コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 【真】ツキシマヒロトの愉快な部活! (Re:make) ( No.6 )
- 日時: 2013/02/17 22:46
- 名前: 藤田光規 ◆bh.mYRAeMo (ID: kG6g9hX2)
- 参照: 花火「これからここに僕の呟きを載せていくらしいよ」
これは、火事騒動から二週間前。
僕の未来がかなり大幅修正された一日である。
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————重い。重すぎるだろう。
何故だろう?普段にそれとなく持っているものを今日のようにゆううつな時に持つとこんなに重量感が増すのは。
このことから、精神と感覚は至極密接に関わり合っていると考えられる。だが、どんなに物理的な答えを導き出そうとも、僕が抱えている暗澹な気持ちと持っている荷物の重量は全く変わらない。むしろ、余計に重い。
ちなみに、こんなに重い重い言っている荷物の中身は剣道の時つかう防具である。あと、もう一個。言うなればお坊さんが着用する「袈裟」の範囲内にあたる所に竹刀を入れる細長い袋も掛けている。まあ、後者はそんなに重さは感じない。
日常の稽古時にこんなに重い防具を着用し、ぴょんぴょん飛び跳ねられる自分を感動、同時に尊敬する事もできる。凄い凄いぞ僕流石だな!
バカな事を思ってないで、とりあえず、自己紹介をしておこう。
僕の名前は「月島 博人(ツキシマ ヒロト)」。一年生だ。当然の如く剣道部希望。最近この律狩中学校に転校してきたばかりの熟れに熟れたニューなスチューデントだ。
右手に見えるかなり広めなグラウンドでは女子ラクロス部が黄色い声を上げながら白球を追いかけている。彼女たちのひらひら風に揺れるスカートを盗み見るような僕ではない。
そんな横では彼女らと陣取り合戦をするような青い軍勢。見るところによるとサッカー部だ。一言で言うと「スタイリッシュ」だ。かっこいい。
サーッとディフェンスの間をボールと選手が縫い、立ちはだかった一人もヒューッとかわし、ドバーッと寄せてくる相手をも華麗にかわし、スパーンとゴールを決めた。
実況が稚拙なのは御免いただくとしてだ。
さて、僕が今どこへ向かっているかというと、この学校の敷地で最南地点の大きな建物・・・・武道場だ。
前述の通り、僕はこの学校の剣道部に入部しようと考えていた。余談だが、この剣道部は県の中でも無類無敵の強さを誇り、去年にも全国大会の良いところまで楽々進んだという情報が頭に入っていた。そんな噂を聞きつけ、僕がこの学校に転校してきた次第だ。
ただ、一人の不良部員が他校の選手と暴力ざたを引き起こし、大けがをさせると同時にこのチームごと失格になったというオチがついていた。
余談だが、そのトラブルが無ければ全国制覇していたであろう、との半端ではない噂も流れていた。
少しかすれた灰色のコンクリートが敷かれている校舎のフモトをゆっくりと歩く。担いでいる防具袋の重さもあり、自然とうなだれているような格好となる。
しばらく歩くと何かしらの金属で出来た給水場がのぞき、その背景に黒とも藍ともつかない、圧倒的な存在感を放つ建物が見えた。
無論、これが武道場だ。いざ入ろうと足を進めるも思いの外、緊張感と自己匿防反応が僕の体を支配した。足取りが固まる。
どうしようかな・・・また日を改めて来ようかな・・・
心中で弱気な弱音を吐き、身を翻した。
いや、ダメだ僕!決めたろ?この学校に来たからには積極的に生きていくと。深呼吸をした、その時背後に何か気配を感じていた。
「ねぇ。君。どうかしたの?」
「うっ、うわっ!!」
声が聞こえ、慌てて振り返ると、僕より5cmほど背が低い男子生徒がいぶかしげに僕を見ていた。鋭い目つきだ。だが、睨まれてるわけでは無いらしく、おだやかに首を傾げていた。 彼をよく観察してみる。
所々にはねた黄色い髪に、細面の顔。鋭い常磐色の瞳。左耳にはピアスをしている。
紺色の学校指定制服を微妙に改造しているようだ。両手の袖が異様に長く、手のひらをを隠すどころか、長すぎてあと10cmほど袖が余っている。
「いや、だからさ武道場の近くでうろちょろしてたら、部員としてほっとけないんだよ。どうかしたの?」
彼はそう言って腕を組む。
これはまたとない大チャンスと無意識に理解できた。グッドタイミングだ。あっちの方から「君入部したいの?」と言ってるようなものなのだ。今度こそ意を決した。
「はい。あの、剣道部に入りたいんですけど…どうしたらいいですかね…?」
「ああ、そんな事だったの?分かった。いいよ、入って。だけどそれなりに覚悟してね」
「? はい・・・・・?」
男の子はそう言うとスタスタと僕の横を通り過ぎていった。後ろ姿が颯爽としていて、何とも格好いい。・・・背は幾分低めだが。
おっと、つまらないことを思ってしまった。
「? どうかしたのかい?」
「や、なんでもありません・・・!」
凄い。心中覗能力も備わってるようだ。こころの中で、敬礼っ!
ふざけられるぐらいに僕の緊張は弛緩していた。いいことだ。これも彼のおかげ・・・。
でもさっきの言葉は意味深すぎる。「それなりに覚悟して」。どこか怪しい。武道場に死体か生首でも転がっているのだろうか?
まあ、それはいいとしてだ。僕は少々戸惑ったがとりあえず彼に付いていくとする。
「じゃあ、どこでもいいからこの靴箱に靴を入れてよ」と彼。
見るとここの武道場は扉の外に靴箱があるタイプで、靴箱の許と錆び付いた扉は板敷きによって続いていた。
おとなしく、言われたとおり靴を脱ぎ、二段目に収めた。その時間僅か1秒。自分でも自慢にならないことだとしみじみ思う。
「よ〜花火ィ。早ェな〜。」
後ろから軽い声が聞こえた。それと同時にコトリと板敷きが鳴り、茶髪の男子生徒が僕の脇を通り抜けていった。
「おっ、花火。もしかしてこいつ新入部員?」
振り向きざまに口角を上げて僕を指さす。相当、服装は着崩しており、だらしなさと自由さがその男には見えていた。再び観察タイム。
前髪は目にかかるかかからないか程度。猫目で朱色の瞳をしている。制服の襟に付けてある生徒証バッチが青く、二本線が入っていることから先輩、しかも二年生と推理できる。
「はい、空土副部長。新入部員です。さっきここらへんでうろちょろしてたので声をかけたら図星でした」
そう言えば、さっき黄色い髪の彼は『花火』というらしい。後ろ手に親指で僕を差した。
「へー。面白そうじゃねェか」
後に来た先輩らしき人は『空土』というようだ。にやりと怪しく笑い、
「おめェ、名前何てゆーんだ?」
「あっ、月島博人といいます。」
「ふーん…博人ね。」
僕が力みながら言うと空土…さんはますますにやりと笑う。フラフラと武道場に近づいてはその扉を片手に掴んだ。
「んじゃ、今日からおめェは早速剣道部だ。二言は言わせねェ。いいな」
僕はコクリと頷いた。空土はそれを確かめると今度は微笑み、ドアを力一杯開放した。
この黄色い髪の一年生、花火と茶髪の空土。この二人はこれから僕が出会う無数の人の中でも一番僕に影響を及ぼす人物とは…
全く予想出来ていなかったわけでは無かった。