、心の中で密かに感動しつつ、なるべくキリッとした表情で受付のお姉さんへと話した。
「今日から此処でお世話になる、篠坂 奏っていうものです。よ、宜しくお願いしますっ」
「え? あ、はい。えっと……紙、ありますか? 此処の住所が書かれた……」
何となくだが、スルーされた感じがするのは気のせいだろうか。……まあ、そんなことは一旦置いといて、例の紙を取り出した。
「あぁ、ありますね。その紙の下の方に書いてある部屋番号の所に行ってください」
少し身を乗り出して、お姉さんが俺へと教えてくれた。……っと、待て待て、有り得んほどの悩殺ボディじゃねぇか……。
少しばかり赤面になりつつ、俺は部屋番号を慌てて確認した。自分の名前が書かれた隣に『215』と記されてあった。
「215なら、B館のVIPですね。すぐに見つかると思いますよ」
「あぁ、親切にありがとうございました」
「いえいえ、それが仕事ですから」
営業スマイルで言われる。……何か所々言葉が厳しいような気もするが、とりあえず今は部屋へと向かおう。聞いた話によると、既に大部分の荷物は部屋にあるみたいだし。
(にしても、VIPって何だ? 優遇される的なあれか?)
疑問に思いながらも、B館へと向かうことにした。そういえば先ほど身を乗り出してきた時に見えたんだが、胸の方に名前が書かれたステッカーが見えた。あのお姉さんの名前は、牧野 有紀(まきの ゆき)さんというらしかった。あぁ、なんとも見た目並みに可愛らしい名前なんだろうか。
「それじゃ、俺はこれで……」
「あぁ、はい。お気をつけてー」
牧野さんと別れると、俺はB館へと向けて歩き出した。
そんな俺の後ろ姿を見つめ、牧野はゆっくりと机の中から無線機を取り出した。
「ターゲット、そっちに行ったわよ」
無線機に繋がっているであろう相手へと向けて、牧野はそう呟いた。
——そんなこんなで、ロビーを離れ、B館へと向かったわけなのだが……もしかして、学校と直接繋がってる館なのだろうか。いや、そんなことないのか?
でもどう見たってパンフレットにある地図にはB館と校舎が引っ付いてしまっていた。ご丁寧に「※引っ付いちゃってます」とか書いてある。いや、そんな悪戯でやりました、みたいな言い方されても困るんだけども——
「って、此処か」
渡り廊下とか渡っての別館がB館らしかった。ちょっと待て、こっから校舎の中庭付近見れるんだけど、っていうか敷地広すぎだろ! そのことにビックリだわ!
俺の元いた地元の高校より大分広いじゃないか……。さすが俺の地元より都会。学校も進化してるってことかい?
「何かいい感じだなぁ……」
何故かそんなことを呟いてしまっていた。また、何を言ってるんだ俺は。
いまだに俺は順風満帆な学校生活を送りたいと望んでいるのか?
