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- Re: *迷恋華* ф実話ф ( No.19 )
- 日時: 2012/05/22 20:22
- 名前: 絵磨 ◆VRtMSlYWsU (ID: m.NeDO8r)
- 参照: 未完成で曖昧な恋の色。
第五話『アタックチャンス』
「おはよ、依麻」
次の日の朝。
靴箱で偶然由良に会い、由良が笑顔で挨拶をしてくれた。
「おー、おはよ〜」
由良の方を見て笑顔で言うのと同時に、視界の隅に壱の姿が見えた。
壱は軽くこっちを向いたが、スルーして教室の方へと向かっていく。
朝からかっこいいけど、胸が痛いぜっ!!
「……うわ、靴ないし」
「え?」
由良がそう呟き、私は我に返る。
靴がない……とは?
「福野にやられた。昨日私、靴箱の下に置いちゃったんだよね」
「あー」
由良は、頭を掻いて小さく溜息をつく。
福野は靴の置き方に厳しい。
上靴は原則的に上の方へ置くことになっているが、光葉中の生徒は下に置くことが多い。
その度に福野がそれを見つけると、上靴のひもを何十にも固く結んで履けなくしたり没収したり、色々なことをする。
由良はどうやら、没収を喰らったようだ。
「仕方ない……。靴下で行くよ」
「え、まじで」
「うん。まじ。福野から返してもらわなきゃ……はぁ」
由良はだるそうにそう呟いた後、靴下のまま廊下を歩き始めた。
私は数秒立ち尽くしていたが、すぐに由良の後を追いかけた。
**
「——おい、ここから靴持ってったやつ誰よ!」
教室に入ると、いきなり怒声が響いた。
私は一瞬由良の足元を見るが、由良はやっぱり靴下のままだ。
じゃあ、他に誰かが——……。
そう思った瞬間、教室の奥の方に居た壱と叶汰が福野へ近づいた。
……って、え?
「なんでお前ら勝手に持ってってんのよ!」
福野は壱と叶汰に向かって、そう怒鳴った。
叶汰は軽く笑みを浮かべながら、「やっちゃったー」という顔をしている。
壱はいたって無表情。
福野は二人を鋭く睨みつける。
そこで叶汰が、へらへらとした笑顔で福野に向かって呟いた。
「え、持ってっちゃ駄目なの?」
「駄目に決まってんだろうが!!」
「えー、だって他の先生が靴履いていいって言ってたから〜」
「他の先生がよくても、私はいいっつってないだろ!」
「え〜」
叶汰は腰に手を当て、呆れた様な顔をしている。
福野はガミガミと、早口で怒鳴っていた。
壱は無表情のままで、叶汰は相変わらずの笑みでだるそうに立っている。
「……もういい、お前等放っておく!」
「え、放っといてくれるの?」
福野の言葉に、叶汰は素早く反応した。
男子にしては可愛らしい笑みで、明るく聞き返した。
しかし、再び福野に睨まれる。
「てめぇ、それでいいんだな?」
「だって今先生が言ったじゃーん」
そこで、叶汰の顔から笑みが消えた。
しかしどこか無邪気な顔をして、福野を見つめる。
きょ、叶汰なんか恐ろしい……っ。そう思った瞬間、
「——YO〜YO〜YO〜」
な ん か K Y な 声 が
変な声が聞こえてくると同時に、教室が一気に笑いに包まれる。
後ろを振り返れば、その変な声の正体は——。
今来たと思われる、龍だった。
教室に入ってきても、何故か「YO」と連呼している。
「……ちょ、龍!」
女子が視線で訴え、龍は口を閉じる。
そして前を向き、壱と叶汰を見て「あ」という顔をする。
周りからは、くすくすと笑い声が聞こえる。
龍は一瞬にして気まずい顔になり、そそくさと自分の席へと向かった。
「——お前はこんな風に髪セットしてきてさ、何様のつもりよ」
福野の視線は壱に変わり、同時に壱の髪の毛をボサボサにし始めた。
って、ええええええええええええ。
「……」
……はい、一気に壱の目つきが変わりました。
壱、怖いってその目!!
しかもずっと無言だし、めっちゃ福野睨んでるし怖い怖い怖い。
「……壱、髪セットしてたんだね」
いつの間にか私の後ろに居た優が、小声で呟いた。
私はそれに対し、黙って頷いた。
結構前に、スプレーのワックスがどっちゃらとか言ってたもんね……。
「依麻気づいてたの? 私、全然気づかなかったー。なんかふわふわくるくるしてたけど、ナチュナルだよね」
「……うん」
確かにナチュナル。
ナチュナルだけど、壱怖いって。
「——もういい、座れお前」
福野は再び視線を変え、叶汰に向かって言い放った。
叶汰は「やった」と呟いて自分の席へ舞い踊るように戻って行った。
福野の前には、壱だけが残る。
「お前はどうすんのよ、珠紀壱!」
「……」
「何か言え! これでいいと思ってんのか、てめぇ」
だから、壱の目つきが怖いって。
ハラハラしながら壱を見ていると、壱はゆっくりと口を開いた。
「……駄目です」
「わかってんのかお前?」
「はい」
壱はやる気のない声で、淡々と返事を返していった。
福野は小さく溜息をついた後、「座れ」と壱を睨みつけてそう言った。
壱は方向転換し、無言のまま席へ着いた。
「……ったく。まぁいい、早く皆座れ。学級通信配る」
福野は機嫌悪そうにそう呟き、私も自分の席へと向かった。
福野は前から学級通信を配り、私は回ってきた学級通信に目を通す。そこには、文化祭の役割の決定版が乗っていた。
貼り絵、新聞、装飾——……。
……あ。装飾、壱と同じだ。
一気に胸の鼓動が速くなると同時に、近くの席の疾風が壱の方を見た。
「——壱、あの人……一緒——……」
「——あー……。——」
疾風と壱は、そうこそこそと呟いていた。
よく聞こえなかったけど、なんなんだ。
でもとにかく、壱と同じ装飾でよかった!
「文化祭準備期間は明日からだからな。これで決定だから、サボらず仕事しろよ」
福野がそう言い、他の連絡事項を喋り始めた。
私は学級通信に目を通したまま、福野の話を聞かずに考えていた。
文化祭準備期間こそ、頑張らなきゃ……!!
せっかく壱と同じ係なんだから。
こんなチャンス、逃すわけにはいかない!!
また明日から、気合を入れていくぞ。
私は心の中でそう決意した。