戯言も大概にしないと、後が取り返しつかなくなる。
そのことを、俺は誰よりも知っている気でいた。
気を取り直して、寮の番号を確認していく。215、だったよな。いくつも部屋があって、まるでホテルみたいだった。結構一つ一つの部屋が大きいみたいで、何人用かに恐らく分けられているみたいだった。部屋の番号の隣に名前が記されてあって、えっと例えるとしたら病室と同じような感じか。あんな風に学年と名前が記されたステッカーが貼られている。
「215……215……? あれ? 無くないか?」
どこをどう見たって、215号室が存在しなかった。210まで存在するが、それから先の5部屋はない。どこをどう見てもない。マジかよ。此処に来て、俺の部屋ないですよっていう不運か? マジで? それはあまりに大袈裟すぎる不運だろうよ……。
「どうなってんだ……?」
わけも分からず、その場で立ち尽くしていると、何か不自然なところを見つけた。それは奥の突き当たりの部分だった。
部屋がいくつか分けられているのだが、奥の突き当たりの部分だけ妙にスペースがあったのだ。それも、もう一部屋作れるだろうっていうぐらいのスペースだ。
「これって——ッ!?」
おそるおそる壁へと手をやると、その瞬間何かが外れる音がして、俺は壁の中へと吸い込まれた。というより、壁が突然抜けるような感覚で中に入ることが出来た、という感じだった。
「何だこれ……発泡スチロール?」
壁の正体は発泡スチロールで、例えるならばスッカスカな感じだった。誰だ、こんな悪戯をしたのは……。
奥には、階段が見えた。まだ上に行けるのか? おそるおそる、俺は階段を上がることにした。
今は大体昼時ぐらいなせいか、妙にお腹が空いた。あぁ、早く部屋にいって、荷物整えてからどこか飯でも食いに行きたい。
そんなことを考えながら一段一段、階段を登っていくと、先ほどと同じように長い廊下が見えた。ここは一体何階にあたるんだろう。
そうして、廊下の奥を見つめていたその時だった。
「あれ?」
後ろの方から声が聞こえた。やたらと高めの声で、女の子の声だと思った。後ろをさっと振り返ると、そこには不思議そうな表情をし、ショートヘアーな感じの子がいた。顔も、かなり可愛い。普通にアイドルかそこらになれるんじゃねぇかとか思ったぐらいだったが——その子は違和感の塊でしかなかった。
「……あれ?」
「え?」
「……いや、何で男性用のブレザー?」
そう、それはこの可愛い"外見女の子であるはずの子"が、男性用のブレザーを穿いていたのであった。コレは何だ、何かの趣味なのだろうか。
しかし、彼女の口から出た言葉はとんでもない言葉だった。
「え? 僕は男ですよ?」
「……はい?」
いや、どこからどうみても男じゃないだろ。ていうか、よくよく凝視すれば胸も少しありそうな感じがする。ダメだ、見れば見るほど男じゃねぇよ。
「あの……それより、何故ここに……?」
「え? あ、いや……部屋を探してて……」
「部屋?」
目の前のどこからどう見ても女の子としか思えない子がずんずんと俺の方へと向かってきた。ていうか、声も女の子なのに、どうやって男だと認めればいいんだ。もう俺の脳内はテンパってどうしようもないよ!
近づかれた瞬間、とんでもなく良い匂いがした。畜生、やばい、顔を見れない。
「あの、どうしたんですか?」
「あ、いや、気にしないでくれ……」
少し顔を赤くしながらふるふると顔を左右に振った。いかんいかん、このままじゃ、俺はいかんぞ。色々と。
そうして気合を入れようと顔を両手でパンパンと叩こうとしたその時、
「215? あぁ、ならこっちですよ」
笑顔でこの子は俺を連れて歩き出した。ちなみに、俺の袖をこの子の手が掴んでいて、引っ張ってくれてるような状況で——まずいって、これは……! とか、普通に思ってしまう。
離してくれ、という所までも声は出ず、少しの静止を投げかけるような……「ちょ」「え、あ」とか、何かこんな言葉をちょろちょろと呟くばかりで、結局この子に連れられるハメとなった。
ほどなくしてから、どうやって行き着いたのか分からないわけだけど、215の文字が書いてある部屋の前に来た。やたらと豪華なプレートで、そこには名前が書かれてあった。
俺の名前と、そして——七瀬 椿(ななせ つばき)という名前が。
「あ、申し遅れました。僕の名前は七瀬 椿ですっ。ルームシェアな感じで僕と暮らすことになったみたいなんだけど、よろしくね♪」
「……え?」
いやいやいや、聞いてないですよ?
ルームシェア形式の部屋? はい? 何だそれは。
俺は頭を抱え、混乱するばかり。
目の前の、少女なようで男と語る男の娘は、ただただ笑っているばかり。